衣装も名前も
寝ぼけ眼で自分のスマホを見て
大きな欠伸をする
「…眠い」
とはいえ、時差が存在しないのであれば
時計が指し示しているのは昼前であり
健全な社会人であれば、とっくに出社してる時間で
休みだからと寝過ごしてしまったらしく
そして、昨日三人に言われた事を思い出して
溜息を付いてしまう
彼女たちが演じてみせた《スターライト》
それは、いくつかの問題点を抱えながらも
及第点をあげられる出来なのは確かだった
シロナは確かに、それを完璧に歌い上げていて
リーフィアの踊りは、寸分狂いなくこなしていて
ニナの笑顔は、どんな瞬間も絶えずこちらに向けられて
それなのに
シロナはミスを恐れるように思い切れなくて
そこになんの感情すら込めようとはせず
リーフィアのそれはまるで模倣でしか無くて
ただ機械的とも言える正確さしかなくて
ニナの笑顔は、ただ必死に懸命に作られた
貼り付けられたような無機質さで
俺が描いたアイドルとは似ても似つかない
歪な贋作でしか無い
《ジュエリスタ》を、譜面をなぞるだけの劣化コピー品
「ジュエリスタになって欲しい訳じゃ無いんだよな…」
俺は彼女達に宝石になって欲しい訳ではない
それでも、曲も作れず、歌詞すら書けず
振付一つ作れない俺が彼女達をアイドルにしようとすれば
そんなお手本を提示するほかなくて
だからこそ、必死にそれに応えようと
歪な贋作に成り下がろうとしているのは分かっているから
俺は彼女達に何も言えない
それが命令だから、奴隷だからなんて
彼女たちが演じてしまう事を知っていて
これは契約だからと諦めるしかないのだ
それを考えながら、財布代わりの小袋をひっくり返してみる
「…結局、この世界でも金欠か」
そこにはもう、金貨はなく
多少ばかりの銀貨と銅貨が有るばかりで
…正直言えば、この生活は痩せ我慢でしかない
あの時払った金貨は決して安いものではなくて
持っている全財産と言っていい金額だった
そんな有様の俺が彼女達三人に
ごく当たり前の、出来ればちょっとした贅沢まで
与えようとすれば毎日働くしかなくて
そして、働いたところで生活が楽になる訳でもなく
「こんな事ならもう少し経営学とか」
「なんか役に立ちそうなことやっとけば良かった」
ユーキャンで取れる資格の中で、異世界で使えそうな物
あっただろうか
…ボールペン字講座とか?
そこまで考えて、どちらにせよ
家の中では受験することが出来ないことに気がついて
「後悔先に立たずってね」
布団から起き上がり、部屋を見る
……この部屋にあるものを売り払ってしまえば
多少なりとも余裕のある生活になるのだろうが
それを売ってしまう訳には
大切なものを失ってしまう訳にはいかず
だから、俺はそれを思い出し
宝石たる彼女の告げた言葉を口にする
「…信じれば、夢は叶う」
そんな言葉が俺を突き動かす原動力
こんな訳のわからない世界ですら生きていこうと
彼女達をアイドルにしようと、思わせた言葉
…とはいえ、課題は山積みだ
歌と踊りは彼女達にどうにかしてもらうとして
「衣装とユニット名は決めないとだよな」
彼女達に刻まれた隷紋を思い出してしまえば
露出が多い服は着れない
ならば、学生服のような衣装はどうだろう?
チェックスカートにブレザーなんて可愛いんじゃなかろうかと
それを少し考えて
「……皮肉が過ぎるか」
何も知ることを許されなかった彼女達に
そんな服を着せるのは悪意しか感じなくて
与えることすらせず
取り繕うように、そんなものを渡すのは嫌で
「amazon使えれば早いんだけどな」
速達便で、ポストにインして貰えれば
悩む間もなく問題解決と言えるのだが…
何を着せても本質は変わらない事は分かっていて
それでもアイドルに必要な物で
「…取り敢えずスリーサイズも身長も体重も」
「何もかも知らないんだよな」
なんていうのは冗談だが
彼女達の個人的なプロフィールを知らなくて
何が好きか、何が嫌いかわからず
そんな彼女たちの上辺しか見ていない
リーフィアが従順で世話焼きに見えるのも
ニナがで無邪気であどけない天使に見えるのも
そしてシロナが皮肉屋で、反抗的で
自分たちの立場をよく理解した様なリアリストに見えるのも
どれもこれも、薄っぺらな衣装でしかない
容易に変えられて、使い捨ての見栄えの良い
外面だと知っていて
そんな取り繕われた物にしか触れる資格は無い
彼女達に寄り添っていいわけじゃない
所詮は作られた衣装だ
でも、俺は求め続けている
金貨30枚の価値すら無いゴミ屑だと
ただ、買われただけの奴隷だと
使い捨てられるだけの消耗品だと
なんの意思すら持たない人形だと
それを否定するために
俺は彼女達に夢を見せ続ける
当たり前に有る筈の生活、与えられなかった普通
そして、より良い未来
そんなふうになっていいと思える理由を
アイドルたる偶像を与え続けて
決して、無価値では無いと
ここにいる意義が有るのだと
それを信じていいのだと
ただ生きていいと
「…馬鹿みたいな話だよな」
自分ですらそう思いながら
それでも諦めきれない、ただのエゴで
俺は息を吐く
この関係性にすら
どんな名前を付けていいのか分からないのに
一つも知らないくせに
彼女達に一体どんな名前を付けようというのだろう?




