終話 濡れ衣
「え…あ、その!私はこの子達を助けようと…!」
「嘘をつくな!貴様が今ここに立っていることがなりよりの証拠だ!」
「そ、そんな…。」
奴隷の子供達が蒼華を見つめる視線は明らかに歓迎ではない。恐怖、憎悪、殺意。助けようとしてた蒼華からしたら理不尽な話だが、子供達からしたら買われた後の恐怖を想像させた憎き相手でしかない
蒼華の顔に浮かんだのは悲しみだった。ただただ悲しんでいる
そしてアリスは知っている。あの悲しみは濡れ衣を着せられたことではない。自分の先ほどの発言が子供達を怖がらせていた事だ。そしてその沈黙が騎士たちを更に勘違いさせた
「無言か…。肯定と受け取る。私達は王子直属の騎士団。奴隷商売の取り締まりを行っている」
え?…王子ってあの王子だよね?ベルが言ってたやつ。とんでもない化け物だとか………って、今はそれどころじゃない!このままじゃ蒼華が…
『殺す…』
は…?今の声って誰の…
アリスは路地から飛び出そうとした。しかし、飛び出せなかった。何者かがアリスの腕を掴み、離さない。アリスが振り解こうと必死になるも、その手は剥がれず、アリスが顔を上げて目を合わせようとした瞬間―――アリスは腕を引っ張られ目を斬られた
「キャ…」
悲鳴をあげる間もなく、首を切り落とされた。路地裏に鮮やかな血が広がっていく。人間と違ってエルフの血は鮮やかなのだ
嘘でしょ…。顔見る前にやられるなんて…。また斬られた…。でも、前より苦しくないな………。また転生とか出来ないかな?出来たら、蒼華を助けて…ベルと合流して…。あ、俺と一緒に倒れた堕天ファイターズはどうなったのかな?死んでたら弔ってやろう…
アリス…いや、ゆずきの二度目の人生が幕を下ろした。ゆずきの意識は暗い海の底へ沈んでいくようだった
んん………。あれ?意識が戻ってきた。そうか、また転生したのか…。ふざけんなよ…って言いたいところだけど、これで蒼華助け出せるかもね。よし、起きて状況確認したら助かる作戦を練ろう………。んー?今回は床が硬くないな…。むしろ柔らかい。ベッドかな?まぁ、奴隷に転生ってのが珍しかっただけだと思うけど。お、天井が見えてきた。………え?何これ。布のカーテン?………は!
ゆずきが勢いよく顔を上げた。朝日が差し込んで少し眩しい。そしてここはベッドの上のようだ。周りを見渡すと、高そうな家具ばかり。どれも白くてツヤツヤしている。ゆずきはそっと起き上がり、真っ先にドレッサーに向かう
真面目に今回はどんな姿なんだ!?部屋の内装的に貴族!それなら早く蒼華を連れ戻せるはず!
ゆずきは息を荒くしながらも鏡の前に立つ。すると一瞬固まってから不敵な笑みを浮かべた
ゆずきの姿は20歳手前の女性のものだった。髪は茶色く、アリス同様に再び碧眼。白いガウンを羽織っている。身長は165cmほど。女性平均より高い為、ゆずきやアリスの時代より行動しやすいだろう
あーあ、全く…。何故か碧眼の女性って縛りだけど…。僕は転生できてる!まずは状況確認から始めよう…
『どうせ閉じこもって出てこないような出来損ないを何故起こさないといけないんでしょうかね…』
は?今の声…
トントン。軽いノックの後に、ゆっくり扉が開く。入ってきたのは年配のメイド。少しぽっちゃりしていて、仕事が出来そうな雰囲気だ
「アナスタシアお嬢様。おはようございます」
「おはようございます」
ゆずきは自然ににこやかに笑って返した
次の瞬間、メイドは尻餅をついた。恐る恐るゆずきを指差している。その表情は、まるでバケモノを見るかのようだ。体が震えており、顔が青ざめている
「あ、え…あ…」
その言葉を最後に、言葉は途切れた。メイドは白目を剥いて失神しているのだ
え…?どういう事!?僕挨拶しただけだよね!?こんな驚く?―――あ!もしかして貴族は使用人に挨拶しちゃ駄目とか?…だとしてもあんな驚かないよね?
とりあえずゆずきは、メイドを起こすことにした。起こさないことには何も始まらない
ゆずきは軽くメイドの頬を叩いてやる。するとメイドの瞼が動いた。そろそろ目が覚めるようだ
目を覚ましたメイドは先程と同じ顔をしている。目が覚めて早々、主人の顔が目の前にあるのだから多少は驚くだろうが、ゆずきはその反応に違和感を感じた
「あの…」
「は、はい!」
メイドは立ち上がって背筋を伸ばした。その表情は怯えとは少し違うものを感じさせる
「私が挨拶したの、そんなにおかしいですか?」
「え、えっと…。アナスタシアお嬢様はいつも使用人が起こしに来ると、怒鳴って物を投げられますので…」
「え…?」
物を………投げる…?………ちょっと待って!?今とんでもない性悪令嬢に転生したとか!?え!?よくある悪役令嬢に転生するやつ!?………どうしようどうしよう!………あ!そうだこうしよう!
「あの…」
メイドは次の言葉を待つように唾を飲んだ。数秒の沈黙の後、ゆずきは口を開いた
「ここはどこ?私は誰?」




