力の行使
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なんだこれは!? 力が溢れて来る。満ちる、充ちる、体が、心が、全てがみたされる。一人じゃない。僕は今、誰かとともにここに在る。
万能感に支配されるまま立ち上がる。いつの間にか治った体には何の支障もなかった。
まっすぐ前を見据えると、信じられない者を見たというような表情で驚いている阿久井怜奈と目があった。
「ま、まさか、この短時間で霊谷愛美とつながったというの?」
繋がった!? ! そうだ、繋がったんだ。だから僕は一人じゃない。さっきの間隔の理由が分かった。見えない糸で後ろの霊谷さんとつながっている感覚がある。
軽く後ろを向くと霊谷さんと目があった。霊谷さんのあわい微笑みに頷きで返す。
息が荒いな。早く何とかしないと。
僕が動こうとしたのと、阿久井が命令を下したのは同時だった。
「コロ! 吹きとばせ!」
!
反射的に横に飛ぶ。
「ヴァァァウ!」
泣き声に伴って不可視の力がすぐ横を通り過ぎるのを感じる。
そうか。この術は効果範囲があるんだ。あの犬の前方に立たなければ食らわない。
「ヴァァア!」
僕がよけたのを見てすぐさま第二波を放ってくる。
が、
「遅い!」
そのとき、僕はすでにコロの後ろに回り込んでいた。
そのまま横なぎに胴体を蹴り飛ばす。するとその巨体がいとも簡単に横向きに吹っ飛んでいく。
速い! そして、なんてパワーだ。いつもと同じ感覚で動いただけなのに動きのレベルが段違いだ。
これは霊谷さんが力をくれているということなのだろう。霊谷さんとのつながりの認識した今、その見えない経路を伝って力が霊谷さんから僕に流れ込んでいるのがはっきり分かる。
「れ、霊撃!」
阿久井が不可視の衝撃波を打つ。いままではなすすべもなく眺めているしかなかった攻撃。今も変わらず見えない。だけど!
撃つタイミングと手の向きさえ分かっていれば避けられる!
横っ跳びにかわしつつ、阿久井の真後ろに回り込むように瞬間的に移動する。
「無駄だ」
ビクッと阿久井の肩が跳ねるのが分かる。
「余計なことはしないでくれ。出来れば僕もあなたにまで手荒なことはしたくない」
「あら、優しいのね? けど、それは油断よ……霊撃!」
「!? ぐっ……」
突然衝撃が襲い後ろに吹き飛ばされ、黒板に激突する。
「ぐはっ」
な、なんで!? 右手は前を向いたままのはず……。
「誰が右手からしか打てないなんて言ったの? その気になれば両手から同時に撃つこともできるのよ?」
そう言う阿久井のだらりと下げられた左手のひらは確かにさっきまで僕が立っていた辺りを向いていた。
「ヴァウ」
泣き声に上を向くと普通サイズの柴犬が飛びかかってくるところだった。
!? 何のつもりだ? 小さい方が動きやすいとはいえ、力の差がありすぎだろ。
そんなことを考えていたから反応が遅れた。
横なぎに払われた小さな前足が触れた瞬間、
「ぐぁぁあああああ!」
僕は空中を飛び、教室の後ろの壁に叩きつけられた。
な、なんだあのパワーは!? 体は小さくなったのに……。
「あなたは馬鹿なの? あなただって身体能力は大幅に上がったのに体は変わってないでしょう」
そういえばその通りだ。
「じゃあ、最初に大きくなったのは?」
「ああ、あれはただリーチを増す為に無理やり霊体を肥大化させただけよ。つまり純粋な身体能力のパワーやスピードとは無関係なの。ま、どっちにしろその方が有利でしょ?」
「な、なるほど……」
そうこうしている間に柴犬は猛スピードで突っ込んでくる。
「くっ……」
慌てて横っとびに飛ぶ。
がしゃああああん
柴犬はそのまま金属製のロッカーに突っ込む。
って、おいおい。アルミのロッカーに穴が開いたぞ。なんてパワーと頑丈さだよ。
ロッカーから柴犬が出てくる前に床を蹴って大きく飛ぶ。とにかく距離が欲しい。
「霊撃」
「っと……」
休む暇もなく今度は不可視の衝撃波か飛んでくる。
ちっ……。どうしたもんかな。さすがに女の子を思いっきりぶちのめすのは気が引けるし。けど、そんなこと言ってる場合でもないんだよな。
がちゃがちゃ
と、音をさせて柴犬がロッカーから出てくる。
よし! これでいこう!
大きな戦闘力を持った柴犬の幽霊を叩いて相手を無力化する作戦である。
柴犬に向かって走り出した僕に向かって後ろから阿久井が霊撃を放つ。
構わず柴犬に突っ込もうとすると、柴犬は自衛のためか、それとも僕を倒すのにその方法がベストだと思ったのか、『威嚇』を使った。
よける間もなくコロが生み出した不可視の力に後ろ向きに吹き飛ばされる。
ここまではいつもどおりといえばいつもどおりだった。ただ、今回は力の延長線上にむき出しの魂がもう一つあった。
霊撃。打ち出された魂は肉体に包まれておらず、幽霊と同じむきだしの魂である。
コロの不可視の力に触れた霊撃は『威嚇』の特性に従い後ろ向きに……術者・阿久井怜奈に向って吹き飛ばされた。
ドンっ!
阿久井怜奈の体が弾き飛ばされる。そのまま後ろにあった黒板に後頭部を強打する。
ちなみに僕もその二メートルほど隣で黒板に叩きつけられていた。
「っ!」
柴犬からの追撃に備えて慌てて体を起こす。
しかし、柴犬は僕には目もくれず、阿久井の元に駆け寄りクゥ~ンクゥ~ンと鼻をこすり付けている。
蛇の幽霊にいたっては霊谷さんの拘束を解き始めた。
え? な、なんで!?
わけが分からず混乱していたところ、体を起こした霊谷さんが説明してくれた。
「……この子たちは無理やり戦わされていた」




