人形の独白
ーー優しくて、甘くて、なんて美味しいのだろう
甘い香りの漂う部屋の中で
ぼんやりと空虚な眼差しのアヤトを抱きしめながら
女王と呼ばれる夢魔はそう満足げに笑みを浮かべ
私を金で買い付ける、下らない人間の夢は何時も
下卑た欲望と、一方的に押し付けるような愛と
そんな飽食しそうな、まるで脂ぎったような味がして
ただ腹を満たすだけの行為に飽き飽きする
願望だとか、願いだとか、理想だとか
綺麗に取り繕って見せたところでそれは所詮
ただ欲望に過ぎなくて
誰しもが皆心の中で自分の思い通りになる
そんな着せ替え人形を探して
そんな人形に意思なんて要らなくて
ただ欲望のままに、好きにしたいだなんてそれだけで
ーーだからこそ、私に違う偶像を見た
そんな彼は特別だった
だって、不完全で、思い通りにならなくて
決して自分の事すら好いていないだろうと思ってる癖に
何と替えても、欲しいだなんて
羨望の眼差しの先にあるのはこの人だなんて
一体どれ程迄に美しいのだろうと思い
少しだけ興味を持ってしまって
天蓋の付いたベットの上に彼を横たわらせ
普段目にしない様隠すように置いてある
全身を映す姿見の前に立てば
ーーそこにあったのは整って無いとは思わないが
それこそ、彼と一緒に居たアイドルなんて奴隷の娘達
三人と変わらないような程度の顔があり
なら、余程魅力のある身体付きなのだろうと
イメージを彼から引き出そうとするが
何一つそんな物は見つけられず
鏡の端に僅かに映るのは傷だらけの腕で
私は見てしまった事を後悔しそうになり
無意識の内に唇を噛む
夢を見せるなんて夢魔の癖に
下らない夢を見そうになってしまって
誰もが羨む美貌なら
至れないと知る理想で空想ならば
諦められると、そう思うのに
だけど、彼の見るその人は傍から見てしまえば
綺麗だからと、可愛いからと
報わなくてなおも縋りたいという様には思えずに
考えるのをやめる
甘い夢を見たら渇きを覚えてしまうと
そしてそれは満たされないのだと
私が一番それを知っているのだから
幸せな表情で夢を見る彼を見て
誰かの為に向けられた好意を啜りながら
鏡に映るそんな仮面は歪んで
悲しそうに、苦しそうに微笑んで
「…どうして、私は」
誰の理想にもなれるのに
誰にでも愛されるというのに
何時までも空虚な乾きは消えないのだろう?




