ふぃーあつぇーん 冰のドラゴン
Vierzehn―――Eisdrache "Blässerzog"
ゲームにログインすると、やはり目の前に青白いドラゴンが佇んでいた。
頭の片方にだけ前に向かった大きな角があり、もう片方には角は生えていない。大まかな見た目は大体ザ・ドラゴンといったものだが、所々に金色の装飾があり、体の至る所から優雅なドレスのようにも見える。
No199 ブレッセルツォーク 氷、風属性
Nobilisdraco glacies 蒼公龍
爬虫綱六足龍目西洋龍科貴龍属 Blässerzog
空を優雅に駆け吹雪を起こすドラゴン。頭の右側にのみ大きな角がある。極寒を操る。
生息地:雪山、氷河
『キュルルルルォォォォォォラ!!』
「……っ!?」
甲高いが、力強い鳴き声に圧倒される。
大きく翼を広げた途端、周りの気温がかなり下がったように感じた。明らかに他のモンスターよりも格が違う。
翼を思い切り羽ばたき、その一振りで空に浮かぶ。空を優雅に舞い、辺りをブレスによる雪まみれにしている。
僕が杖を構えると、リリィがログインした。
「……白兎……今すぐ逃げたいんだけど……?」
「逃げられるかな……?」
「無理だよね……」
早く倒したい。でも伏字の魔法を放ったら、リリィに当たってしまう。だからといってこれほど突破力のある魔法はない。……氷属性なら炎属性を使えばいいのか?
『ご主人、わたしも戦いますよ?』
「じゃあお願い……」
ライも戦ってくれるらしく、出しておくことにした。さぁ、戦おうか。ブレッセルツォーク……。
『キュルルルルォォォォォラ!!!!』
咆哮により、開戦の火蓋が切って落とされる。
ドラゴンをよく見て、魔法を放つ。
「フレイム!」
「フレアブレード!」
『プフィルツィヒ・シュタッヘルシュヴァイン!』
僕の杖の先端から火の玉を出し、ドラゴンにぶつけ……当たった。
リリィの剣から炎が吹き出し、その剣をドラゴンに振り下ろし……当たった。
ライの足元の地面から茨のような棘が生え、それがドラゴンに向かっていき、最後に大きな棘がドラゴンを襲う……
当たらなかった! 飛行ってクソだわ。
「何してるの……?」
『すみません……』
ドラゴンは空を舞い、口をこちらに向ける。ドラゴンはリリィを見ていて、その横顔からはブレスが漏れ始めた。
『キュルルォオオォ!!!』
「危ないっ!」
ドラゴンは咆哮と共に氷の息を吐いた。
僕は咄嗟に体が動き、リリィを突き飛ばす。
僕は身代わりになって攻撃を受けた。
……当たる前に怖くてチビったのは内緒だぞ!
盛大に、服からも分かるくらいチビったのは!
「……あっ……あっ……あぁぁ……」
多分この攻撃を食らったらヤバいだろうという絶望と、チビったという羞恥に襲われて僕は……
考えるのを、やめ……あっ死んじゃ……っ!
「シールド!」
……いつまで経ってもなんともなく、目を開けると、目の前にはバリアのような物があった。そして、恐らくそれを出したであろうお姉さんもいた。
「大丈夫か? 助けに来たぞ」
「……あの、すみません。誰でしょうか……?」
クールビューティーな感じの女性で、特徴的な瞳を持っている。声に少しボイスチェンジャーのような違和感を覚えるが、まぁかっこいい女性だ。
……あの、助けないでほしかったです。羞恥で死にそうです。
「私は紅潮ルルエ。リシアの……まぁ、先輩に当たるのかな。どっちも個人勢だけども」
「へぇ……」
そういえば、ルルエ姉さんーみたいなことを書いていたような……。この人のことなのだろうか。
そして、カードを貰った……。
紅潮ルルエ さん ID:Jv1t1r0
Lv:80 EXP:78695 SP:
ハンター アタッカー 雷属性
能力:神奪放争
覚えている魔法:
武器 白騎龍の弓 ★80
頭装備 紫伯龍の兜 ★85
上半身装備 緑男龍の鎧 ★84
下半身装備 朱将龍の脛当 ★82
靴 黒統龍の靴 ★83
……待って待って待って。装備に~~龍みたいなのめっちゃあるじゃん。全部何だよ。
「……その、今は配信してないからな。攻撃が当たらないようにしておくから着替えてくれ」
「あ、はい……」
気づいたら何故か近くにかまくらが出来ていた。中に入って着替え……うん。……その。ね?
……着替えたいのだが、装備は初期装備のボロいのしかない。みすぼらしい。……ん? リリィ? 何して……?
「……はい、これあげる」
赤いスカート ★15 new!!
