女王の見る夢
大分時間が空きましたが
会社の研修も無事終了したので
投稿ペース戻せるように頑張ります
一糸纏わぬ姿の少女は天蓋のついたベットに腰掛けて
目の前で醜態を晒す男を冷めた目で眺める
「…あぁアンナ」
「そう、もっと激しく」
男は譫言を漏らしながら
その目は虚ろに空を見て、焦点は定まらずに
段々と呂律すら回らなくなり
意味を成さない雑音を垂れ流し始めた男は
ーー結構な上客だと、そう言われていた気がしたが
目の前に転がるコレは多分目を覚まさないだろうと
そんなことを思いながら欠伸をして
すぐに興味を失ってしまったから、名前すら思い出せず
ただ、ろくでもない奴だったのは確かで
金さえ払えば、何でも出来るなんて
コチラの準備すら待たず粗相して
少女は衣服を身に着けながら
外に控える小間使いに聞こえるように
「…終わったから」
それだけを言い残し天蓋ベットのカーテンを閉めて
小間使いが床に転がる
男の死体を片付けているであろう音を聞きながら
ベットに横たわって、息を吐き
ーーこんな化物に金を払ったわけじゃねぇ!!
男の言葉が頭の中で反響し
怯えと蔑みの混ざった眼差しが少女の心を苛立たせる
私を見ない癖に、愛してるなんて囁く癖に
結局誰もが私なんて見たくない
それなのに、定型文みたいに決まり文句みたいに
「もっと君が知りたいだなんて」
汚い欲望を愛だなんて、夢だなんて語って
私に触れようとする
だけど、それに縋らなければ生きられない自分は
もっと愚かしく思えて
コツコツと床を蹴る硬質な革靴の音がベットの前で止まり
「…今開けないで」
震える声で、精一杯に呟いて
今の私は男に言われた通り、誰かに見せられる顔をしてはいないと自分がよく知っているから
「女王様?」
「清掃が終わりましたので」
「お部屋に出られても結構です」
極めて事務的に告げられる言葉は
決して私の機嫌を損ねぬようにと注意を払っているのか
低姿勢に敬うような響きであり
それを聞いた私は苛立ちをぶつける様に
天蓋のカーテンを思いっきり引き姿を露わにし
真っ赤に染まった双眸で睨みつける
「女王様だなんて」
「…私を見て同じ事が言える?」
ーー心を透かすだなんて
こんな眼は欲しくなかった
上辺だけと、繕うだけだと
どんな言葉も私を満たしはしないから
ーー理想を見せるだなんて
こんな瞳も欲してはなかった
それを見てしまえば、自分が以下に
矮小で陳腐で愛されるに足らない
そんな存在なのだと見せつけられてしまうから
私を見て、その小間使いは
必死に悲鳴を堪えるようにしながら
先程、無様な姿で転がっていた男を思い出したのであろう
怯えるような表情を隠しきれず
そんな眼すら無くとも
どんな感情を抱かれているかは明白で
「…もう行って」
硬直したままの小間使いは
慌てて踵を返し、私独りの空虚な部屋に
勢い良くドアが閉じられる音だけが響いて
何時だって、私は孤独だ
どんな言葉も向けられるのは私の為じゃなくて
ただ一人遊びの人形なのだと理解していて
どんな化粧も、どんな衣服でも取り繕えない
美しく、可愛くなんて変われない
そんな私は着せ替え人形とそれ以下で
「あぁ…アヤト…早く来ないかな?」
どんな夢を前にしても
たとえ甘い言葉で誑かしたとしても
まるで、果実のように甘酸っぱい
純真無垢な感情を向ける彼は
必死に下心を隠すようにしていて
決して幻想たる私に触れようとはしなくて
だけと、この魔法も夢も
いつか終わりが来るのだと知っている
どんなに素敵な夢も、魔法も全部嘘でまやかしだから
それは、蜘蛛の糸を手繰るように
僅かばかりに力加減を間違えれば切れてしまう脆弱さで
失意に染まったその表情を幾度と無く見ながら
それでも私は繰り返してしまう
いつか間違えてしまうと
だって私はその人では無いのだから
サイドボードに放り出した仮面を付け
鏡の前に立って、手入れのされていないボサボサの髪と
奇異の目を向けられる顔を隠すように
所々綻びのあるローブのフードを目深に被って
台本通りに脚本通りに
演じ切るために深呼吸をひとつして
ふと、思い出すのは蔑むような狐耳の少女の顔で
その整った顔を見て
複雑に絡まった感情に触れて
まるで、愛されるのが当たり前みたいに
偽物だと馬鹿にするみたいにして
誰かに愛される癖に
誰にでも愛される偶像に成り下がろうとする
そんな彼女を見て
愛なんて要らないと嘯く癖に
誰かの心に居場所を持つそんな彼女を見て
一人乾いた笑いが漏れ出す
「…だれか、見つけて?」
誰にでも愛されるなんて
空虚な幻想に私は成りたくないのに
愛されなければ生きていくことすら許されない
真実の愛なんて、それこそ与太話と知りながら
それでも醜い自分を隠すようにしながら探し続けて
だって、そうとしか生かされる術を知らなくて
空っぽの私は何時までも満たされることは無くて
万人に愛される夢魔の見る夢は
誰かに愛されたいと願うなんて、それは
皮肉じみていると思いながら
アシェリは夢の時間を待つのだった




