8話 湿地の森
そんなこんなで一行は湿地の森へ向かった。先頭にパーティーリーダーである剣士。最後尾に戦士という配置で、魔法使いと僧侶も常に周りに集中している。真ん中のゆずきとベルを守る配置だ。そんな調子で東門を抜けた為、かなり周りからの視線を集めた
「一つ聞きたいことが。常に警戒心剥き出しで武器を持った人達が歩いてたら…周りはどう思いますか?」
その言葉に、一行の動きが止まった。周りの民はかなり緊張していた様に見えた
「慣れてないので仕方が無いと思いますが、ただでさえ魔王の恐怖で怯えている民達の不安を余計に煽ると思いませんか?」
その言葉を最後に、暫くの間沈黙が流れた。かなり気まずい空気だ。その空気を破ったのはゆずきだ
「よ…要するに楽しく行こう!ってことだよ!」
この気まずい空気を打破せねば!ゆずきはそう心に誓った
「あ!そういえば名前聞いてなかったですね!僕はゆずきで、こっちは皆知ってると思いますけどベルです!」
「えっと…俺は佐藤翔。こっちの世界ではカケル・サトウ。ちなみに高校2年生だ。役職は剣士をやってる。バトルランクは7だ」
「俺は山本春樹。こっちの世界ではハルキ・ヤマモトだ。21歳の元サラリーマンだ。役職は一応戦士をやってる。バトルランクは8」
「私は尾形美奈!こっちの世界ではミナ・オガタよ!20歳の大学生!役職は魔法使い!バトルランクは6よ!」
「あ、えっと…林田香凛です。こっちの世界ではカリン・ハヤシダですね…。年齢は19っす。役職僧侶でバトルランク6です」
「僕は中3。ていうか、やっぱり皆も(名前・名字)か…正直ここの世界、異世界人への扱い酷いもんな…。少しでもこっちの世界らしくしないとな」
ゆずきの言葉に四人は一斉に頷いた。皆苦労しているのだろう
「そうそう!お店とかの人は「珍しいですね」とか言うだけだからいいのに!ギルド内だと皆陰口しか言わないの!」
ミナが叫ぶ。余程辛かったことが窺える。そしてカケルがため息をついて
「はぁ…でも完全にこっちの世界の人と同じ様な名前にしたら他の転移者が誰か分かんないもんな…」
「異世界…。やっぱいい事だけじゃないんだなぁ…」
「そうそう…ちなみに俺ら「堕天ファイターズ」ってパーティーなんだけど…」
「ダサ…カケルのネーミングセンスどうなってんの?他のパーティーメンバーもなんで了承したんだろう…」
結果。移動の途中にかなり仲が縮まった。そしてそうこうしている内に、目の前に森が見え始めた
森の中は湿度が高くて蒸し暑い。すると広い湿地でスライムの群れを見つけた。よくゲームで見るような水色で透明なスライムだ
「戦闘態勢!」
カケルの声に反応して各々武器を構える。ゆずきはナビの店で買った片手剣を持っている。すると、ゆずきは居合の構えをする。小さい頃はよくおもちゃの剣で遊んでいたのだ。その様子を見てカケルが呆れたように声をかける
「あのなぁ…居合は相手が自分から来ない限り意味ないぞ」
カケルの言っていることはごもっともだった。ゆずきは居合の構えをやめた
ゆずきは改めて「堕天ファイターズ」の武器構成を見てみた。カケル、かなり重そうな両手剣。ハルキ、自身の身長より大きな大斧。ミナ、リコーダー程の大きさの木製の杖。カリン、自身の身長と同じ程の大きさの錫杖。それを見てゆずきには一つ疑問が浮かんだ
「カケル…このクエストが終わったら聞きたいことがある」
「へっ…奇遇だな。俺も聞きたいことがあるんだ」
その間にも、ミナは既に攻撃の準備をしていた
「燃え尽くせ!火炎弾」
ミナの杖の先にエネルギーが集中する。やがてそれは紅い炎となり、弾丸の様なスピードで一匹のスライムに迫る
ボワァ!
なんと無傷で何事も無かったかのようにボヨンっとしている
「え…?湿地だから炎が使えないのか?」
「違います。スライムはそもそも炎や雷系統の魔法が効かず、更には斬撃や弓などの攻撃も効きません。氷魔法なども種類によっては効きません」
ベルの言葉に場の空気が凍った。ゆずき達は揃って目と口を開いたまま閉じない
嘘でしょ!?スライムだし楽勝とか思ってたのに!スライムですらこんな強いのか…確かにゲームとかでずっと疑問に思ってた。スライムって絶対剣とか食らっても大丈夫だよな?って。どうやら僕の推測は当たっていたらしい
「え!?嘘!炎効かないの!?」
ミナが驚くのも無理はない。スライムが強いなんて常識がおかしい。でも、もしかしたら他のモンスターも―――いや!これを考えたらもうおしまいだ!
「まず氷魔法で凍結させてから斬撃で倒すのが基本です」
ゆずき達は少し緊張が解けた。倒し方は一応ある様だ
「なるほど!じゃあミナ!氷魔法出して〜!」
「あ、えっと…私まだ炎魔法しか出せないんだよね…」
それは仕方ない。そもそも異世界に来て二日目の時点で炎魔法だけ獲得してる時点で相当凄い
「大丈夫です。私が出せますから」
そう言ったのはベルだ。神の力なら氷魔法を使うだなんて朝飯だ
「では皆さん、下がっていてください」
5人が下がって、ベルが右手を前に出した瞬間、何かが近付いてくる音がする
「ど…どこだ!?」
カケルは辺りを見渡す。他の者達も、武器を構えつつ、辺りを探し始める。するとカリンが何かに気付いた
「上!」
揃って上を見上げると何かが凄いスピードで降ってきている。この湿地はひらけた場所なのでその何かが木に引っかかる可能性はない
ヒュゥゥゥ―――ズドォォォン!!!
その何かは遂に地面に激突した。そして土煙が上がり、辺りが見えなくなった




