幽霊の正体見たり
「…んじゃ戸締まりだけ、よろしく」
その瞳はぼんやりと焦点は定まっておらず
ここ最近は連日、仕事が終われば外に出て
朝方まで帰ってこないというのが何時ものパターンで
「ええ、分かったわよ」
特に咎める所以も無いとシロナはそれを了承し
アヤトは家を出ていって
扉が閉まった音が聞こえたのだろうか
今や寝室代わりとなった、アヤトの部屋から
伸びをしながらニナが出てきて、シロナに聞く
「またお兄ちゃんは夜遊び?」
それにシロナは頷き
「…特にお金を使ってる訳でもなく」
「別に不便ないから良いんじゃないかしら?」
これで毎晩と散財を繰り返し続けるのなら
実害を被るのだが、遊びに使えるほど金を
アヤトは持っていないと、それはよく分かっていて
ただ、それでも毎晩の様に繰り出し
帰って来た表情は疲れ切っており
ニナは少しばかり呆れたように
「別に好きにすれば良いとあたしも思うけど」
「あれじゃ、死んじゃうんじゃない?」
ーーそれは明らかに本人の許容量を超えるであろう
吸収が及ぼすダメージであり
ここ数日は、まるで夢現を彷徨うような有様で
「…シロッちはどうして、アレが夢魔だって気がついた?」
魅了や擬態
それを解くに一番手っ取り早いのは
見えているのが幻だと理解する事であり
使われる魔法自体が似たような物ならば
アヤトでも、完全には解けないまでも
効きづらくする位の効果は期待できて
現にシロナは魔法に耐性一つないが
見破ったからなのか、心奪われるような様子は無く
それにシロナは頭を振って
「残念だけど、私の場合は少し特殊ね」
「理想とする幻想を見たでもなく」
「居るはずが無い死人を見てるから気が付いただけで」
「…アヤトの場合は難しいと思うわ」
アヤトは、確かに此処に居ない異世界の人を見るが
彼自身も漂流者だと、違う世界から来たとそう言っていて
頭では理解できても根幹の心では否定しきれないだろうと
ニナはその返答に考えながら
「なら、加護持ちの装備か…」
「後は、霊薬位しか無いのかな?」
そうでなければ、後は英霊戦時に使われた
耐性付与の装備品位しか思いつかないが
現存する数は恐ろしいまでに少なく
それ1つでちょっとした屋敷なら建つような値段であり
おいそれと手を出せる金額でもない
霊薬と言ったそちらに関しては
万病どころか、老いや外傷にまで効くと
下手な加護持ち装備なんかよりも
よっぽど高値で取引されていて
「耐性のあるリーフィアですら」
「あの有様じゃ、それが効くかも半信半疑ね」
同じ加護持ちのリーフィアも
幻惑されているなら効果があるかは分からないと
「それに……」
「あれは本当に魅了なのかしら」
「なして?」
「どう見ても魅了でしょ」
「しかも、とびきり強いヤツ」
だが、どうしてもシロナにはそうと思えず
「仮にそうだとすれば」
「余りに効率が悪過ぎない?」
「魔力を得るのに、使う量が多過ぎなのよ」
そこに居ない人物をあそこまで再現すると
それなら使う魔力は少なくないはずで
対一なら、それでも釣り合うのかも知れないが
あの場に居たすべてに使うにしては
あまりに膨大な消費に思える
「アヤトが目的だったなら」
「彼にだけ、掛ければ事足りて」
「私達まで対象にする必要があったのかしら?」
ーーあくまで単一に向けた物を
わざわざ全員分使っているとすれば、確かに不可解で
「んー」
「こういう時はフィアちゃんに聞いてみよう」
ニナはそう言って、寝室代わりの部屋から
寝ぼけ眼のリーフィアを引きずってきて
「…おはようございます」
いまいち、状況を飲み込めていないであろう
リーフィアにニナは経緯を説明し
「…で、これってどういう事だと思う?」
説明を聞いているうちに
リーフィアもすっかり頭が冴えたのか
得体の知れないソレについて考え
「何となく、推論を立てるならですけど」
「もしかして、対象を取る物でなくて」
「受動的なのかも知れないですね…」
リーフィアの推論にシロナは頷いて
「言われてみればそっちの方が近いかも知れないわね」
「リーフィアの耐性が効かないのも説明が付く」
それにニナは首を傾げて
「…受動的の魔法って」
「フィアちゃんのみたいな」
「基本は防御とか耐性系じゃなかったっけ?」
任意に行使する訳ではなく
そういった魔法は受動的と呼ばれ
殆どは本能的な生体反応に近く
抑制出来るものでもない
そして、それならば
リーフィアの耐性が効かないのも無理は無く
「自分を守る為の受動的なら」
「私の耐性は使えないです」
「吸収だったら別ですけど…」
「考えると、フィアちゃんの耐性も」
「結構不便だったりするね?」
「…そうですね」
「ニナみたいに、身体能力の強化で」
「殴られるなんていうのには無力ですし」
「今回みたいな受動的にも」
「殆どが対応できないです」
結果として、自身に危害があろうと
自分、もしくは周囲を標的にした物でしか発動しないと
「もし、それだけ万能なら…」
「こんな身分に身を落とさないでしょうし…」
暗くなりそうな話題を察したのだろうか
ニナは底抜けに明るい笑顔を作り
「さて、フィアちゃんのおかげで正体も知れた事だし」
「…対策でも考えますか?」
ニナとリーフィアがそんな会話をする中で
シロナはどうして、自分だけが
あの夢魔に心奪われないのか
その理由に行き当たってしまって
ーーそれは多分、死人を見たからなんて理由じゃなくて
自分自身が、愛されたいと
他の誰かを、愛したいと
それが決して叶うことが無いと知るからと
そして、女王だなんて
誰からも持て囃される夢魔が何に怯えているのか
理解できてしまって
だからこそ、あの場にいた全員が
幻想を見たのだろうと
シロナは一人、行き着いた結論に
因果な話だと溜息をつきながら思うのだ