赤いだけのスカート。
能力:なし
リリィは目の前でスカートを脱ぎ、僕に渡した。
羞恥心とかないのかリリィ?
「いや何で!? 他の装備でいいよ!?」
「……私の脱ぎたてじゃ嫌ってこと?」
逆にリリィはそれでいいのか……!? ……他の装備も持ってるみたいだし。それを僕に渡せばいいのに。
……しかし聞いてくれないので、仕方なく着て、急いでかまくらを出た。
……ルルエさんはずっとシールドという魔法を使っていたようで、ドラゴンに傷は出来ていない。戦ってはくれないんだ……。
「あ、ありがとうございますルルエ……さん?」
「そうか。着替えたか。……何故そこの女の子も着替えているんだ……?」
「……触れないでいただけると」
「そ、そうか……」
ルルエさんは「じゃあ、この辺で」と言いながら立ち去った。
僕は目の前にいるドラゴンを睨むように見て、杖を構える。僕は魔法を放とうとした。
『……ッ!』
……その瞬間、ドラゴンは飛び去っていった。
逃げるな卑怯者ー!
「……へ?」
まるで逃げるかのように飛び去り、奥に見える山の影に消えた。
「……え、えぇ……?」
何がしたいのだろうか……? ドラゴンの後を追うため、ライの背中に乗って山へと向かった。
「……白兎、置いてかないで……?」
「……えーっと……なんか……ごめん」
……リリィ、ライは一人乗りなんだ。ごめんね。置いていくしかないんだ。
「えっ……? 本当に置いてくの……?」
「……ごめん」
◇◇
「……ブレッセルツォークが逃げた……? どうなっているんだろうか……ふっふっふ……面白い」
白兎とドラゴンの様子を、物陰からワインを嗜みながら観察している者。ワイングラスを絶妙に格好のつかない持ち方で揺らし、一口呑んだだけで渋くてずっと揺らしている。
「ドラゴンが逃げることは降伏を意味するという……。私にはドラゴンの気持ちなど分からないが、もしかしたら”彼”は……あのシャルレーニヒをも……君はどう思う?」
そう訊く”彼”に、呆れたように返す隣の者。。
「……ルルエ姉さん……悪役ごっこなのです? なーにあんまり似合ってないからやめろなのです。それにどこからワイン出てきたなのです? ……あと、わーはあいつに負けたばっかだから触れないでなのです」
……そう。リシアとルルエである。
「……乗ってくれてもいいじゃあないかリシア。君は未成年だしあげないぞ? あと、君はあれ相手に一時間半は持ちこたえていたじゃないか。それに……」
「あっ、あの娘置いてかれてるなのです」
「話聞いてる?」
「……シャルレーニヒのことはもう嫌なのです!」
シャルレーニヒ……またの名を紅王龍。この大陸においては最強のドラゴンであり、今のところ唯一、リシアが敗北してしまった相手。
……リシアは、また奴と戦うことを知らない。
「絶対に嫌なのです!!」……そっか。
◇◇
ドラゴンが逃げた先であろう山に着いた。少し探索すると、先程のドラゴンを見つけた。
『キュルルォ……ッ』
ドラゴンは自身の真下に向かってブレスを吹いた。
冷気を帯びた白い息でドラゴンの姿が隠れる。
息による靄が晴れると、中から少女が現れた。
「……だ、誰……? さっきのドラゴンは……」
『あ……っえ、えーっと……』
白い髪、蒼の瞳、ドレスのような服。
そして顔の右横にのみ付いている大きな角。そして背中に生えた翼。あとおっぱい。特徴はまるで、さっきのドラゴンのようだ……。
「も、もしや……」
『……わ、我は……ブレッセルツォークの……レーゼ……です……っ』
「……」
……さっきのドラゴンが女の子になったようだ。
いや、ドラゴンはドラゴンのままでいてくれよ。何で擬人化するんだよ。
……レーゼとやらは、少し見るだけでも分かるほど頬を赤らめており、目線も逸れている。どこ見てるの?
「……あの?」
『……ひゃうっ……! な、何でしょう……!?』
「な、何で逃げてたの?」
『えっ……あっ……そ、その……。
……うぅ……!』
彼女は目線どころか顔を逸らし、顔を隠そうとしている。……いや、だから何で逃げたんですか……? あ、教えてくれない感じですか? そうですか……。
『……え、えっと……その……わ、我は……ぅ……』
彼女が何かを言い淀んでいると、次のような声が頭に響く。
〘レーゼが仲間になりたいようだ〙
……何で仲間になりたいのだろうか。だが僕は了承した。
〘レーゼが仲間に加わった!〙
〘経験値8000EXPを獲得!〙
〘レベルが10上がった!〙
〘スキルポイントを20つ獲得!〙
レーゼ ID:Juk1m18
Lv:50 Exp:80000 SP:30
ドラゴン(蒼公龍) 氷、風属性
能力:蒼凍公冰
覚えている魔法:アイス、アイシクル、アイスバーグ、ブリザード、ウィンド、ブリーズ、ストーム、テンペスト、スノウブレス、テレパシー
武器 なし
兜 なし
サドル なし
鎧 なし
『あ、ありがとう……ございます……っ!』
「……そういえば、君って乗れるの?」
『あの……サドルは持ってますか……?』
ドラゴンに乗るにはサドルが必要なのか。ならば無理そうだ。
「……持ってないよ」
『そうですか……なら無理です……すみません……』
とりあえず、リリィの元へと戻ることにした。
いや、何で逃げたんだ……?
