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その本質

「ただいまー」

「お菓子とお肉買ってきたよ」


ヘトヘトになりながら家に帰れば

玄関まで走ってきたのはニナで

「お兄ちゃん、お疲れ様」


曇りない笑顔を向けられて

…天使って実在したんだなーなんて思ってしまい


俺から、肉とお菓子の入った紙袋を受け取るリーフィアも

俺に笑顔を向けて

「お勤めご苦労様でした、アヤトさん」

「お風呂沸かしておきましたから」


マジで、奥さんにしたいランキングとか作ったら

上位食い込むんじゃ無いかと思う良妻っぷりに感涙しそう


ニナが言葉を続ける

「…えっと、踊りと歌を練習したから見てくれるかな?」


…彼女達に別に練習しろと言っていないが

自発的にやってくれているのなら、それに越したことはなく


「みんなで練習したの?」

リーフィアとニナは想像つくけど

シロナが自発的にそんな事をやるとは思えず

俺はそれを聞いてしまう


それにリーフィアが答えて

「もともと、シロちゃんが言い出した話ですから」

「歌と踊りの練習しようって」


やる気があるのか、はたまた何かの皮肉なのか知らないが

どうやら、言い出したのはシロナらしく


「ちなみに、なんの曲かな?」


ニナはそれを考えて

「スターライトって曲だったと思うよ」


《ジュエリスタ》の代表曲であり

ファーストシングルでもある《スターライト》


向こうの世界では、聞いた事ない奴は居ないんじゃないかと

思えるくらいメジャーな1曲で


「メロディも覚えやすいし、音域も広くない」

「振付なんかも難しくなくて」

「いいセレクションなんじゃないかな?」

初めての曲にピッタリだろう


「それもシロちゃんのチョイスです」

シロナのアイドルとしての嗅覚に少しばかり感心を抱くが


「で、当のシロナはどうしちゃったの?」

いつもは、無表情ながら出迎えに来る彼女だが

今日はその姿は見当たらず、二人にそれを聞く


「ずっと練習してたので今、少し寝てます」


「目にクマのあるアイドルなんて見たくないからって」

「シロっち、そんなこと言ってたよね?」


…なるほど、言いつけは守っているらしい


「なら先にお風呂入ってくるから」

「出て着替え終わったら見せてくれるかな?」


それに二人は頷いて

「結構自信あるから、楽しみにしててよ」


風呂から出て着替え終えた俺がリビングに戻ると

三人揃っていて

「シロナ、おはよう」


シロナは少しだけバツが悪そうに

「…おはようございます、ご主人様」

「お出迎え出来なくて、すみませんでした」

ペコリと頭を下げる


「じゃあ、練習したの見せてくれるかな?」


俺がそう言うと、シロナはタブレット端末に触れ

《スターライト》のイントロが流れ始め

多少バラつきが有りながらもそれに合わせて踊り始める


…ダンスのキレは経験者だからか

やっぱりリーフィアが一番で頭ひとつ抜けて

ニナが笑顔を作りながら、それに喰らいついている


シロナはまぁ…盆踊りよりマシな程度で

それでも、短期間で振付を覚えたのだから

必死に練習したのだろう


だが、打って変わって、歌が始まりシロナがそれを歌えば

透き通る声に、完璧な音程で歌い上げて


ニナとリーフィアはどこか遠慮がちに

小さい声でそれを口ずさんでいて


一番が終わり、そこで演奏を止めるシロナ


「…今のところこんな感じね」


なるほど、どうして

短期間でここまで仕上げたのには頭が下がるが…


「正直、微妙というか」

「見てられないって感じだったな」


それが俺の抱いた感想だった


息を吐きながらそれを聞くのはリーフィアで

「私の場合は歌ですか?」


「歌は声が出てないってだけで」

「別に練習すればどうとでもなりそうだけど」


「じゃあ、あたしは?」

それを聞いたニナに俺は即答する

「ニナの場合は笑顔だ」


最後に口を開いたシロナは

「とすると、私は歌とでも言いたげね?」


ご明察の通り、俺が指摘したいのはそれだった

各人ともそれに、不服そうな表情を浮かべていて


「音程は問題なかったと思うけれど?」

「なんだったら《ジュエリスタ》より上手い自信がある」


確かにシロナの言う通り

病的なまでに音程は正確であるが……ただそれだけだ


「…シロナはライブの映像を見て何を思った?」

シロナの目を真っ直ぐ見てそれを問う


「…音程も滅茶苦茶」

「もはや、歌ってるっていうか叫んでて」

「正直下手くそだと思うわ」


それも感想としては何一つ間違いではないけれど

だけど本質を取り違えていて


「アイドルは歌手じゃない」

「そして、ダンサーでもない」


シロナはそれに反発する

「歌すら歌えず」

「それで、笑顔を振りまいて」

「簡単な事すら出来なくて嘲笑されるのがアイドル?」


「違う、そうじゃないんだよ」

そんな、馬鹿げたものがアイドルじゃない


「何が違うの!」

「私は完璧にやったわ」

「間違えず、ミスをせずやり切った」

「ちゃんとそれを歌いきった」


「それの何が不服なのよ」

昂ぶったシロナをリーフィアが制止する


「シロちゃん、感情的になり過ぎだよ?」

「…私達が至ってないのは分かりました」


だが、それを言うリーフィアの目は

納得していないと俺に告げていて

「では、アヤトさんの言うアイドルになるには」

「どうしたら、いいんでしょうか?」


「…難しい話だね」

「聞いてしまう時点で、そこには至れない」


自分でも酷く理不尽なことを言っている自覚はあるが

でも、そう言うしかないのだ


ニナは俺を悲しそうに見て

「あたし、お兄ちゃんの言ってること全然分かんない」

「意地悪言ってるの?」

「ニナは一生懸命やったもん」

「頑張って歌って踊って、いっぱい笑って」


「…そうだね、みんなよく頑張ってる」


彼女達はみんな、根本的な事を間違えていて

そして、俺に正す事は許されない


そこで俺は笑顔を作って


「取り敢えず、ご飯にしよう」

「今日はマルー豚を買ってきた」


三人の顔は浮かないままそれでも言葉を返した

「…分かりました」


三人分の調理を済ませて

ちゃぶ台の上に配膳をする、この家のいつもの光景


「レイトさんは食べないんですか?」

いつもは、そんな事を聞かないリーフィアが

そんな疑問を口にして


「もう外で済ませてきたから」

「俺は要らない」

そう告げてリビングを後にしようとして

「それと、ちょっとやらなきゃいけない事あるから」

「部屋には入らないでくれ」


それにシロナはこちらを見もせず

「ええ、ご主人様の大切な物がいっぱいあるんでしょう」

「分かってますから、立ち入りません」


大切な物ねぇ……

まぁ必要なものなのは確かだろうと

俺はそれに苦笑いして


「お菓子、リーフィアとシロナのぶんもあるから」

「ちゃんと食べなよ?」


それだけを言い残して部屋に入った

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