のいんつぇーん やぁ少年。リリィが世話をかけたね
Neunzehn―――Guten morgen, Schiroto. Meine Lilie hat dir schreckliche Dinge angetan. Entschuldigung.
あの後ゲームをやめ、睡眠に就いた。
特に悪い夢も何もなく、夜が明けた。
……着信音で目が覚め、来たメールを見る。
Rose『久しぶりだね少年。いや、今は少女と言うべきだろうか。とにかく私の家へと来てくれないだろうか』8:27
Rose『ああ、あのバカチンが君に迷惑をかけたお詫びをしたいんだ。何故か私の母親と親父はバカチンを擁護していたんだがね』8:28
『私の妹が君に迷惑をかけてすまなかった』8:28
ローゼさんからだった。……え? 誰かわかんない?
じゃあもう1回説明するかぁ……。
ローゼ・プフラオメ・シュテルン。
リリィの姉で、ドイツ語が得意。というかドイツ語が母語。
……これでいいよね?
とにかく支度をし、ローゼさんのもとへと向かう。
……うげ、まだ臭いするんだけど……。
◇
今日の朝食はイングリッシュブレックファースト(簡易版)。
目玉焼き、ケチャップかけた豆、ウインナー、トマト、ベーコン、トーストがひと皿に。
……まぁ美味しい。だが多分本場はこのような味ではない。
空となった缶詰を持って倒れている黒菜を見、玄関から外へ出た。
◇
……外は日光に灼かれ死にそう(吸血鬼?)だったが、なんとかリリィの家に着いた。
「やぁ少年。この前はリリィのせいで申し訳なかったね」
「あ、あはは……大丈夫ですよ……」
ローゼさんは何故か僕を少年と呼んでいる。
……恐らく漫画か何かの影響だろう。それにしては僕以外には少年呼びしないが。
……リリィの自室にて、布団にぐるぐる巻きにされたリリィを発見した。
「……助けて白兎。暑いし動けない」
「……それぐらいの罰で済んでよかったね」
「白兎……?」
……僕の目の前で下着を見せようとしてたのに。公然わいせつになりかねなかったんだよ?
「……あ、えーっと、お久しぶりです」
「あらあら、よく来たわね~、白兎くん」
「久しぶりダネ、白兎」
リリィの両親。母親の方が日本人で、父親の方がドイツ人である。
母親の名前は櫻坂 梅香さん。優しい人だが、ずっとあらあら言ってる。
父親の名前はノーア・フリードリヒ・シュテルン。メガネをかけていて、少し筋肉質。
「Mutti、vati。少ね……白兎がこのバカタレに襲われそうになってたんだぞ!? 何で庇うんだ!?」
「か、庇ってないわ。……ただね……その……」
「……ウン。……なんだっけネ? モク……Schweigenダネ」
「はぁ?」
もしやそんな感じの方法でヤったんですか!?
ナニとは言わないが! 蛙の子は蛙ってやつなんだろうね。
……はい? 蛙の子はオタマジャクシ?
違う、そうじゃない。君を逃がせない……つって。
「……リリィ。またそんな不埒な行動を起こしたらただじゃおかないよ」
「ハイ……」
……リリィの母親は顔を横……どころか後ろまで逸らしていた。……アナタが襲った側なんですか?
◇
「……白兎、将棋しようよ」
リリィの自室にて、こう言われた。
ルールは分かっているし駒の動かし方も分かるけど、僕は弱いよ?
「大丈夫、私どの駒がどんな動きをするのか知らないし配置もわかんないから」
「ならなんで誘ったの?」
……と、言うわけで将棋をリリィに教えることになった。
「歩兵って書いてあるやつは前列に置いて、前に一マスだけ進める」
「なるほどポーンか」
「何でチェスは知ってて将棋知らないの? 僕チェス知らないけども……」
なんかやってる人かっこいいとは思うけど……。
「……で、角行は斜めにずーっといけて、飛車は前後左右にずーっといける」
「なるほど、角行はビショップ……飛車はルークね」
「だから何でチェスは知ってるの?」
よく分かんないけど普通将棋を知ってからチェスのルールを知ると思うんだけど……。リリィは何なの?