◇
「……なんか白兎がハーレムを作ろうとしてる」
「してないからねリリィ」
「しかも全員胸が……やっぱり白兎は胸が……」
「たまたまだからね? たまたま。」
「たまたまが反応したんだねなるほど」
「違うよ? もうないよ?」
……リリィってこんなだったかな……? こんな下ネタ言う娘だったかな……?
「ブレッセルツォークが女の子になって、しかも仲間になってるなのです……?」
そしてなんかいた。昨日ぶりですね。
「……リリィ、なんかいるけど?」
「わーをなんか呼ばわりとは失礼なのです」
「なんかよく分からないけど仲間になりたそうな目でこちらを見てたから」
「別にそんなことはないなのです。でも仲間になってもいいなのです」
リシアは仲間になってもいいみたいだ。
仲間にしますか?
いいえ No Nein Non Нет 不 아니요
……何故僕の脳内の選択肢にはいいえしかないのだろうか。まぁ別に仲間にしたくはないけど。
「何で否定するなのです? 酷いなのです」
「なんか……とんでもないヌルゲーになりそうだったからちょっと……」
「思ったよりまともな理由だったなのです……」
……とりあえずこの人を置いて、望乃と合流する。
その頃にはもう九時を過ぎており、望乃が眠ってください? と言ってきた。なのでログアウトし、眠りにつく。
Gute Nacht。
◇◇
何故だろうか。
今日は寝付くことができない。
部屋の照明は消えて真っ暗。照明は消したばかりでもないというのに。いや、夢なのだろうか。
体も動かず、何も聞こえず。ただ月の光が目に映っている。
黄金色に輝く、手の届かない異質で異常な星。僕はそんな月が好きだ。兎といえばだから、という理由もあるだろう。
でも何故だろうか。月を見ると涙が込み上げる
……何故、僕は月について語っているのだろうか。
何故だろう。涙が止まらない。吐き気も催している。
何故だろう。こんなにも何かにモヤモヤしているのか。忘れてはいけないことを忘れてしまっているような。記憶のパンドラの箱を触っている感覚だ。
忘れていた方が幸せ。そう聞こえる。
■■を思い出せ。そうも聞こえる。
もう何も考えたくない。忘れてはいけないことなのなら、何故これほどにも悲しくなるのだろう。
自分が人■が嫌いな理由も。
自分が■が好きな理由も。
思い出せば答えは見えるのだろうが、思い出したくない。
……思い出せ? 何を? いつからいつまで?
手がかりは頭に浮かんでいくが、消えていく。
何も分からない。もう何もかも嫌だ。
月を……特に黄金色の月を見ればいつもこうだ。思考は纏まらないし、ずっと悲しくなってくる。
目を離したいのに。目を離すことができない。
こんなこと永遠に忘れていたい。
僕は何を忘れていたいのだろう?
■■のことだろうか。
顔も名前も声も。何もかも覚えていない。今何をしているのか全くわからない。何故、僕は■■と会えないのだろうか。
『わぁ■? ■いねシ■■ゃん■■ ■当に四歳だっけ■■ も■■り算がで■るの■? し■■3桁も!■ ■ロち■ん■■より賢■ねぇ!■ ■理も■■より上手だよね!■ ■■泣■ちゃ■よ!?』
声も、顔色も覚えていない。何についての会話かも覚えていない。だが、その内容を思い出そうとする度に、強い吐き気がする。何故かはわからない。
何故僕の家には僕と黒菜しかいないんだ? 何故■■も■■も、十年も家にいないんだ?
何故? 何故? 何故?
どうして? どうして? どうして?
■■は僕と黒菜を捨てた? 何故? 何があって僕を捨てた?
何故捨てたのなら家がある?
No??? シャルレーニヒ ?属性
Nobilisdraco flamma 紅王龍
爬虫綱六足龍目西洋龍科貴龍属王龍亜属 Scharlänig
龍の中でも圧倒的な力を持つドラゴン。とても大きな翼を持つ。??を操る。
生息地:不明
※白兎は現実でも漏らしていましたが、寝るまでに着替えています。シリアスの前に描きたくなかったので描写していませんが。
次回:月兎の夢




