誓約
スチアート様いわく、謎に聞こえてくる声の主は幽霊ではないようだ。
これから声の主の元に向かうと言っていたが、扉や廊下など、どこかへつながる道はどこにもない。
どこに向かうのだろうと思っていたら、スチアート様がおもむろに壁に掛けてあったランプをつかみ、ひねり上げた。
するとガタンという音とともに何かが動いたような微かな振動を感じた。
スチアート様は私の手を取ると、目の前の壁をそっと押した。
すると目の前の壁がズズズッと動き、扉のように開いていく。
壁一面が扉だったようだ。
人ひとり分の隙間が空いたところで、スチアート様はするりと奥へと体を滑り込ませた。
スチアート様に手を取られている私も引っ張られるようにして、奥の空間へ足を踏み入れた。
扉の奥は少しすると下へと続く階段になっていた。
もともといた場所は1階だったので、地下に向かっていることになる。
「ブラックリー公爵様からお仕事の話は聞いてないのですか?」
「……聞きましたけれども、詳しくは教えてくださいませんでした」
「そうですか。公爵様は何と言っていたのですか?」
「噂通り、詐欺や暗殺、人身売買などを行っていると……。それに密売も……」
1か月前に小屋で見たたくさんの樽を思い出した。
「……もしかして、密売の品をご存じなのですか?」
「いいえ。……ただ、公爵邸近くの小屋でたくさんの樽を見せていただいただけです」
その瞬間、はっとする。
この人にこんな話をしても良かったのだろうか?
話しやすい雰囲気でマリーとも仲が良く、エドワード様とも仕事仲間だと言っていたから、思わず口が滑ってしまった。
でも、この人が本当にエドワード様の味方なのか、仕事仲間なのか、仕事仲間だとしても言ってはいけないことだってあるだろう。
顔が真っ青になっていくのを感じる。
「アイリス様、大丈夫です。安心してください。私はブラックリー公爵様の仕事に関してはほぼ全て把握しております。世間からはブラックリー公爵様の右腕とも呼ばれているんですよ」
「……それでも、私……エドワード様のことを勝手に……」
エドワード様のことを、しかもお仕事のこと(重要かどうか判断もついてないこと)を勝手に話したことに自己嫌悪を感じる。
「大丈夫です。私はブラックリー公爵様に誓約をしておりますので、ブラックリー公爵様の意に反することは行えません」
そう言って、スチアート様は服をめくり、ブラックリー公爵家の家紋が浮かび上がる右腕を見せてきた。
誓約……誓約をすると、誓約した相手の意に反することはできなくなるという。
誓約をすると体に誓約した人物の家紋が浮かび上がるらしい。
かなり重要な時にしか使われないと聞くが、スチアート様の腕にブラックリー公爵家の家紋が浮かび上がっているということは、そういうことなのだろう。
「そうだったのですね。それでも……これからはエドワード様の婚約者として気をつけますわ」
そう私が言うと、スチアート様は魅惑的な笑みを浮かべた。
「落ち着かれたようで良かったです。そろそろ到着します」
目の前には扉があり、その奥から子供の泣き声が聞こえる。
スチアート様が扉を開けると、目の前には檻に囲まれた子供部屋があった。
子供部屋にはおもちゃや絵本があり、檻さえなければ、快適そうな空間に見える。
檻に入れられた子供は5人。
みんなもみすぼらしい恰好をしている。
下は4歳から上は7歳くらいだろう。
泣き声をあげていたのは4歳くらいだと思われる小さな女の子。
その子をあやしているのが6歳くらいの女の子で、5歳の男の子は2人で仲良くおもちゃで遊んでいる。
顔がよく似ているので双子なのかもしれない。
そして入ってきた私たちを睨んでいるのが、7歳の男の子。
彼は檻につかまりながら叫んだ。
「来るな。人さらい。俺たちをどうするつもりだ」