「……香車は前にだけずーっと進める」
「ふむふむ……」
「桂馬は前に一つ進んだ斜めのマスに進める」
「劣化版ナイトね」
「だから……」
「……銀将は真横と真後ろ以外の方向に一マス進める」
「……駒多くない?」
「まだあるんだけど……」
「……金将は斜め後ろ以外の方向に一マス進める」
「……ねぇまだ……?」
「で、最後に王将は全方向に一マス進める。取られたら負け」
「キングだ!」
王将ってキングと同じなんだ……。
なんか奇跡みたいな……。
「……まぁわかった。早速……」
「あ、まだ成るっていうシステムもあるんだけど」
「えっ」
リリィは震えて、「何で?」と連呼していた。
ごめんね、将棋を考えた人に言ってくれ。
「大丈夫! 覚えるの少ないから! 角行、飛車、金将、王将以外は敵陣に進むと裏返し、金将と同じ動きになる」
「ポーンがナイトにもビショップにもルークにもクイーンにもなれない……?」
「……そして、角行、飛車は敵陣で裏返し、行けなかった方向に一マスだけ進めるようになる」
「劣化版クイーンになるの?」
「知らないってだから……」
……とりあえず教えるだけ教えたので対局する。
「歩兵は三列目に並べて、角行は左側の二列目二段目。飛車はその反対」
「なるほど……?」
「香車は三列目の両端、桂馬はその隣、その隣に銀将、その隣に金将、最後に王将」
「……? 玉将って書いてあるけど……」
「特に違いはないから気にしないで」
さて。こういうのでボコボコにしたい気持ちもある。相手は初心者だが……僕も初心者。勝てるか分からない。それにチェスはしていそうだから負ける可能性も十分にある。
「そういえばチェスってどんなルール?」パチッ
「かくかくしかじか」パチッ
「なるほど」パチッ
……かくかくしかじかってなんですかね。
ggrksってことですか? そうですか……。
「……あの、リリィ? 歩兵は斜めに進めないよ?」
「え? ……ポーンと違うんだ……」
「ほんとにチェスってどんなルール?」
チェスがどんなゲームなのか後でググろ……。
……などと考えていたら、リリィがドヤッて感じの微笑みをした。
「王手だよ白兎」パチッ
「えっ……あ、……え、詰んだ?」
「チェックメイトってね」
……負けた。少し悔しいからもう一戦した。
……負けた。悔しいからもう一戦した。
……負けた。もう一戦……。
……負けた。こ、今度こそ……。
……負けた。……。
……負けた。……うせやろ。
「……その、ごめん……?」
「僕のざぁこ……僕の頭よわよわ……考えなし……」
「めっちゃ落ち込んでる……手加減しなかった私も悪いから……」
手加減されて勝っても嬉しくないんだけど!?
……めんどくさいって言うな! 二十分ぐらいで復活するからめんどくさくないやい!
「……じゃ、じゃあ! チェスやろ!」
「いや負けるって……。将棋で勝てないって事はチェスでも勝てないって……」
「……なんかごめんね」
◇
昼食はリリィの家でご馳走になった。
リリィの両親がグラタンを作っていた。
……味? 何とは言わないけどさ。
今度からはリリィでもリリィの両親でもなくローゼさんが作ってくれないかな……とだけ。
まず何をもってグラタンにミルクチョコレートとさくらんぼとかいう特級呪物を入れたんですか? しかも味付けはコンソメで。
どうしてホワイトソースがピザの生地みたいになってるんですか?
どうしてお山になるくらいパン粉を入れたんですか?
どうしてグラタンって言ったのにお米入ってるんですか? ドリアじゃないですか。
「……あら? 間違えて私の分を白兎くんの分にしてしまっていたわ~」
「……少年。よく食べられたね……?」
「白兎、吐いてモいいんダヨ?」
何で間違えたんですか!? 見たところ見た目が結構違ってるけど!?
「……ごめんなさいね、白兎くん……。私が言うのもだけどよく完食できたわね~……?」
「……何で疑問を持たず完食したんだ僕……?」
……しばらくの間、さくらんぼがトラウマになりかけたのであった。
次回:幽霊なんているわけ……




