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目にするもの

それから数日後

このレストランは女王なんてサキュバスが来たと

話題になり、連日野次馬じみた客で店内はごった返して


「悪いけど数日間、全員出て貰えるか?」


連日のように朝から晩まで満席の中

休みなんて取っている暇も無いであろう

彼も相当に疲弊しているようで


「…いや、大丈夫ですよ」

「こっちも生活があるんで有り難いです」

「働かないと食べてけないですし」


騒がしい店内を見ながら

「コルベットさんの言ったとおり」

「一躍、有名店ですね?」


皮肉交じりに、そんな言葉を漏らし

それを聞いたコルベットも苦笑いを浮かべ


「…まぁな」

「店の売上は上々で」

「こんなこと言っちゃバチが当たるんだろうが…」


そこまで口にして、憤りを隠せないように

「ウチは料理屋で見世物小屋じゃねぇって話だよ」


店は人で溢れかえり、捌き切れないほどで

ただそれでも今この店にいる誰もが


普段目にすることの無い女王なんて

サキュバスを一目見ようと


或いは、流布された噂の真相を確かめようと

興味本位なんて、それでしかなくて


別にそこが料理屋である必要すら無く

例えば服屋だろうが、八百屋だろうが変わらず


ただ入場料代わりに注文を入れているだけで

そこに価値は求められてなどいないのだと


「…それでも口にされるだけ」

「アヤト達の状況よりはマシなんだろうがな」


誰が見るなんて、シロナの不安は杞憂で

比較されることすら高望みだと現実は遥かに残酷で


溢れんばかりの人を収容するために

ステージは取っ払われ

人員不足の中でライブを執り行う余裕なんて無く


それでも、連日のように皆が働いているお陰で

手元に残る金はいつもより多いのが皮肉じみていて


失言だったと思ったのであろう

コルベットは心苦しそうに

「…つまんねぇ事言った、忘れてくれ」


ーー自分でも分かっている

もし本当に魅力的だと、素敵だと、綺麗だと

どんな言葉でもいい、そう思うのなら


彼女達を理想と断ずるのなら


ステージなんて要らない

そんな物が無くとも、誰もが目を向けるから


だけど、シロナもリーフィアもニナも

そして俺自身すら、そうしないのは


見てしまったそれが、余りにも眩過ぎて

自分達のやる事が児戯に等しいのだと


誰に言われたわけでなく

そんなふうに思ってしまったからで


ーー来店を告げるドアベルが鳴った瞬間

店の喧騒は消え失せ

見るまでもなく、誰が来たのか分かってしまって

コルベットは皮肉る様にして


「…ほら来た」

「女王様のお出ましだぞ?」


「どうせアヤトが呼ばれんだから」

「ご機嫌を損ねないよう」

「オーダー取って、歓談の相手して」


「…最悪、アヤトが道連れでも構わないから」

「なるべく迅速にお引取願ってこい」


気まぐれの女王様は、なんの因果か戯れか

どんな取り柄すらない俺を気に入ったようで


コルベットの無茶振りにため息を吐きながら

キッチンから出れば、彼女の周りには人垣が出来ており


遠目にそんな彼女を眺めながら

やはり、背中に羽は見えず


「流石にこんなに見られると」

「恥ずいねー」


それはライブを行った時に客席に向けた

彼女の言葉で、否定しようと考えても


ーーもしかして、本当に朱里さんなのではと

思わずにはいられなくて


この異世界に俺が居るのなら

彼女だって迷い込んでいてもおかしくはなく


どう声をかければ良いのか分からずに

あの時のように、ずっとそれを躊躇していれば

彼女と目が合ってしまい、手を振られ

「やっほー会いに来たよー」


まるでモーゼと人垣が割れ

そんな光景を当たり前のように彼女は笑みを浮かべて

俺の手を取りテーブルまで引きずる

「アヤトくんも座って、座って」

「一緒にご飯食べよ?」


「いや…」

流石に仕事中だと断りを口にしようとするが

周りの刺すような視線に、逆らえず席に着いてしまい

「どれが美味しそうかなー」

「一緒に選んでよ?」

楽しげにメニューを広げて、覗き込むようにしながら


その端にあるニナが描いた絵が

頼まれるはずの無いそれが

否応なく目に入ってしまって、俺は目を伏せ


「…カレーにしようかな」

「こっちじゃ珍しいし」

彼女は当たり前のように、そんな事を言って

「それに、懐かしいもんね?」


いつかの出来事をなぞる様に

そんな思い出すら知る様に告げられて


ーーそこに居るのは彼女じゃない

心を見透かして、誑かそうとする夢魔だと

頭ではそれを理解してるはずなのに


じっと俺を見つめる彼女は

悪戯っぽい笑顔に、からかうような口ぶりで


「強情だねー?」

「欲しい物が、見られたい人がそこに居るのに」

「溺れちゃえば楽なのに」


「一生懸命、堪えて」

「指を咥えて見てるだけなんて」


彼女はそっと顔を寄せて囁くように

「ホントいじらしくって」

「…意地悪したくなっちゃう」


ーー近くでどれだけ見ても

顔も、仕草もその全ては寸分違いなくて


それがたとえ偽物だったとして

綻びすら無い幻想は、終わろうとしない夢は

果たして本物と何が違う?


そんな疑問が渦を巻いて

絡め取られそうになった瞬間に


ーー鈍い音と共に、テーブルの上にお冷が2つ置かれ

そこに居たのは、営業スマイルのシロナ

「…お冷になります」


それを聞いた彼女は芝居がかった調子で

シロナに笑いかけながら


「また、良い所で邪魔されちゃったよ」

「ご主人様が大好きなんだね、狐耳ちゃん?」


それを聞いたシロナは笑顔のままで

声音だけはどこまでも冷たく


「…別に、そこのはどうでも良いけど」

「その姿でうろちょろされるのが鬱陶しいだけよ?」


挑むような、その言葉に

まるで値踏みするようにじっとシロナを見て

堪えきれなくなった様に吹き出して、腹を抱えながら


「…あーおもしろい」

「アヤトくん本当に狐耳ちゃんに」

「心底、どうでも良いって思われてるんだ?」


彼女の口から、まるで可笑しいと愉快そうに

そして無邪気に告げられる言葉は

「…所詮は居なくなっちゃった」

「そんなご主人様の代わりだもんね?」


ーー理解していた筈の答えは

分かりきっていた言葉はそれでも俺を抉るようにして

シロナは無言のまま、何も言い返そうとはせず


「歪みきった関係の癖して」

「それを夢だなんて、おかしな話だね」

「…アヤトくん?」


もし彼女が心を読まず、知る筈のない

思い出をなぞるなら本人だという他なくて


心を透かすそんな眼があるなら

今の言葉が真実なのだと否定できなくて


そんな彼女の質問に答えることは出来ずに

俺は黙するしか無かった



























 





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