みすぼらしいドレス
公爵邸に来た日に来ていたみすぼらしいドレスに着替え、部屋をでる。
ドレスが捨てられていなかったことにほっとした。
このドレスが一番動きやすいから。
部屋を出て、誰にも会わないようにこそこそと廊下を進み、子供たちがいる壁のところまでやってきた。
スチアート様がやっていたようにランプをひねり上げると、ガタンという音がして、かすかな振動が体に伝わる。
結構大きな音がしたので、誰かが気づくのではないかと焦ってしまう。
子供の泣き声は聞こえない。
夜中なので、もう寝ているのだろう。
壁を押し、空いた隙間に体を滑り込ませる。
そして、階段を急いでかけおり、扉を開く。
子供たちは用意されていたベッドでぐっすり寝ているようだ。
近くに近寄って声をかける。
「ねぇ、起きて。あなたたちを助けに来たわ」
なかなか起きないので、柵のあいだから手を伸ばし7歳の男の子の体を揺らす。
うーんと声を上げ、手で目を眠そうにこする。
突然はっとした様子で、私の手を払いのけた。覚醒したようだ。
「何しに来た」
「あなたたちを助けに来たの」
「助けに……? 本当か……? お前、あいらの仲間なんじゃないのか?」
「いいえ、私は彼らの仲間ではないわ。だから、あなたたちを助けたいの」
男の子は少し考えるような仕草をして、私の目をまっすぐ見る。
「わかった。俺の名前はサム。よろしく」
「ありがとう。わたしはアイリスよ。よろしくね。じゃあ、この檻をでて……あっ……でもこの檻……どうしよう……」
檻のことをすっかり忘れていた。
入口はあるけれど鍵がついているから、鍵がないと開けられない。
「鍵はそっちの引き出しの一番上に入っていると思う」
部屋にひとつだけある引き出しの一番上を調べてみると、鍵が入っていた。
鍵穴に鍵を差し込み檻を開ける。
その間にサムは他の子供たちを起こす。
みんな少し寝ぼけている様子だけど、なんとか動けそうだ。
今日は昼間にここでエドワード様を見かけたから、おそらく今日は夜に行動しないだろう。
逃がすなら今日。
私の後ろをついてくるように言い、部屋から出る。
公爵邸の廊下を進むが、子供の足に合わせているとなかなか前に進まない。
曲がり角の先から誰かが歩いてくるランプの揺らめきが見えた。
どうしよう。焦りで手がじっとりと湿っていく。
周りをきょろきょろ見回すと横に窓があることに気づく。
大人が出入りするのは難しいが、子供だけならば窓から外に出られるだろう。
子供を持ち上げて、窓から外にだす。
「後で迎えに行くから動かないで待っていてね。ランプだけ持っておいてくれる?」
サムにそう聞くとこくんと頷く。
私は急いで窓を閉め、何もなかったかのように廊下を歩く。
しばらくすると遠くにマリーの姿が見えた。
遠くから歩いてきたのはマリーだったようだ。
「アイリス様ぁ~こちらにいらっしゃったんですねぇ~」
「マリー、どうしたの?」
「体調が悪そうだったので、失礼だとは思ったのですが、お休み中の姿を確認しに勝手にお部屋に入らせていただいたんですのぉ~そしたら、ベッドにいらっしゃらなかったので、こうやって探しに来たのですわぁ~食堂に用があったんですのぉ~?それにドレスも……どうされたんですかぁ~?」
部屋に勝手に入っていたとは……鉢合わせしていた可能性も高かったと思うとぞっとした。
「……えっえっと……少しおなかがすいちゃって……何か食べ物をもらえないかなって……寝間着のまま移動するのは恥ずかしいから自分で着られるこのドレスを……」
我ながらナイス言い訳。
「そうだったのですねぇ~。すぐにご用意いたしますわぁ~。……出過ぎた真似かもしれませんが、今日、子供たちにも会ったんですよね。体調を崩された原因ってそれですかぁ~?もしそうだったら、お食事の際に私のお話も聞いてくださらないですかぁ~? それにもかかわってきますのぉ~ア」
本当は食事を断ってすぐに子供たちを追いかけようとおもっていたけれど……。
子供たちに関係がある話?
「簡単に食べられるものを用意してもらえるかしら」
少しだけ話を聞くことにした。




