つべるふ 山超えた先の雪景色
Zwölf―――Schneewelt
僕とリリィは銀世界の地に足を踏み入れた。足を進めていく度に、足元の雪からぼふん、と音が鳴る。
「ここからあそこまで、雪、雪……こんな景色はスキー場に行った時ぶりかも。あれ……何してるのリリィ?」
「ゆーきやこんこあーられやこんこ♪」
リリィは上機嫌に歌を口ずさみ、雪だるまを作っていた。しかしこのゲーム、雪だるままで作れるんだ……。まさか本当に異世界だったりしないのかな?
そして、可愛らしい雪だるまができていた。……さらに、リリィはもう一体作ろうとしていた。……あ、あの。一体に結構時間かけてたよね……? はやく……。
「かーれきのこらずはなが―――♪」
「楽しそうだね? リリィ……」
「あ……ご、ごめん白兎……」
「いや何で壊すのさリリィ……!?」
リリィは少し涙目でせっかく作った雪だるまを蹴って壊していた。なんで壊すの……?
「だ、だって……怒って……」
「怒る? いや、え? 何に対して……?」
「楽しそう……って……早く行くよって意味かなって……その……」
「僕の言い方が悪かったかもね、ごめんね……。でも僕はっきり言うからね? 早く行こうよとか……ほ、ほら、雪だるま作ろ?」
雪だるまを作ったことはないが、ゲームの中なのに楽しいと感じる。感触も雪そのものだ。
「雪だるまつくー―――」
「白兎、その曲はそれ以上いけない」
すみませんでした。流石に某夢の国の民に喧嘩を売ってはいけなかった。
さて、身長と力が足りず雪だるまが作れなかった事は置いておき、モンスターが現れた。
「なんか雪の結晶みたいなのが……」
「可愛い……」
雪の結晶みたいなモンスターが現れた。こいつもコンセントみたいな目が付いている。
No006 パウダース 氷属性
Crystallus nives
魔綱精霊目精霊科結晶属
粉雪の結晶の妖精。触ったら昇華ちゃうので触らないであげてください。
生息域:雪原
ちょっと読み方に無理があるんじゃないか? まぁ触ってみよう(屑)。……あっ触れる前に消えちゃった……。
昇華とは固体が液体にならずそのまま気体になること。ドライアイス(二酸化炭素)みたいな感じ。
あ、勿論昇華はとけなんて読まないよ。
「……昇華ちゃったよ」
「な、何してるの白兎……!」
「ごめん……まさか手が近づいただけで昇華るなんて思わないじゃん」
ちょっと言い訳をさせてほしい。まさかそんな簡単に昇華るなんて思ってもなかったし。
「あ、でも他にも沢山いるから許す」
「えぇ……」
なるほど、リリィは浮気性だったのか……。
と思っていたら、触ろうとしたのだろう。一体が消えた。
「触ってないのに……」
「自分でやるのどんな気持ち?」
「泣きたい……」
さて、辺りを散策するとモンスターが現れた。凍った鍋みたいなモンスターである。
No008 クラムアイス 氷属性
Cibus concha
魔綱精霊目精霊科食品属
冷凍されたクラムチャウダーみたいなモンスター。融けると本当にクラムチャウダーになってしまう。
生息地:雪原、雪山
……ふーん。美味しそう。じゃあ融かすか(最低)。
「フレイム!」
〘クラムアイスを倒した!〙
〘経験値20EXPを獲得!〙
モンスターのいた場所には、クラムチャウダーがポツンと置いてあった。……そういえばこのゲームに味覚はあるのだろうか。
……と思ったら、リリィがクラムチャウダーを飲んでいた。
「白兎、美味しいよこれ。飲む?」
「このゲーム味覚あるんだ……じゃあうん」
飲んでみた。熱ゥ!? ……本当に味覚があることが驚きなのだが、美味しかった。
「……間接キスだね、むへへぇ……」
リリィは笑いながら飲み干していた。少し顔を赤らめていたのは気のせいではないと思われる。
「ゲーム内で間接キスしても意味ないんじゃ……」
「あそっか」
リリィにそう言ったら、確かにと思ったのかいつもの真顔になった。
さて、特に目的はなかったが、とりあえず山を目指して歩くことにした。バカと煙はなんとやらってこと「え?」……ごめんリリィ。
少し歩いたら、モンスターが現れた。
ワッフルコーンに載ったアイスクリームのような見た目だ。
No009 ミンショコリーム 氷属性
Cibus cremoris
魔綱精霊目精霊科食品属
アイスクリームのような何か。チョコっとだけミントの味がする。
生息地:雪原、雪山
「白兎、これ歯磨き粉の味がする」
「誰であっても喧嘩を売らないでねリリィ。僕も好きではないけども。というか何ですぐ食べるの?」
食べられて可哀想に。アイスクリームっぽいモンスター。何で食べたのだろうか……。
モンスターがリリィのお腹に消えた後、またモンスターが現れた。
No057 フキノート 草属性
Petasites japonicus
双子葉植物綱キク目キク科フキ属
成長が待ちきれなかったふきのとう。動き回る上に毒もあり、そして灰汁も強いので生では絶対に食べないよう。
ハーイ、と言いたげな、コンセントみたいな顔の付いたふきのとうが現れた。トコトコ歩いている。
「ファイア」
「え、ちょ……リリィー!!??」
リリィはふきのとうにファイアを放っていた。そしてふきのとうは死んでしまった。
「いやだって可愛くなかったし」
「基準が分からない!」
◇
山を目指して三千里(適当)。すると、急に脳内に声が流れた。声の主は辺りにいない。
『あのー、ご主人。山に向かってるみたいですけど……』
「わぁびっくりした……ライ?」
『あ、すみません……テレパシーです。次からは気をつけますね……』
声の主はライであった。こいつ直接脳内に……! しまわれている状態であってもテレパシーは使えるようだ。
『その山……ティルト山には、とても強いドラゴンがいるんですけど……大丈夫です?』
「じゃあ、山には入らないくらいに……」
『……すみません、ご主人。もっと早く言うべきでしたね……』
へ? もしかして何かあるのか……?
