3話 お姉様
僕とエミリーは、情報集めの前にとある事を行う。他の人との顔合わせだ。僕たちはまず、インファルム家の長女…。つまり、僕たちの姉にあたる人物に会うことに
「スカーレットお姉様は、賢い方です。いつも私のことを助けてくれて……」
「いい人そうだね。なら話は早いかな」
「ところで…、お姉様の部屋の前に使用人達がいる食堂を通りますが……。事情を知らない者達に話しますか?」
「そっか…、今昼間だから昼食の準備してるのか……」
エミリーの言葉に、アナスタシアは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに首を横に振った
「ううん…、大丈夫。使用人達は噂だけで十分だと思うし」
「ですが、直接覚えてもらったほうが……」
するとアナスタシアは人差し指を立て、左右に振る
「ちっ、ちっ。分かってないなぁ…。どうせ引きこもりで顔覚えてもらえてないじゃん。必要ないよ」
「ッ……」
その場に沈黙が訪れた。最初首を傾げていたアナスタシアも意味に気づき、一気に青ざめた
「ご、ごめん! 軽蔑したつもりは…!」
「あ、え、えぇ…。大丈夫ですわ……」
口ではそう言ったエミリーの顔はどこか暗く、俯いていた
ヤバいやらかした! 流石に今の失礼だよな……
その後、エミリーが僕を案内してくれたけど、会話はほとんど無かった
「そろそろかな………え?」
アナスタシアは動けなくなった。廊下の窓の外に見える景色が、あまりにも綺麗だったから
この屋敷は大きな街に建っていた。エレンタウンやケノタウンとは比較にならない大きさの面積。それに伴い、建物の数も多くなる。丘の上のこの屋敷から街を一望出来る。街は大きな壁で囲われているが、整地はせず、山ごと街にしたような地形になっている
「綺麗……」
その言葉がアナスタシアの口からふとこぼれた。その言葉を聞き、エミリーの耳がピクリと動いた。そしてゆっくり振り返る
「えぇ…、ここは王都ですから……」
「ねぇねぇ! あの城何!?」
アナスタシアは窓に乗り出した。アナスタシア達から見て左側に大きな城が見える。その城は山の上にドスンと圧倒的な存在感を放っている。いかにも西洋といった立派な城だ
「あれはグランド城です…。この国のトップですね」
「ふぅーん…。グランド…?」
どこかで聞いたような…。まぁいいか
エミリーは窓際から離れ、歩き始めた。アナスタシアは後ろをついて行く
やがてたどり着いたのは木製の厳重な扉。どこか近寄り難いオーラが漂っている
扉の前には若いメイドが2人控えており、アナスタシア達が近づくとお辞儀をした。慣れているような丁寧な動作だ
するとエミリーがアナスタシアにそっと耳打ち
「スカーレットお姉様に逆らわないように頼みますわよ……」
「え…。うん……」
よっぽど怖い人なのか…? てか逆らわないって、どういうこと? 敬語使えってことかな…?
すると、メイド2人が両開きの扉をゆっくり開いた。扉が開けば開くほど、眩しい光がアナスタシア達を照らした
「んっ………、あ……」
目を細めていたアナスタシアは、ゆっくり目を開けた。そこに広がっていた光景は、どこか懐かしいような感覚だった
部屋の中には本棚が大量にあり、奥の窓の手前には書斎机。そしてその革製の椅子に座っている女がいた
エミリーが部屋の中に入っていき、アナスタシアも慌てて後を追う。メイド達は扉をガチャリと閉めた
女はソーラーをもち、コップの中の紅茶を飲んだ
女は白く長い髪に、白い百合をあしらったドレスを着ている。穏やかな雰囲気の美人だ
「あ…こ、こんにちは! 私はアナスタシアです! っていうのもなんか変ですが……」
「フフ…、そんな固くしなくても大丈夫ですよ」
女は立ち上がり、アナスタシアの前に出た。女はアナスタシアより10cm程身長が高い。アナスタシアが低い訳では無い。むしろアナスタシアの身長は165cm程あり、女性の平均を上回っている。つまり、この女の身長は軽く見積もって175cmはあるということだ
女はゆっくりと丁寧なお辞儀をした。エミリーがそれに合わせてお辞儀をするのを見て、アナスタシアも慌ててお辞儀をした
「私はスカーレット・インファルム…。貴女とエミリーの姉よ。大体の話は聞いたのだけど…。それで聞かせて欲しいの、詳しくね」
気づくと、アナスタシア達の背後に木製の椅子が置いてあった。エミリーは躊躇いなく座った。慣れているのだろう。アナスタシアも座ると、正面のスカーレットも同じ椅子に腰掛けた
スカーレットが膝の上で頬杖をついた瞬間、空気が止まった……―――ように感じた。スカーレットの目には怪しげな光が宿り、紅色の瞳がアナスタシアを見つめる
「で…、私の聞いた話だとアナスタシアは記憶喪失だと……。そう伺ったのですが、貴女はアナスタシアではない何者か。そしてエミリーに手を貸してもらおうとしている」
「ッ…―――」
アナスタシアは驚いた顔をしたが、深く深呼吸し、スカーレットに向き直った
「はい、自分はアナスタシアではありません……」
「そう…。認めるのね」
次の瞬間、スカーレットはアナスタシアに飛び付きに来ている。動きが常人のそれではない
え―――
アナスタシアが言葉を発する間もなく、両肩を掴まれていた。後ずさることも出来ず、アナスタシアは固まった
しかし、スカーレットの行動は予想と違った
「うわぁぁん! やっぱりそうなの!? アナスタシアァァァ!!!」
スカーレットが思いっきり肩を揺さぶる。アナスタシアの目が回るほどの勢いだ
「ちょっとっ…ストップゥ!」
スカーレットが動きを止める気配はない。先ほどの知的な雰囲気からは一転、子供の様に泣きじゃくっている




