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1話 記憶喪失の令嬢

 手な訳で…、僕は記憶喪失という体で情報を集め始める事にした。メイドや執事が部屋に沢山来て大騒ぎ。そして得られた情報。僕は今アナスタシアという名前らしい。そしてインファルム家の次女であると。暫くして、僕の妹だという女の人が来た



 その女は、アナスタシアより赤みがかった茶髪で、赤くて綺麗な瞳。バラをモチーフにしたドレスを着ていた。女は、ベッドに腰をかけるアナスタシアに目線を合わせるように屈み、心配そうな眼差しで見つめている。後ろに控えていた執事やメイド達は、互いに目配せをしてから下がって距離を置く


「アナスタシアお姉様…。私のことを覚えてらっしゃいますか…? 私ッ…エミリーです…」


 その女はエミリーと名乗った。エミリーの瞳は潤い、すぐに泣き出してしまいそうだった


 エミリーはゆっくりと顔を近づけ、アナスタシアの耳元で囁いた


 ―――はぁ………。調子乗ってんじゃねぇぞお前。周りの視線集めたいのか?―――


 アナスタシアは動かなかった。動けなかったのだ。殺気ではない。アナスタシアがつい今さっき殺された際に殺気は感じた。だがタイプが違う。本気で殺す時に出る殺気と脅しに使う圧は違う。危害を加えるわけではない。精神的に恐怖を叩き込みに来たのだ


 エミリーの表情は明らかに姉に向ける顔ではない。冷め切ったような、見下した眼差しだった



 嘘でしょ…。実の姉にこんなこと言うの……。でも、なんか少し変だな。本気で嫌ってる感じじゃなくて……



 エミリーがそっとアナスタシアから離れ、屈託のない笑みを浮かべた。側から見れば、記憶喪失の姉を怖がらせぬように優しく微笑む妹。しかし一瞬、アナスタシアにだけは見えた。細めた目の奥から悪意に満ちた光がチラついたのを


「あ、あの……。アナスタシアお嬢様。顔色が優れませんが…、少し休憩なさっては?」


 一人の執事がアナスタシアに伝えた。その言葉に、アナスタシアはゆっくり立ち上がり、メイドと執事が道を開ける。やがてドレッサーの前に立ったアナスタシアは呆然とした


「あ……」


 その顔は確かに青ざめ、体調不良以外のなにものでもなかった。実際は恐怖から来たものなのだが、周りの人間に読み取る術はない。アナスタシアはゆっくりベッドに戻って行く。その様子を見て、メイドと執事達はそっと去って行き、残ったのはアナスタシアとエミリーのみ。そしてこの状況が非常に不味い事態である事を、アナスタシアは理解している


 両開きの扉がガチャリと閉じる音を最後に、部屋には沈黙が訪れた。エミリーはニコリと笑ってアナスタシアを見つめるだけで動かなければ喋りもしない


 アナスタシアはそっと布団に入る。エミリーの動きを気にしつつも、少し目を逸らす



 全く…。病人が寝始めたんだからどっか行きなよ……



 次の瞬間、エミリーの笑顔がスッと消え去った。頬を赤くしながら歯を食いしばり、鋭い眼光でこちらを射抜いている。殺意。脅しではない本気の殺意


 エミリーはそのままアナスタシアの横に立った。腕を組み、品定めをしている目だ


 部屋に沈黙が訪れ、互いに無言で見つめ合う。暫くしてエミリーは口を開いた


「貴女…。アナスタシアお姉様じゃないわね?」


 え…? ………なんで?



 アナスタシアは固まった。何故バレたのだ?その疑問がアナスタシアの頭を過る



 見た目はアナスタシア本人のはず…。だとしたら動作が何か不自然だったのか?


「で、あなたは誰なの?」


 分からない。ここで正体を明かして今後に影響がでない保証はない。でも、もう隠しようがない……


「なんで気づいたの?」


 アナスタシアは思い切って聞いた。この告白が影響を出さない確証なんてない。しかしここで一か八かの賭けに出る


「舐めるな……」


 やばい、怒らせた…?



 次の瞬間、上半身を起こそうとしたアナスタシアの首筋にエミリーの手が添えられた。手刀が入る直前の位置。手はヒンヤリしていて冷たい。しかし、物理的なものとは違う冷たさも混じっていた


「あなたはアナスタシアお姉様じゃない…。偽物なの」


「1回…。は、話を聞いてくだ…さい…」


 エミリーは手をゆっくり下ろし、腕を組んだ。どうやら話は聞いてくれるようだ



 何処まで話していいんだ…? 蒼華の時は話さなかったけど、初対面の相手なら大丈夫か…? ………他の人に他言するとは考えられないけど…。よし…―――



 アナスタシアは俯いていた顔を震えながら上げた。その目はエミリーを正面から見つめ、迷いはなかった


「僕は……」


 部屋にそよ風が入り込み、カーテンが揺れる。陽の光がベッドの毛布に当たって埃が舞っているのが見える


 アナスタシアは唾を飲み、口を開いた


「僕は…、転生したんだ……」


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