また引きこもりになってしまいました。
部屋に戻り、顔合わせをして初めてのディナータイム。
ブラックリー公爵は仕事が忙しいとのことで、食堂には現れなかった。
婚約をお祝いするディナーを一人で食べ、部屋に引きこもってたら、あり得なかった今日の目まぐるしい一日を思い出す。
ふと、唇に触れた柔らかい感触を思い出してしまう。
「あああああああーーーー。ああああああーーーー。あああああああーーー」
恥ずかしすぎて言葉にならない。
婚約するということは、将来的にブラックリー公爵の子供を産むということ。
キス以上のあんなこと、こんなことをする覚悟はしていた。
でも、今まで引きこもりだったのだ。
刺激が強すぎる。
「こんな状態で、私、やっていけるかなぁ」
真っ赤になった身体を布団に包み、目まぐるしい一日が終えた。
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それから一週間。
私は一度もブラックリー公爵に会っていない。
マリーに毎日魔法をかけてもらっているが、夢のような部屋を前に引きこもりに逆戻りだ。
折角マリーが毎日頑張ってくれているのに、本当に申し訳ない。
でも、どうしようもないのだ。
私が激ハマりしていたロマンス小説の別シリーズ全20巻が部屋の本棚にあったのだから。
一度読み始めたら、止められない。ページを捲る手を止められない。
次はどうなるのか、気になってしかたない。
そうしていたら、部屋に引き篭もることになっていたのだ。
もちろん食事の時間は実家とは違って流石に食堂まで足をはこんでいるが、ブラックリー公爵は仕事が忙しいらしく、今まで共に食事をしたことがない。
私が部屋に引きこもっているせいもあるかもしれないが、公爵邸にブラックリー公爵がいるように思えないのだ。
そのことを時々食堂に顔を出すアーガイル様に聞くと、曖昧に笑いながら「公爵様は生活する時間帯が普通の人と違うのです」と言っていた。
美しき死神と呼ばれているのは知っていたけれど、公爵様がどんな仕事をしているのか、私は全く知らない。
いきなり前髪を切られ、キスをされたけれど、本当に死神と呼ばれるほど、恐ろしい人なのかもわからない。
ひとつ言えるのは、誰もが見惚れてしまうほどの美貌の持ち主だと言うことだ。
この国では珍しい美しい黒い髪をもつ、美しい人。
アーガイル様は公爵様が普通の人と生活する時間が違うと言っていた。
今は夜中。12時を回ったところ。
マリーが部屋を出て行った後、寝る前にちょっとだけロマンス小説の続きを読もうと思ったら、もう1ページもう1ページ、もうあと一章と読む手が止まらなくなって、この時間になってしまったのだ。
さっきまで読んでいたロマンス小説はキリのよい場面。
なんとなく。なんとなくだけど。部屋を出てみることにした。
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薄暗い廊下をランプを持ってそろりそろりと歩く。
公爵邸にやってきた日にアーガイル様に屋敷を案内してもらったけれど、その日以降、ずっと引きこもっていたので全く屋敷の間取りは覚えていない。
覚えているのは、食堂までの道だけ。
だから、とりあえず食堂に向かうことにした。
食堂は一階にあり、そこに至るまでの廊下に外が見える窓がいくつかある。
なんとなく、窓に目をやると、外に小さな灯りがともっているのが目に入った。
行ってみよう。
食堂から窓の外の灯りに目的地を変更して歩き始めた。
屋敷を出て、灯りの方向を頼りに歩いていく。
灯りは小さな小屋から発されているらしい。
小屋を覗き込む......前に声がした。
「ここで何をしている」
その声の持ち主は婚約の顔合わせ以来、一度も顔を合わせることはなかったブラックリー公爵だった。




