脳内がお花畑
衝撃的な言葉に体が固まる。
そんな私にスチアート様が笑みを浮かべながら、優しく現実を伝える。
「私は彼らのためにここに来ました。私はこれから彼らの健康状態をチェックし、売れる状態か確認するのです」
「え……」
「アイリス様、先ほどブラックリー公爵が言っていた仕事の一つ、人身売買です」
頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
エドワード様は悪い人ではないと思っていた。
しかし、彼は子供たちを攫い、そして本当に人身売買していたのだ。
快適そうな子供部屋にみえるが、現状を理解している7歳と6歳の子供はおびえ、そして憎しみを表情を浮かべていた。
「な……なんのために……」
「国のためです。治安のためにも。ブラックリー公爵様がこのような仕組みを作ったからこそ、この国が維持できているのです。ブラックリー公爵様は金のためだと言いますがね」
そう言って、スチアート様はハハッと笑った。
笑いごとじゃない。犯罪だ。凶悪な犯罪だ。
4歳の子供が泣きわめく声の中、7歳の男の子が叫ぶ。
「俺の家族はもうこいつらだけなんだ。手をだすなよ。俺の家族を殺すなよ。もう何も奪わないでくれよ……」
吐き気がした。こんなことを平然と行っていたのか。
そんな人を悪い人じゃないかも……と思っていたのか。
まるで脳内、お花畑だ。
ようやく家族から離れられ、自由になれた。その喜びで脳内がお花畑になっていたんだ。
犯罪は犯罪だった。
7歳の男の子が泣く。泣くのを我慢していた6歳の女の子も泣き……楽しそうに遊んでいた双子の男の子も泣き、全員が泣き叫んでいた。
「いつもこうなってしまうんですよね。この子たちにとっては悪いことではないのに」
困った顔で笑うスチアート様が別の世界の人間のように見えた。
「……スチアート様、これは犯罪ですよ……?」
「? ええ、そうですよ。ここはブラックリー公爵家です。裏の世界の王の家。犯罪なんて……あなただって、密売品をみたでしょう?」
「……っでも、子供の未来を奪うような……子供を攫うなんて……」
「あっ!人身売買といっても、殺したりはしませんよ。適材適所。その子供たちがよりよく暮らせるところに送るのです」
そうして、そうだなぁ~とスチアート様が子供たちの顔をじっくりと見る。
「この子とこの子は我が家が運営している娼館で引き取ります」
4歳の女の子と7歳の男の子だ。
「もちろんすぐに大人になるまでお客はとらせたりしないので、彼らは今までの暮らしよりもよりよい暮らしができるでしょう」
話が通じない。そう思った。
引きこもりだったけれど、物事分別はつく。
これは間違いだ。
しかし、ここでそれを言っても通じない。だから……。
「……そうですわね」
そういうとスチアート様はよかったといって笑い、子供たちの健康チェックを始める。
すると扉が開く音がした。
「スチアート、来ていたのか。……なぜおまえがここにいる」
「私がアイリス様を案内したのです、ブラックリー公爵様」
「そうか……ところで、子供たちはどうだ? 金になりそうか?」
「ええ、この2人は私の娼館で引き取る予定でして……この子は綺麗な顔をしているで大人になれば、かなりの額を稼げるでしょう。この男の子は体が強く、頭がよさそうなので、良い人材になるかと思います」
「そのほかも、貴族に好まれそうな雰囲気だな。双子は高く売れるし、そっちの子供も良く働きそうだ」
この空間にいたくない。
少しだけ、ほんの少しだけ、スチアート様が勝手にやっていることで、エドワード様は関係ないんじゃないかと思っていた。
でも、そんなことなかった。
彼は噂通りの犯罪者。
死神の通り名にふさわしい人間だった。
そのあとどのようにして部屋に帰ったのか覚えていない。
あまりに顔が真っ青だったようで、マリーに心配されたが、一人になりたかったので、下がってもらった。
夕食の時間になり、マリーが呼びに来てくれたが、夕食はいらないと言った。
何度かマリーが話をしたいと言ってきたが、正直マリーのことももう信用できない。
ベッドの上でひとり布団にうずくまって、そして、ある結論を出した。
その日の夜、私は部屋を抜け出した。




