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転職先は

そんな感じで

内定もらった会社に一度も出社しないまま迎えた転職


転移した先で職探しの略だけど

間違ってないのが悔しい


俺の職場たるそこに、たどり着いて

扉を開ければ


「遅せぇぞ見習い!!」

響き渡る怒声の先にいるのはコックコートに身を包んだ

トラっぽい獣人の料理人である、コルベットさんだった


「すいません、すぐ着替えます!」


ーー転移したのだから、最強スキルだのチートだの与えられて

それで無双する

もしくは、現代知識を活かして異世界でボロ儲けする


俺が知る物語は、そんな風に特別になれる物ばかりで

そうじゃない、漂流者なんていうのが俺で


俺はこの世界に来て、何も与えられなかった

特別な力も、知識も、スキルも地位すら何一つ無くて


言ってしまえば世界の常識すら知らない、ただの人間で

そんな人間ができる仕事はそう多くなかった


単純な肉体労働は、奴隷が担って

それを使って商売するには、当たり前を知らない俺が

唯一ありつけた仕事は…高級レストランのウェイター


給仕すらも、奴隷を使わないなんていう

そんな見栄が過ぎた、縁のない場所が俺の職場だった


着替えを済ませて、厨房に入ると

仕込みをしている料理人たちの怒声が響く

「ニルの実シロップ、何でこんな無いんだよ!?」

「誰だ、発注した奴」


…あー、多分俺だ

たしかコルベットさんに聞いた数、発注した筈だが


「俺ですけど…コルベットさんに幾つ必要か聞きましたよ?」

そう答えるが、当の本人は素知らぬ顔で何も言わず


「テメェの発注ミスをコルベットさんのせいにすんのか?」

牙を見せて睨む獣人の料理人


…またこれか

最初のうちは俺のミスだと諦めていたが

暫くここで働いて、そうでない事を薄々理解する


厨房に入る彼らは皆がこの世界で劣等種と呼ばれる

亜人達で、店のオーナーと給仕たる俺達だけが人間で


店のオーナーは総料理長を名乗っているが

俺はここに来てから、一度も彼が料理したのを見ていない


にも関わらず、この街一番のシェフと呼ばれているのだから

多分、そういう事なんだろうと理解してしまい


建前と実情を見てしまえば

賞賛されるべきは彼らのはずで


それでも亜人だから、奴隷だから

そんな評価は貰えないと…


だから、これは憂さ晴らし

その為の捌け口でそれも業務だからこそ、この仕事は

割のいい給料を貰えて、離職率が高いと


だとすれば、この店のオーナーは優秀だ

抑えつけるだけでなく、しっかりと飴を与えて

自分より立場の低い弱者に、人間を据えて

それを高級レストランだからと宣うのだから


そして、その役目をしっかりと理解している俺が言うべきは

「…スイマセンでした、すぐに発注します」


文句でも、愚痴でもなく、謝罪と現状回帰の提案で


頭は考える為に付いてるんじゃないから

下げる為に付いてるんだと、それを実行する


「人間のくせに奴隷に頭下げて恥ずかしくねぇのかよ?」

そういう彼は給仕たる同僚の人間だが

別に俺は何もおかしな事をしているとは思わない


理想とプライドで飯が食えるなら勿論そうするが

そうでないのは、嫌というほど知っていて

そんな下らないものはゴミ以下だと分かっていて


今、俺よりもここの事を知っているのは彼等だから

俺は甘んじて、それをするのだ


店がオープンすれば、そこは戦場で

優雅な音楽が流れ、ゆったりとした時間を感じるホールと

怒声飛び交うキッチンの板挟みの中で笑顔を作り

テーブルについたお客様にオーダーを伺おうとして

「…このマルー豚のブレゼっていうのは美味しいのかね?」


俺はそれに、笑みを返して

「当店の料理は、どれも一級品ですので」

「お口に合うと思われますよ?」


食べた事ないから知らないけどね?



ーー「見習い、昼休憩だ」

そう言われた俺は、コルベットさんに聞いてみる

「これが…マルー豚でしたっけ?」

俺が指し示したのは客の残した残飯

「合ってるけど、それがどうした?」


それを俺は口に運び、咀嚼して

「上にかかってるのがリズベリーのソースですよね」


怪訝そうな顔で、俺を見る彼

それに釈明するように

「…お客さんにどんな料理か聞かれて、答えられなくて」

「こういう料理あんま食べたことないんですよね」


「…だからって残飯食うなよ」

「お前見てて思うけど、プライドとかってねぇの?」


呆れ返るようにしながらそう問われて


「いや、給仕として料理の事分かんないほうが恥ずかしいかなって思いますし」

「こういうの食べられる程、懐事情も芳しく無いんで」


そう言って笑う俺を見て、彼は溜息をつきながら

「旨かったか?」


「肉とベリーのソースなんて合うのかと思いましたけど」

「あっさりしてて美味しかったです」


「マルー豚は脂っこいから、そのまま出すとクドいんだよ」

「だから、酸味の効いたベリーソースを使う」

「…俺の自信作だ」


そう言った彼に聞いてみたくなる

「自分の店持ちたいとかって無いんですか?」


彼の作る料理は確かに美味しくて

それだけの腕があるならと思ってしまい


それに一瞬、コルベットの目は陰って

「そもそも、俺は奴隷だし」

「…獣人の俺が店を持ったところで、客なんて来やしねぇよ」

「さっさと休憩入れ」


そう言って厨房に戻ってしまって

一人残された俺は、椅子に座ってぼんやりとそれを眺めた









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