蹂躙
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「力に?」
「ああ!」
自信を持って答える。
「それはすごいですねぇ。この短時間で。ですが、それがどのような能力か把握しているんですか?」
あ……!
「くっ。けど僕は霊谷さんを守る」
先手必勝。阿久井の動きを封じようと全力で走る。
「コロ。吹き飛ばしなさい」
阿久井の言葉を受け柴犬がトコトコと前に出てくる。
!? ここで巨大化する気か!? その前に抑える!
勢いそのままに阿久井に突っ込もうとすると
「ヴァンっ!」
犬が妙に力のこもった声で一声鳴いた。
その声が耳に届いた瞬間
「えっ!?」
僕は何か強力な力に後ろに吹き飛ばされていた。
そのまま吹っ飛び窓ガラスにぶつかり止まる。ガラスは割れることこそなかったが、蜘蛛の巣状にひびが入っていた。
「健治っ」
霊谷さんが慌てて駆け寄ってくる。
「な、なに……が」
一体何が起こったんだ!?
「ふふっ。これがコロの力『威嚇』。コロの言霊を受けた幽霊は無条件で強制的に後ろに吹き飛ばされる。相手に攻撃どころか近づきさえもさせないわよ」
と……特殊能力か。
僕を庇うように霊谷さんが立つ。
相対するのは阿久井怜奈といつの間にか巨大化したコロ。
「霊谷さん、……逃げろ」
「……守る」
そんな僕らの様子を可笑しそうに笑いながら、阿久井は命令を下す。
「殺せ」
命令を受けて巨大な犬が飛びかかってくる。
霊谷さんが右手を向け応戦する
「霊げ……」
「霊撃!」
が、阿久井からの攻撃にとっさに右手を阿久井の方へ向け霊撃を放ってしまう。
「……き」
ぱぁんっ
風船が弾けるような音がしてお互いの術が相殺される。
しかし、その間に
「ガァァゥ」
コロの巨大な爪が霊谷さんの体を易々と切り裂く。
「霊谷さぁぁん!」
空中に舞う鮮血。霊谷さんは床に崩れ落ち……、
「いってぇぇぇ!」
腹部に強烈な痛みが走る。見るとお腹に三本の巨大なひっかき傷が走り、血が噴き出している。
そして霊谷さんはというと、
「……痛くない」
体を起こしてお腹をさすっているが、服が破けている以外は全くの無傷である。
? どういうこと? 確かに血が噴き出してたはずなんだけど……。
床を見るが血の一滴すらも落ちていなかった。
「霊谷さんなんか術使ったの?」
「……使ってない。……よく分からない。……それより怪我大丈夫?」
「うん、平気だよ」
確かに痛いが別に我慢できないほどじゃない。かなり我慢しているが……。今はそれどころじゃないしね。
「おかしいわねぇ。コロ! ちゃんと攻撃したの!?」
「ヴァウッ」
頷きつつ応えるコロ。
「まあいいわ。さっさと邪魔な手をもいじゃいなさい」
机や椅子を蹴散らしながら巨大な犬が近づいてくる。
そのまま倒れている霊谷さんの右手に前足を置くと体重をかけた。
「う、うぁぁあああ」
ぐちゃ っという音とともに犬の前足は床と接触し、霊谷さんの右手はひじ関節で分断された。
が、分断された右手がすぐさま粒子状に分解した。
「「なっ……」」
僕と阿久井も思わず驚きの声を上げる。その粒子状の右手はそのまま霊谷さんの切断された肘を取り巻き、次の瞬間には肘の先に右手がくっついていた。
と、同時に
「うがぁぁぁああああ」
僕の右手に痛みが走る。見ると、右手のひじから先がなくなっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……一体何が?」
わけが分からなかったがそれを見ていた霊谷さんと阿久井さんは一つの可能性に行きついたようである。
「……健治、逃げてっ!」
「コロ、あの幽霊から先に消せ!」
コロが一気に距離を詰め、僕を攻撃しようとしたとき
ばんっ
という音とともにコロが吹き飛んだ。
見ると、霊谷さんが右手をかまえてコロを睨んでいた。
しかし、お礼を言う暇もないまま状況は目まぐるしく変わっていく。
「霊撃」
阿久井から打ち出された衝撃波が霊谷さんを襲う。
床に倒れた霊谷さんにすかさず蛇の幽霊がからみつき動きを封じる。
蛇の力が強いのか霊谷さんは完全に動きを封じられた形になってしまう。女の子の細うででは蛇の拘束を解くことができない。
右腕を抑え立ち上がるが、強烈な衝撃が襲う。
いつの間に起き上がったのだろう? コロが僕を後ろから薙ぎ払ったのだ。
「ぐぁあ!」
一気に吹き飛び、阿久井の足もとまで転がる。
腹と腕と背中。
三か所に傷を負って、立ち上がることもできない。
阿久井がそんな僕の右腕をおもむろに踏みつける。
「ふぅ~ん。ホントにひじから先が消滅してるわねぇ。それにさっきの霊谷愛美の再生・復元。なるほど、やっぱりあなたの目覚めた力って『身代わり』なんだ」
「み、身代わり!?」
「そっ。術者が受けた肉体的損傷をその魂に引き受ける。それが『身代わり』。だからあなたが消えない限り、霊谷愛美にダメージを与えることはできない」
そうだったのか。これでさっきからのわけのわからない現象については納得できた。
「と、言うわけでぇ~、死んで?」
そう言うと阿久井はコロを呼ぼうとし、
「チッ。さっきの霊撃か」
見ると今や立っているのがやっとだと分かるほど消耗していた。先ほどの霊谷さんの霊撃によるダメージだろう。横腹が抉れている。
「まあいいわ。あたしの手で消してあげる」
そう言いつつ右手のひらを僕の顔に向ける。
「サヨナラ」