例えばそのドラゴンがとても凶暴とかそういう……。
『そのドラゴンの縄張りに入ってます……』
「……よし、リリィ。今すぐ全力で逃げよう」
「何が……? え、どうしたの白兎……?」
リリィの様子から見て、テレパシーの内容はリリィに伝わっていないようだ。
「かくかくしかじか四角い……」
『かくかくしかじかで伝わるのは漫画だけでは……?』
……伝わるようにできてるんだよこの世界は(適当)。伝われ。
「なるほど」
「伝わっちゃったよ」
『ご主人が言うんですか!?』
本当に伝わるのかよ。かくかくしかじかってすげー。
『そのドラゴンは……一度縄張りに入った人は怒りを買い、食べられるとか……』
「今見つかっていないけど」
『ドラゴンの嗅覚舐めてますか?』
そのドラゴンにもう見つかった可能性が高いとのこと。そして、逃げてもダメ……。
「ドラゴンと戦え……ってこと?」
『……まぁ、そうなりますね』
ドラゴンと戦うの!? わぁ、なんか冒険って感じする! テンション上がってきた!
「じゃあ、そのドラゴンの名前は?」
『……あれ、なんでしたっけ。豊田さんから何回も聞いたはずなんですけどね』
「また出たよ苗字の。豊田さん……高木さんの親戚なの?」
ライは肝心のドラゴンの名前を忘れてしまったらしい。うーん、この……。名前あるのなら名前で呼びたかったな……。
「ん? ドラゴンの名前? ここのなら分かるけど……」
「リリィ、本当!?」
「言っておくけど……滅茶苦茶強いやつだよ」
ドラゴンなんて滅茶苦茶強いのばっかりだろうに。……ドラゴンの中でも滅茶苦茶強いという意味なのだろうか。
「ブレッセルツォーク……別名、蒼公龍。図鑑番号199番の、この大陸において、氷属性最強かつ二番目に強いモンスター」
「なんだろ。帰りたくなってきた」
「うん……。私も……。一緒にログアウトしよ……」
……上の方から翼の音と、甲高い咆哮が聞こえたのだが、気にせずログアウトした。次ログインした時どうなっているだろうね。リスキルだけはやめてくださいねドラゴンさん?
