幽霊がでる館
次の日、その次の日、そのまた次の日……と繰り返して1か月。
またエドワード様と顔を合わせることがない日が続いた。
私はまた部屋に引きこもり本ばかり読んでいた……のではなく、公爵邸を意識的に歩き回るようにしていた。
エドワード様について知りたいと思ったからだ。
エドワード様と夜中に公爵邸のそばの小屋であった翌日、マリーにエドワード様について聞いてみた。
マリーは私の髪に櫛を通しながら答えた。
「旦那様は私の恩人ですわぁ~。確かにたくさん悪いことをしてきたとは思いますが、その悪いことに救われた人間もたくさんいるんですよぉ~。旦那様は自分ではそんなこと言わないと思いますけどねぇ~」
その話を聞いて、やっぱりちゃんとエドワード様のことを知りたいと思ったのだ。
本の中でも、優しい人が実は裏でとても悪い人だったり、悪いと思っていた人が実は優しかったり……なんてことはよくあるのだから。
エドワード様について聞いたついでに、エドワード様の家族の話も聞いてみた。
マリーいわく、前ブラックリー公爵夫妻は、夫婦仲が良く、暖かな家族として世間で有名だったらしい。
しかし、エドワード様が14歳の頃に、前ブラックリー公爵夫妻が商談で隣国へ行く途中、事故で亡くなったとのことだ。
当時、かなりショッキングなニュースとして、世間でいろいろな憶測……(暗殺ではないかといった噂)が飛び交ったらしいが、結局ただの事故として発表されているとマリーに教えてもらった。
世間でも有名な暖かな家族。
あの肖像画からも感じた暖かな家族の風景と世間の評判に違いはない。
しかし、それであれば、大切な人を事故でなくしたのであれば、あの肖像画こそ最も大切にすべきものなのではないだろうか?
それなのに、あんな小屋に他の備品と一緒に捨て置かれているのはなぜなのか?
エドワード様に何があったのだろう……。
なんとなく肖像画のことは人に言わない方が良い気がしたので、マリーにも聞いていない。
と、いうことで、この1か月エドワード様についての調査を進めていたのだが、全く成果はない。
やはり本人に直接聞こうと思っても、エドワード様の顔すら見ていない。
今日もいつもと同じように公爵邸をぶらついてみる。
すると遠くから子供の泣き声がかすかに聞こえた。
公爵邸に子供?
不思議に思って、声のする方に歩いていく。
たどり着いた場所には、何もなかった。
背筋が凍る。何もない場所から声が聞こえるということは……。
ゆ……う……れ……い……?
「そこにいらっしゃるのはアイリス様ではありませんか」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーー」
手足が思わずバタつき、淑女あるまじき声を出してしまった。
目ん玉がひっくり返りそうになりながら、声をかけられた方を見てみるとそこにいたのはスチアート様だった。
「失礼しました、レディ。そんなに驚くと思っていなくて……」
申し訳なさそうに、優し気な茶色の目をふせる。
「ここここ、こちらこそ失礼いたしました。少し不可解なことがあったため、いつも以上に驚いてしまいましたの」
心の安定を図ろうと、前髪をつかもうとするが、前髪はもうない。
手が空をきる。
最近は前髪がないことに慣れてきたのだけれども、こういう時は思わず前髪を探してしまうのだ。
「不可解なこととは?」
「あの……実は……子供の声が聞こえませんか……?」
「えっ……。ああ、ブラックリー公爵様から聞いていないんですね。その声の主に私は用があってきたのです。よかったら、一緒に行きませんか?」
私はスチアート様の誘いを受けることにした。




