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5話 二度目のクエスト

 イサキョウ…?………イサキョウってなんだ?蒼華の苗字って―――



 アリス(ゆずき)は、あの白い空間で話している時に名字を聞いていたことを思い出した。確かにその時蒼華が名乗った苗字は伊沙京ではなかった


「うっす…。一応記入終わったんで、これで晴れてこの子(アリス)も冒険者っす………。あの、一ついいっすか?」


 ウガーフは少し周囲を気にしてから、蒼華に対して手招きするような動作をした


 蒼華は不思議に思いつつも、周りを見渡してから、ウガーフの口元に耳を近づけた。するとウガーフは少し言いにくそうに小声で言った


「あの…一応貴女の冒険者カードも書き直せるっすよ?ソウカ・サイオンジさん…」


 アリスは蒼華の動きが止まったのを見ていた



 そうそう!最初西園寺って聞いたんだよ!



 蒼華はフードの下で目を逸らして


「な、なんのことやら〜?」


 冷や汗をかきながらすっとぼけた


 ウガーフは再び蒼華の耳元で続けた


「分かってるっす。前回ソウカさんが名乗った瞬間に異世界人だってバレて、ギルドから追い出されたから、サイオンジって使う訳にはいかなかったんっすよね?」


 蒼華はハッとしたように一歩下がった。暫く声を出せなかった


 数秒の沈黙の後、アリスが軽く挙手をした。2人の視線がアリスに集まる


「えっと…いせかいじん?ってのが駄目なんですか?」


 ウガーフは一瞬肩を落とした。そして前のめりにカウンターから乗り出してアリスの肩に手を置く


「違うっす。駄目なのは怖がりなアイツらっす」


 怖がり?え…。単なる嫉妬じゃなかったの?確かに思い出してみれば―――



 エレンタウンのギルドでの皆の反応…。僕らに対する反応…。妬みとかそういう系統じゃなかった。もっと何か…。怯えてる…?


「早速クエスト受けるっすか?」


「はい!」


 そんなわけでクエスト探しが始まった。最初から受けられるオススメのクエストを、ウガーフがいくつかリストアップしてくれた。雰囲気はやる気なさそうだけど、仕事は出来るみたいだ。もちろんFランクからスタートだ。蒼華にとっても初クエストだ



 さてと、どのクエストにすればいいかな…。お?


「私、スライムコアの回収が良いです」


 そうそう、リベンジも兼ねてね



 ウガーフが飲んでた紅茶を吹き出しそうになった


「ゴホッ!ゲボッ!ゴホン!………え?」


「あ、アリスちゃん?このクエスト、すごーく難しいのよ?」


 え…。スライムコアの回収が、難しいクエスト…?―――でもエレンタウンの受付の人は僕らに勧めて―――


「これはAランク冒険者以上じゃないと挑めないっす………ゲホッ」


 むせながらも机を拭いてるウガーフが答えた


 アリスの中でゆずき時代の記憶が脳内を巡る。そしてピースが当てはまった



 そうだ…。あの受付に騙された…



 アリスはエレンタウンの受付嬢の顔を思い出していた。あの優しかった顔は、アリスの想像の中ではゲスい顔で生成されている


「アリスちゃん…アリスちゃん!」


 本当にムカつく…。結局あの人も僕らのこと嫌いなんじゃん…


「アリスちゃん!」


 はっ………。呼ばれてた…?


「え…?あ、はい」


「大丈夫?顔青かったけど…」


 あ、顔に出てたのか…。危ない


「ごめんなさい。考え事してて…」


 喋らずに黙っていたウガーフが一息ついてバインダーを眺める


「そうっすね…。まずは薬草採集とかそこら辺ですね。まず今日は一回休んでください」


 ウガーフに言われて、2人はギルドをあとにした。時間は既に昼になっていた


「アリスちゃん…。ベリー乗せクリーム食べに行こっか」


 蒼華はアリスに合わせたペースでゆっくりと歩く。気づくと2人は手を繋いでいた






―――その日の夜。エレンタウン


「では明日、ゆずきの手がかりを探す為、再び湿地の森に行きます」


 ベルと堕天ファイターズの面々が、ランタンの明かりのみの薄暗い部屋で会議を行っていた。各々で椅子に座って円を作っていた


「俺らが必ず生き返らせる…」


 カケルが拳を握った。それを見て堕天ファイターズのメンバーは全員で頷く


「では各々自分の部屋へ。お疲れ様でした」


 全員立ち上がり部屋へ戻っていく。全員がゆずきの抜け殻を通り過ぎ際に眺めた。ベルの魔法で腐らないように肉体を保存しているため、その姿はまるで眠っているようだ


「カリンは残ってください…。話があります」


 ミナは首を傾げたが、カリンの肩に手を置いて、自分が出た後にゆっくりとドアを閉めた


 ベルとカリンが二人っきりになった空間はシーンとしていた


「こうして二人っきりで話すのは初めてですね。林田香凛…。いえ、林田香凛は本名ではありませんね?」


 一瞬、時が止まった様に静まり返った。それが夜の静けさと相まって、不気味な空気を作った


「ちょ…何言ってるんすか!?私は本当に―――」


 次の瞬間、ベルから冷たい覇気が漂った。その覇気が空間を支配し、カリンを圧倒する。そしてカリンは諦めた様に笑った


「凄い…流石神様っすね」


 カリンの目には恐怖など微塵もなく、ただベルを見つめていた


 お互いに見つめ合うだけで動かない。するとベルが一息つく


「貴女、そもそも私の召喚した転移者ですらありませんよね?召喚主の私が気づかないと思いましたか?」


「そこまでバレてたんっすか。私もまだまだっす」


「貴女は堕天ファイターズの他のメンバーに同じく私に召喚された転移者だと嘘をついて同行した…。目的を明かしてください」


「断ったら?」


 ベルは一歩身を引いて低く構えた。左腕を後ろに伸ばし、脚はすぐ踏み込める体制に


「この場で消します」


 カリンは猛烈な笑みを浮かべた。ベルのことを全く恐れていない


「早くやってみるっす」


 次の瞬間には、ベルがカリンの目の前にいた。カリンは未だ笑みを浮かべ、動く気配はない


 ベルが左手を思いっきりカリンの頬めがけて振る。左腕を後ろに向けていたのは距離を詰める勢いで腕の速度を上げるためだったのだ


 しかし、その手が触れることは無かった。カリンは床に倒れてビクともしない


 ベルがしゃがんでゆっくり首筋に触れる


「………死んでます」


 恐らく、この体は抜け殻でしょう。ゆずきとは違い、本体がどこかにある状態での抜け殻…




―――その頃、ケノタウン某所


 暗い部屋でロウソクだけが明かりとなっていた。木製の椅子の上には一人の人影がある。その人物は椅子にもたれかかり、天井を向きながら手を目元に置いて、乾いた笑いを浮かべていた


 その人物の頭を巡っているのは、ゆずきとアリスの姿


「ハハ…間違い無いっす…。安藤ゆずきとアリス・イサキョウは…」


 ―――同一人物っす―――


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