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2話 魔法

 場に沈黙が訪れる。エミリーは目を見開き、口をあんぐり開いたままフリーズした


 そしてその沈黙を破ったのはエミリーだった。彼女は額に手を当て、深呼吸を繰り返している


「待って待って…。あなたが転生者? じゃあ小さい頃から話してたのはあなたなの?」


「違います。つい今さっきこの体に入りました。なのでこれからのことは…」


 アナスタシアが続ける前にエミリーがアナスタシアの胸倉を掴んだ


「ッ……」


 アナスタシアは胸倉を掴まれたまま片手でベッドから出され、空中でぶら下がった


 アナスタシアはエミリーの腕を掴み、抵抗する。しかし、ありえない力で掴まれており、びくともしない。一体そんな細い腕の何処にそんな力があるのだろうか


「話を…、聞いて…ッ……」


「黙れ!」


 アナスタシアはそのまま床に落とされた。アナスタシアは胸元を押さえ、激しく息を吸い、少しずつ息を整える。見上げるとエミリーも過呼吸になっており、立ち尽くしたまま息を荒げている


「はぁっ…はぁっ…はぁ…っ…!」


 その顔は怒りと憎悪で満ちていた。その矛先はアナスタシアである


「あなたが…。あなたがアナスタシアお姉様を…! ころす……ころす…殺す!」


 アナスタシアの背筋が凍った。殺気だ。アリス時代に殺された時の業務的な殺気とは違う。恨みがこもっている



 殺される…。でも、また転生すれば……。嫌だ…! 死ぬのは怖い。今更だけども、僕は死にたくない。そもそも次も奴隷スタートするわけにはいかないんだ! 貴族として王族に近づけば蒼華を助けられるんだ…。ここで死ねないっ……


「こっちに来るなぁぁ!!」


 喉が枯れる程の声量で叫んだ。アナスタシアは自身を守る為に右手を前に出した。その瞬間、手元に小さなつむじ風のようなものが出来上がり、サッカーボール程の大きさになってから、凄まじい勢いでエミリーの腹部に直撃


 もろに食らったエミリーの体はくの字に曲がり、吹き飛んだ。十メートルは飛んだだろう。エミリーは凄い音を立て、ドレッサー横の壁に激突した


 ドガッァァァン!


 近くの棚に立て掛けてあった本がいくつか床に散らばる


「え…? な、何で……」


 今の…、僕の手から出たよね…? あぁ、間違いない…。魔法ってやつだ……



 そうこうしてる間に、エミリーは椅子に手を掛け、ムクリと起き上がった。埃を被ったようだが、傷は見当たらない。エミリーは震える手でアナスタシアを指差す


「あ、あなた…! なんで撃てたの!? アナスタシアお姉様は、風属性の魔法は使えたけど、そんな威力の魔法は使えなかったわ!」


 エミリーは再び地面に尻をついた。腰が抜けて動けない。そして、バケモノを見るような目で、アナスタシアを見つめている。先程までとは違い、エミリーの目に映っているのは殺気ではなく怯えだ


「た、頼むから話を聞いてくれ!」


 アナスタシアが一歩近づくと、エミリーは顔を引きつらせ、恐怖で歪めた


「わ、分かった…っから……」


 よし、何とか話し合いに持ってこれた…。念の為攻撃されないように距離を置くか



 アナスタシアは攻撃されることを警戒し、エミリーから3m離れた所で正座した



 そこから僕は語った。元の世界からこっちの世界に来たこと、ベルの事、エルフになったこと、蒼華の事…、全部話した。語りきったあとで、話して大丈夫だったかと少し不安になる。でも、エミリーは話を聞いてるうちに段々と距離を詰めてきていた。顔から恐怖は抜け落ちて、頷いたり、相槌を打ったり、質問したり。さっきまでのギスギスした空気が嘘のようだった



 エミリーがアナスタシアの話を一通り聞き終える頃には、目元をハンカチで拭っていた


「ズズッ…! 大切な仲間を守る為に、これからも頑張ろうと…ぐすんっ……」


 コイツ涙脆いな……。と思ったが、言ったら殺される可能性があるので黙っておこう



 エミリーは涙を拭い終わると、真剣な顔でこちらを見つめ、ぐいっと顔を寄せてきた


「分かりました。流石に放置は出来ませんわ! 貴方の仲間を助ける為に協力しましょう!」


 え!? チョロ! あ、でも聞きたいことがあるな


「エミリー。最初僕が偽物だって、なんで気づいたの?」


「それは、目の色です」


「色?」


 予想外の言葉が返ってきたな…。目の色?


「元々アナスタシアは何色だったの?」


「鮮やかな紅色の目でしたわ」


 アナスタシアは暫く固まった。そして絞り出せた言葉が―――


「え…?」


 え…? つまり碧眼じゃないってこと!? 待てよ…、僕が移った相手は碧眼になるみたいなことか!? 元の目の色問わずってことか……。そりゃ身内にはバレちゃうね―――って…、ん?


「じゃあなんでエミリー以外の人は気づかなかったんだろう…」


 するとエミリーは少し俯き、目を逸らした。やがてため息をつき、真っ直ぐアナスタシアに向き直った


「アナスタシアお姉様は部屋に引きこもり、誰かが部屋へは入れば物を投げつけていました」


「え……」


 それなら話の辻褄が合う…! だから最初のメイドは僕に話しかけられて驚いたのか!


「私は、そんなアナスタシアお姉様に厳しくしなければと思い、きつく当たっていました……」


 うん、それで僕の耳元であんな事を言ったんだな……



 エミリーは気を取り直す様に、勢いよく立ち上がった


「と、とにかく! まずは情報集めです!」


 アナスタシアとエミリーの姉妹は、共に戦う道を選んだ。蒼華を救う為に―――


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