3話 ベリー乗せクリーム
―――翌朝
「う…うぅん…。アリスちゃんおはよ…」
蒼華は上半身を起こして伸びをしている。そして眠たそうな目をこすりながらベッドから降り、スリッパを履いた。そしてそのタイミングでアリスの瞼がゆっくり開いた。目の前には棚と机が薄っすら見える。蒼華に背を預けて寝ていたからだ。ゆずきは昔から安心出来るもの以外に背を向けない。アリスはゆっくり上半身を起こして半目を開ける
「おはよぉございます…」
眠そうに呟いた。その声を聞いて蒼華はニッコリ笑った
「おはよ。昨日はお着替えしないで寝たから朝ご飯食べに行く前にお着替えしましょうね」
「はい。服は昨日買いましたし…―――」
あれ…?―――昨日買った服って………
「アリスちゃん!どれがいい?」
蒼華が床に並べたのは昨日買った服。つまり―――
「このドレス?それともこの別バージョンのメイド服?このメイド服も青っぽくて可愛いよ!」
すっかり忘れていた。昨日買った服はドレスやメイド服ばかりだ
蒼華…お前は絶対つい最近まで着せ替え人形で遊んでたタイプだな!
アリスは結局メイド服を着せられたフリフリのレースに黒いリボン。更にはカチューシャまで着けられた
外に出ると冒険者何人かとすれ違った。そして冒険者だけでなく一般市民達も皆、ゆるゆるの格好を見ている
くぅぅ…マジで恥ずかしい。どうすれば…
蒼華は手を繋いだままニコニコして歩いている。すると何かを思い出したようで、立ち止まってしゃがみ、アリスと目線を合わせる
「えへへ、言い忘れちゃう所だった。アリスちゃん」
空気が変わった。蒼華のその顔は、いつもみたいに優しい雰囲気はあるが、どこか真剣だった
「今日はね、アリスちゃんにとって大切な日なの」
「大切な日…ですか?」
「今日はご飯を食べ終わったら、冒険者ギルドに行きます」
「はい…」
え?なんか用事でもあるのかな…。でも僕関連の事なのか…。まさか…―――
「流石にないか…」
「え?何が?」
「いえ、何でもありません」
あっぶな!口滑らせちゃったよ…。でもいつまでも正体を隠してるわけにはいかないよね…
そもそも言っても信じてもらえないと思ってた。でも今になって後悔してる。言っておけば良かったと…―――
今言えば、蒼華は恥ずかしさで失神するだろう。実は自分がメイド服を着せていたのは、顔見知りの少年であっただなんて知ったら誰だってそうなる。そもそも、そうでなかったとしても四六時中メイド服を着せるのはかなり人の目を引くだろう
今日の朝食は蒼華の提案で食べ歩きとなった。異世界というのは四六時中祭みたいなものだと思う。ここは昨日とは違う地域だ。昨日の地域は奴隷商が普通にうろついてる危険なゾーン。食料不足の子供達が沢山冷たくなっていた。しかし、ここは昨日とは打って変わって活気に溢れている。エレンタウンを思い出す
あ〜あ…。ラビの店にまた行きたいな…
アリスと蒼華は屋台の前に立ち、看板を眺める
「えへへ、美味しそう…」
蒼華は満面の笑みでメニューを眺めている。メニューにはこちらの世界の言語で「ベリー乗せクリーム」と書いてある
二人でベリー乗せクリームを頼んだ。暫く経つと屋台のカウンターに置かれたのは、どこからどう見てもショートケーキだった。この世界ではイチゴの代わりに赤い実を使うらしい。それが木製で簡素な皿の上に乗せられ、隣にフォークが置かれている
「え!嘘!ケーキ!?」
蒼華は目を丸くして驚いている。周りの通行人や、屋台の店主も一瞬チラリと蒼華の方を見た。その驚く気持ちはアリスは理解できていた。何故ならアリスも心のうちでは―――
マジで!?え!?マジで!?。ケーキあんの!?
異世界から来た若者二人はケーキに再び再会出来た事に感動を覚えている。そして二人の心の声が重なる
「「異世界…最高!!!」」
完食すると二人は皿とフォークをきちんと捨てる事に
「あれ?ゴミ箱は?」
ん?本当だ。今まで気づかなかったけど、ゴミ箱ってこの世界にあるのかな…?
結論、場所によってはない。ゴミ箱というのは王都や大きな街、つまり都会にしか存在しない。別にエレンタウンやケノタウンが小規模な訳ではない。エレンタウンに関しては都会と言われる街々の次ぐらいの規模と言われている
しかし、この二人が今その真実に辿り着く術はない。二人がこのことを知るのは、また別のお話
そして歩くこと数十分。エレンタウンのギルドと同じ作りの建物を発見。ケノタウンの冒険者ギルドだ。そしてエレンタウン同様に、左右に装備屋と道具屋がある。どうやらこの配置は定番らしい
あ…。蒼華に伝えないとだよね。冒険者ギルドは異世界人を受け入れてない人が多いって…―――あれ?
アリスはその場で固まった。何かを見落としていた。それは蒼華の格好だ。鎧を着ている。要するに蒼華は既に冒険者だ
え、じゃあ知ってるのかな…
蒼華は布を被り、頭に巻いた。アリスは蒼華に口で言われたわけではない。だが、その布を被るという行為の意味が分かった気がする




