日常、盆に返らず(1)
六月も終わりかけ。日差しがより鋭く輝きを増し、大学の授業も前期末試験を目指して深みを増していく。
千和と和泉は相変わらず真面目に授業を受けている。専門である社会学分野はもちろんだが、懇意にしている京月の授業への熱量は変わらず高い。
京月は前回の接触以降、明確に接近してくるようなことはなかった。とはいえ千和も京月への熱が冷めたわけではない。しかし、もしものことを考え、近づくようなことはすまいと決めた。それに幸か不幸か、二人は質問するまでもなく授業を理解できていた。そんな二人の優秀さもそれを助けている。
その結果、単に熱心な他学部生という距離感を確立することができていた。
「今日こそは買い物行かないと」
その日の授業終わり、千和が背伸びしながら言う。今朝確認した冷蔵庫の中身はかなり寂しいものだったのだ。
「ご飯食べられないのは困るからね」
「それに期末レポートたちも締め切り近いし、長くもつように多めに買っておこう」
「確かに。こもる日も多いからね」
袖も短くなる季節。和泉の爽やかさには、より拍車がかかる。千和にとっては毎年のことであり、日常のことだが、世間ではそうもいかないらしい。その証拠に、服装が変わったここ最近は視線の痛さを感じることが多かった。
「さっさと行こ」
教室内のざわめきを振り払うように、千和は和泉を急かして学校を出た。
二人が頻繁に利用しているのは近所の大型スーパー。大量に買い込むならばここと決まっている。週末になれば近郊からファミリー層も買い出しに来るし、平日でも夕方となれば仕事終わりの社会人たちが増えて賑わう。常に人目の多い、地域密着型のスーパーである。
この日も定時帰りのサラリーマンや、子どもを連れた親たちが多く訪れているようだった。
その中で二人は食材を見繕ってカートに放り込んでいく。サラダに欠かせないキャベツや旬の真っ赤なトマト。メインにする予定の特売の鶏肉、多めに四人分。残りはいつも通り冷凍用。そして値引き札が貼られるちょっとした惣菜は和泉に選ばせる。その他飲み物や菓子類も和泉に選ばせて、一通りの調達は完了する。
大きめのショッピングバッグにそれらを詰め、二人はようやく帰路につく。
今日の食事当番は千和である。日替わりで交替しているのだ。その他、掃除も当番制で、今日のそれは和泉が担当する。
「鶏肉、味付け何がいい?」
「シンプルに塩コショウとか?」
同じ食事のローテーションにならないよう、二人で献立案を出し合うのは日常茶飯事のことだ。お互いの好きなものを食べられる夕食は、二人にとって一日でも好きな時間である。だがどうしても思いつかない時はインターネットに頼ることもある。
そんな話をしつつ、スーパー裏手の少しほの暗い第二駐車場へと足を踏み入れる。ここを通ると自宅までの近道になるし、闇夜に紛れられる。
閑散とする第二駐車場。混雑する平日夕方とはいえ、さすがにここを使うほど客足は増えない。いつも端の方に従業員の自家用車や、サボタージュの車が止まっているくらいだ。
今日は普段見かけない大きめの黒いバンが進行方向の端に停まっていた。後部の窓にはスモークがかけられ、不審な様子を撒き散らしていた。
千和には、それがやけに目についた。和泉と談笑しながらも、密かに警戒のアンテナを張る。家はそちら側だから、嫌でも傍を通らなければ帰路につけない。
仕方なく近づいていく。すると、それを見計らったように車のドアが開いた。降りてくるのは一人ではない。数人の男がぞろぞろと車内から降りてきた。
「何あれ」
千和はさすがに声に出し、ピタリと足を止めた。自分たちと無関係ではないと勘が叫んだ。エコバッグを握る手に力が入る。
「……なんだろ」
和泉も眉をひそめ、足を止めた。




