絆
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「はぁ、はぁ、はぁ……」
息が上がる。霊谷さんを背負って歩くこと十五分。僕は二年三組の教室に来ていた。
本当は学校の外に出たかったのだが、僕が普通の人から見えない以上他人に目撃されるわけにはいかない。いくら夜とはいえ、女の子が浮いているところを見られたら一発でアウトだ。学校の中ならこの時間人の目に触れることはないだろうし、何よりあのデカブツの機動力を割くことができる。
だけどこのままじゃジリ貧だ。早く霊谷さんにしっかりしてもらわないと。
霊谷さんを教室の椅子に座らせる。
「霊谷さん、起きて! 霊谷さん!」
霊谷さんの目を真正面から覗き込みながら訴えかけると霊谷さんの瞳にわずかだが光がともる。
「……ぁ、ぇ」
「霊谷さん、しっかり!」
「……ゎ、わたしだけを……私だけを見て……」
訴えかけるように、懇願するように霊谷さんがつぶやく。その言葉に今まで倦厭していた怪しげな瞳さえも無視して僕は答えていた。
「ああ! 霊谷さんだけを……君だけを見るよ! 約束する! 僕の心は霊谷愛美だけを視続ける」
力強くそう言いきるといきなり僕に抱きついてきた。
「本当? 絶対だよ? 絶対、絶対……」
「ああ、約束する」
(絶対、守る)
そう言って霊谷さんを抱きしめた瞬間、
「な、何だこれ!?」
僕の体が強く光った。とても目を開けていられない。思わず目を閉じると
「……もう大丈夫」
そんな霊谷さんの声に目をあけると、発光はおさまっており先ほどと何も変わっていなかった。
「え!? 今のは何?」
「……おそらく能力に目覚めた証。……普通幽霊の特殊能力は時間をかけて自分の本質を見つめることで覚醒する。……だけどその過程を飛ばしていきなり本質にたどり着いたならば、精神の在り様がこの世に直接干渉できるようになったことで精神がこの世に存在を示そうとして一瞬だけ発光現象を起こすらしい。……たぶんそれ」
「じゃあ、僕も何か特別なことができるようになったってこと?」
「……おそらく。……ただ、私も実際に見るのは初めて。……古い指南書で読んだことがあるくらい」
「指南書?」
「……うん。……霊谷家に伝わる霊能力の使い方の本」
「じゃあ、霊谷さんの家って……」
「……お爺ちゃんの代までは霊能力者の家系だった。……敷居は低かったらしいけど」
?
わけが分からなかったので、わけが分からないというふうにしていると霊谷さんが説明してくれた。
「……阿久井怜奈も言ってたけど私が使えるのは霊能力者なら誰でも使えるような平均的な術ばかり。……霊谷家は代々そんな術者しか生まれないため、霊能力者の番付ではかなり下の方に当たる家なの。……しかも、代を継ぐごとに霊力も弱まってきて、とうとう私のお父さんの代で霊能力が枯渇した。
……お父さんはもともと霊能力者になりたかったらしくて、かなり努力もしたみたいなの。……けど、努力じゃどうにもならないこともあって。……だからお父さんは超現実主義者になった。……この世での成功を求め、出世するためだけに結婚し私が生まれた。……お父さんとお母さんは今離婚してそれぞれ別に暮らしてるけどどっちも私を少しも見てくれなかった」
あの年の子供が親からいない者のように扱われてどれほどつらかっただろう。
そのころのことを思い出したのか霊谷さんが鼻をすすりあげる。
「大丈夫。今は僕がいるから」
「……うん」
「雰囲気良いとこ悪いんだけど、お邪魔するわよ」
第三者の声に振り向くと笑みを浮かべた阿久井怜奈が教室の前の方の入り口に立っていた。足元には小さくなった柴犬。後ろの方の出入り口には蛇の幽霊が待ち構えている。
「三十分。タイムリミットよ」
楽しそうに……獲物を追い詰めた狩人のような笑みを押さえようともせず阿久井は一歩踏み出す。
霊谷さんを庇うように前に立つ。さっき抱きしめたとき、霊谷さんを守るって決めたんだ!
「あら? あなたが闘うの? やめといた方がいいわよ。あなたじゃ絶対歯が立たないわ」
「なめんなよ。僕は力に目覚めた」
ぴくっ
それを聞いた阿久井怜奈の眉が軽く痙攣した。