あとモ○ハンみたいだね、別名あるのとか。
◇
さて。ゲームをやめて、時計を見ると現在8時48分。携帯を見ると、リリィからスタンプが送られていた。
^v^{おやすみ~
……はいはい。ぐーてなはと。おやすみー。
◇
ぐーてんもるげん。おはよー。
今日も今日とて学校がある。
今日の朝食はフレンチトーストだった。勿論、黒菜が食べたいからと言って作ろうとしていたのでフライパンを奪って「酷」作ったのだが。
「……お兄ちゃん、砂糖使いすぎじゃない……?」
「僕もそう思う。でも体が勝手に……!」
分かっているんだ。砂糖の層ができるレベルは、食パン一枚に対して使っていい砂糖の量ではないことは。だけど体が勝手に動いたんだ。信じてくれ。
◇
皆、一日二日ではやはり幼女に慣れないようだ。あと、セクハラしてきた女子は職員室に呼ばれていた。
「せんせー、この人たち、しろのお尻触ってたよぉ?」
「有罪!」
「嘘だそんなことー!」
このように。
……ちなみに、クラスはとても賑やかである。担任の教師含めて。嶺音、ありがとうね報告してて。でもその先生は信頼できないかも。
あ、担任は右ではないし、氷室先生でもないしロリコンでもない。
その名前は四条 匠慧。新卒でイケメンの教師。ただし常識の範囲内の変態男だ。
「俺だって雪宮にセクハラしたいんだぞ! それなのに!」
「先生?」
「こんな可愛い子にお触りしたくない訳ないだろ!」
「先生?」
……まぁ、ネタで言っているのだろうが。もしも本気なら、先生の事セクシャルハラスメントで訴える事も辞さない。
「……そう言うか、変態教師め!!」
「失礼だな、冗談だよ」
「ならばこちらは氷室(先生)だ」
「やめてくださいお願いします」
氷室先生を呼んでおけば恐らく叱ってくれるので、脅しておいた。ノリがよくて助かる。
「あー、またセクハラあったら言ってね。氷室先生に報告するから」
「いえ、直接言うので大丈夫です」
「えっ……俺そんな信用ないの……?」
あると思いますか? さっきの発言を見返してみてくださいよ? 僕にセクハラしたいんですよね?
「違いますよ、信用も信頼も……まぁ、出来なくはない……けど、安心ができないだけです」
「酷くない? 言い方的に信用も信頼もそんなされてないじゃん俺ぇ……」
残当。
セクハラしたいって言ってきた教師が安心できると? ロリコンしかいないのか? ここの教師には……いや氷室先生は違うか。
「……まぁ、俺どちらかって言えば白兎みたいなのよりは、年上のお姉さんの方が好みなんだけどな」
「へぇ……どうでもい……んんっ、でしたら篠宮先生とかどうです?」
「あの人俺より年上なの?」
「確か26歳でしたよ」
「マジか年上か……割といいかもな」
……ロリコンしかいない、じゃなかったな。
正確には変なのしかいない……か。
「でもあの人可愛い女の子にしか興味がないですけどね。あ、もしや女装するんですか? 先生結構似合いそうですよね」
「しないよ? 雪宮は何を言っているの?」
「一厘くらい冗談ですよ」
「99%本気なの???」
……もし篠宮先生にその気になって、女装を始めたとしたら笑ってやりますよ。
……え? 何で僕が四条先生と篠宮先生がくっつけようとしているのかって? 篠宮先生の矛先を四条先生に向けさせるためかな?
◇
意外かもしれないが、食堂で一番人気のない物は塩ラーメンである。色々な要因により不人気なのだ。香りの割にスープが薄いやら、値段が高いやら、量が多いやら、見た目が悪いやら。
僕は入学した頃、好奇心で一度だけ頼んだのだが、噂通りであり、そりゃあ人気ないだろうな、といった味であった。
鶏ガラを煮ているらしく、値段が高いのは当然だろうが、やはり値段の割に美味しくはない。
尚、醤油ラーメンや豚骨ラーメンは普通に人気である。
僕は食堂に来たのだが、望乃とリリィは先生に荷物運びを手伝わされていたため「泣きたい」「重いです……」、今来ていない。
一人の僕は、食堂の醤油ラーメンは食べた事がなかったため、頼んでみることとした。
……のだが。
「……あの、すみません……僕、醤油ラーメンを頼んだと思うんですけど」
「はいそうですね」
「……これ、塩ラーメンですよね?」
出てきたのはどう見ても塩ラーメンである。食堂は優しいおばさんと、こだわりの強いおじさんがいて、おじさんの方に対応されてしまった。
「いえいえ、"し お うゆ"ラーメンですよ」
「いや、うゆって何ですか」
「うゆー、わかんないうゆー」
「きも……」
「ごめん」
うゆってなんだよ。うゆって。
……だがどうしようもなさそうなので、諦めて食べることとした。
「……お、美味しい……?」
麺を啜ると、前とは比べ物にならない程美味しくなっていた。見た目は改善されていなかったが、スープはある程度濃くなっており、量も常識的になっている。
「……あの、塩ラーメンに何があったんです?」
「塩入れてみたら良くなった」
「……もしかして今まで塩入れてませんでした?」
「そだね」
「何してるんです……?」
薄いのは当然であった。"塩"ラーメンだというのに塩を入れていなかったのだから。
「……塩ラーメン、美味しくなったよって皆に言ってくれない?」
「いや、やり方悪いと思いますけど……? というかそれなら看板でも立てておけばいいじゃないですか」
「天才か……!?」
貴方の頭が足りていないだけなのではと思いつつ、食堂を後にした。
……尚、塩ラーメンは少し売れ行きはよくなりはしたものの、以降もあまり売れることはなかったという。店主は泣いた。
次回:先輩達はペドフィリアなの?




