1話 目覚めたらエルフでした
「ん?どうしたの?」
蒼華がニッコリ笑って、ゆずきに視線を合わせるようにしゃがみ込む
「鏡が好きなの?じゃこれあげるね」
蒼華は手鏡を優しくゆずきに持たせた。その手つきは、まるで壊れ物を扱う様だ。暫く歩いてから蒼華が振り返る
「あっ…縄苦しいよね?さっきの商人さんと距離置いたから解いちゃうね」
やがてゆずきは体を自由に動かせるようになった
確かベルが、エレンタウン以外にも街があって…その街に転移する可能性もあったどうのこうの言ってたっけ?
すると蒼華がゆずきの手を握って歩き始める。ゆずきの歩幅に合わせてゆっくりと。やがて宿が見えてきた
ここはどうやら蒼華が滞在してる宿らしいね。部屋まで行くのかな
部屋に着くと蒼華はベッドに腰を下ろして、ゆずきに微笑みかける。部屋は薄暗かったが、陽の光が入ってきていた
「じゃあお名前つけよっか。うーんとね…あ!アリスちゃんなんてどうかな!?」
中々のネーミングセンスだと思うけど…今世は女の子なのか…。取り敢えず紛らわしいから一人称は私にしておこう…。待てよ?ショタの可能性もあるな…
「さっきの商人さんが女の子だって言ってたから考えてたんだ〜!」
あ…。どうやらショタでは無さそう
すると蒼華はゆずき…いいや、アリスに視線を合わせるようにしゃがむ
「アリスちゃん。お喋りできる?」
適当に「こんにちわ」とでも言っておこう
アリスはゆっくり口を開こうとした。そこで何かに気づいた
待って…?日本語とこの世界の言語以外に、もう一つの第三の言語が頭に流れ込んでくる…
そこでアリスは一つの答えに辿り着く。第三の言語の正体はエルフ語だ。エルフが存在するかは分からないが、アリスは第三の言語をエルフ語と名付ける
何でかは分かんないけどラッキー!ちょっと困らせてやろ!
「〜〜〜………・・・」
「え?」
アリスの言葉を聞いた途端、蒼華の顔に困惑が浮かぶ
「エルフ…語?どうしよう分かんない…。こっちの世界の人間の言葉なら分かるのに!」
ヤベェ…マジで面白い。流石にからかうのやめるか
「こんにちわ…」
「あ!人間の言葉も喋れるんだ!凄いよ〜!お姉さんも頑張ってエルフ語勉強するからね!」
本来、転移特典でこっちの世界の人間語は喋れる様になるけど、他の種族の言語は喋れないようだ。ある意味この経験は異世界で生きていく為にラッキーかもしれない。死んだのは嫌だけどね
蒼華は再びアリスと手を繋いで外に出る。今度は先程とは別の方角だ。やがて蒼華が立ち止まったのは服屋だ。中に入ると、レディースの服が沢山あった。蒼華はまたしゃがむ。毎回目線を合わせることで威圧感を与えないようにするためだ
「アリスちゃんどんなお洋服がいい?」
「どれでもいい…」
「じゃお姉さんが選ぶね」
ニッコリ微笑みかける。このとき、アリスは知らなかった。蒼華の趣味を…
数分後。アリスは蒼華と一緒に試着室に入れられた。蒼華はアリスの服を脱がすときに何かに気づいた
「あ!下着着てないの!?」
すると蒼華は試着室から出ていき、数分後、下着を持ってきた
「これはもう買ったから大丈夫だよ!」
アリスは一回ボロボロの服を脱いでから、下着を着る。その上から蒼華が服を着せる
正直目閉じてたからどんな服か分かんないけど…さぁ!いざ!
アリスは鏡を見たままフリーズした。黒をベースとしたゴスロリ衣装
蒼華…そういう趣味…
「ん?気に入った?良かった〜!」
アリスが蒼華を見上げたのを、そう解釈してしまったようだ。もう後には引き戻せない
ち、がぁう!!!
でも…こんな笑顔見せられたら、違うだなんて言えないよね
アリスは蒼華の選んだ服を着た。もう諦めたのだ。すると蒼華は全ての服を持って受付に向かった。袋を取り出し、中からお金を出す。アリスはその袋に見覚えがあった
待って…。その袋ってベルのじゃない!?いや、偶々デザインが同じなのかも…
「あの…お客様?その服は誰用ですか?」
受付の女性店員に尋ねられた。蒼華はきょとんとして答える
「え?この子のですけど…」
すると店員は一瞬目を見開いた。そのまま引きつった笑顔で
「あ…えっと…。奴隷に服を買われるお客様は珍しいので…。偶にそういう目的で服を買う男性は居ますけど…」
「そう、なんですか…」
蒼華は少し落ち込んでいる様だ。うん…。今この服で外に出される僕の方が大変なんだけど!?
アリスは表面上は無表情を保つが、心の中ではうるさい。無理もない。なぜなら今着せられているのはメイド服だからだ。蒼華は可愛いと思ったら着せたがる性格の様だ
「えっとね!私はこの服、好きだよ…?」
アリスの一言に、蒼華の顔がパァッと明るくなる。そのまま蒼華はアリスに抱きつく
「ありがとぉ…!アリスちゃん…」
「よしよーし…」
アリスはそっと頭を撫でてあげる
全く…困ったもんだよ。取り敢えず、蒼華には正体は隠しておこう
アリスの選択は正解だった。恐らくかつての恩人にメイド服を着せていた事実に気づけば、蒼華は穴があったら入りたい…いや、自力で穴を掘ってでも入るだろう
2人が外に出ると、空はすっかり茜色に染まり、昼間より静かになっていた
「じゃあアリスちゃん!お姉さんが何でも食べさせてあげるよ!」
「でも、お金…」
すると蒼華はきょとんとした顔をして、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべてしゃがむ
「ふふん…。実はね…」
すると蒼華は先程の袋を取り出し、軽く開ける
「このお財布は無限にお金が出てくる魔法のおサイフなの!可愛い狐の女の子がくれたんだよぉ〜?」
一瞬沈黙が流れる。アリスはフリーズしたまま喋らない
え…は?やっぱり!?どうりでおかしいと思ったよ!なんで堕天ファイターズの装備があんなに整ってるんだって思って聞こうと思ってたけど!やっぱ転移特典でそういうの貰えるんじゃん!なんで僕には無かったの!?
アリスは気づいた。だらけ防止の為に、ゆずきには魔法の財布をあげなかったのだと
なるほど…。つまり僕には「ベルが自腹で宿代や食事費を払ってる」と思わせて働かせる。でも実際にはお金は無限にある…。うん、決めた。ベルに再会したら問い詰めよう
「よし…」
「何がよしなの?アリスちゃん…?」
「何でもないです!」
手を前に軽く出して必死に否定する。アリスの目的はひとまずベルとの合流になりそうだ




