2話 新たな生活
―――アリスと蒼華が夕食に向かう頃―――
少し離れたエレンタウンでは、ベルと堕天ファイターズの面々が、宿の一室で話し合いを始める。明かりは天井に吊るされたランタンのみ
カケルは椅子の背もたれの上で腕を組み、逆向きに跨っている。ハルキは壁に寄りかかって腕を組み、ミナとカリンは部屋に一つだけあるベッドに腰掛ける。そしてベルは四人の中心に立っている
「では、今回の出来事について話し合いを始めます」
その言葉を境に、暫くの間、沈黙が流れる。各々俯いたまま喋らない。やがて口を開いたのはハルキだった。ハルキは軽く挙手
「いいか?」
「ハルキさん、どうぞ」
ベルから発言の許可を頂くと、ハルキは挙手をやめ、周りのメンバーを見渡してから喋り出す
「ベルさん…。あんたは今回の出来事はどうやって起きたことだと思う?見当は付いてるのか?」
そして再び沈黙が流れる。ミナは膝の上で拳を強く握りしめ、カケルは背もたれの上で組んでる腕の上に顎を乗せる。ベルはふと一息ついてから
「………今回の惨劇は間違いなく敵意のあるものでした。皆さんが見た空から降ってくる球体は………」
その場の誰もが息を呑んで、ベルの次の言葉を待つ
「あれは爆弾でしょう。爆撃の代わりに斬撃が飛ぶタイプの…」
口をあんぐり開いたまま閉じない。彼らの国に、斬撃が飛ぶ爆弾など存在しないので無理もない
「魔道具屋などにも売ってる衝撃爆弾という物を使ったのでしょう。インパクトボンバーに魔力や斬撃を当てると、インパクトボンバーに衝撃をインプット出来ます。インプット出来るのは一撃のみの使い捨てですが…」
カケルは目を閉じ、うめき声をあげて悩んでいる。ミナとカリンは顎に手を当て、ハルキは床を眺めるように俯く。誰も口は開かない。この場の者は気づいているのだろう。神のベルですら誰がボンバーを投下したのか、ゆずきの魂は何処に消えたのか、その2つの真実に辿り着けないことを―――
「ゆずき…。貴方の魂は必ず見つけ、生き返らせます」
ベルはもうじき日が沈む空に向かって、そう誓った
部屋の隅には台の上に置かれたゆずきの抜け殻がある
―――一方その頃―――
「う〜ん…!やっぱり美味しいぃ!」
アリスと蒼華は肉塊食堂に来ていた。当然、ここはエレンタウンじゃないのでラビが経営してる店では無い。ラビが経営してる店は、どちらかと言うと居酒屋っぽい。しかしこの店はレストランっぽい。こちらの方が値段もかなりのものだ
「私的には、ケノタウンで一番美味しいかな〜!」
「ケノタウン…」
アリスはかつて聞いたことを思い出すように呟いた。アリスはハッとした様に顔をあげる
そうだ思い出した!ケノタウン!エレンタウンより北にある街だとかなんだとか
そして一つの考えがアリスの頭をよぎる。「案外近いんじゃね…?」
何か考え事をしてるアリスを見て、少し不思議そうに首を傾ける蒼華
「ん?アリスちゃんたくさん食べて!」
すると蒼華は何か思い出したようで、手をポンッと叩く。すると少し恥ずかしそうに顔を赤らめて
「あ…アリスちゃん…。その…。蒼華お姉ちゃんって呼んでくれないかな…?」
沈黙が流れる。店の騒音が遠のいていく気がした。すると蒼華はみるみる顔が赤くなっていき―――
「あわわ…!忘れて!」
顔の前で手を振って誤魔化そうとする。耳まで真っ赤だ
しかしアリスの無表情は崩れない。その碧眼はただ蒼華を捉えている。だが内心は―――
ヤバい、めっちゃ面白い…。無表情崩しそう…。だけど変に感情出して正体バレたら………
今とは比べ物にならないほど赤面した後に穴を掘って引きこもる蒼華を想像した
うん…。めんどくさそう
「あ………蒼華、お姉ちゃん…」
蒼華はその言葉を聞いて、鼻血を出しながら後ろに倒れた
「しあ…わせ…。ガクリ」
ダイイングメッセージだろうか…。鼻血で床に「キュン死」と書いている
「お客様!?大丈夫ですか!?」
ウェイターの女性が寄ってきた。傍から見れば、小さいエルフの少女を連れた、鎧を着込んだ冒険者の女性が酔い潰れたようにしか見えない。特に大事にされることも無く、蒼華はおぼつかない足取りでアリスの手を握って店を出る
宿に着くと、蒼華は靴を脱いでからベッドにうつ伏せでダイブ。ゴロンと寝返りを打ってからドアの前で靴を脱いでいるアリスを見つめる。するとゆっくり手を差し出す
「おいで…」
アリスは言われた通りにベッドの横まで移動。蒼華の手を軽く取ると、一気に引き込まれた。布団の中に入れられて身動きが取れない。後ろから蒼華の体温が感じられる。後ろからかかる蒼華の吐息がくすぐったい
「顔…赤いよ?」
その声は少しからかうような響きがあった。部屋はシャンデリアに照らされて明るい。ふと部屋の隅を見ると、アリス…いいや、ゆずきが譲った剣が置いてある。アリスはそれを見て一瞬口元が緩み、そのまま眠りに落ちた。蒼華は一回立ち上がって、シャンデリアのロウソクを息をかけて消してから布団に入り、アリスを後ろから抱きしめるようにして眠る
ゆずき改めてアリスの異世界生活は、これから始まるのだ。外はすっかり真っ暗で月明かりが窓から2人を照らし続けた




