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夢魔

彼女が店から出ていった後

まるで嵐が過ぎ去ったような静けさの中で


テーブルの上の金貨の横に

一枚のカードが置かれている事に気が付き

シロナはそれを一瞥して


「…随分と気に入られたみたいね?」


ーーそこにあったのは一枚のトランプ

描かれているのは、ハートのクイーンで

「手の込んだ自己紹介だこと」

面白くなさそうにシロナは呟きを漏らし


そこに居る聴衆の視線など、まるで意に介さず

ただ気まぐれのような一言に、心乱され

どうでもいい仕草一つにまで目を奪われ


目にしてしまえば

女王なんて名で呼ばれるのを納得するが

「…あれも夢魔なのか?」


夢魔と呼ばれるそんな彼女達を見たとき

確かに心奪われ、綺麗だと魅力的だとそんな風に思って

不埒な事を考えなかったかと言えば嘘で


それでも、背中には羽があり

彼女達が夢魔なのだと理解できて


だからこそ魅力的なのだろうと思い

俺の知る誰かに見える事なんて事は無く


「…魅惑的に思わせると」

「それだけなら魅了(チャーム)ですけど…」

「姿形まで違うものに見せるなんて」

「どうなんですかね?」

リーフィアは考えるように呟いて


「そもそも、魔法に抵抗のあるエルフ」

「フィアちゃんにまで効くなんて異質だしね…」

困惑したようにニナもそれを言い


「シロナも言ってたけど」

魅了(チャーム)ってそれは魔法なのか?」


そもそもにして彼女達が何に驚いているのか

困惑しているのかすら分からず


リーフィアはそれを説明し始める

「順を追って説明しますね?」

「…えっとアヤトさんは」

「魔法と聞いて何を想像します?」


「そうだな…」

「例えば火柱を出したり」

「傷を治したりとか」

「…でなきゃ、暗黒の闇に飲まれろ的な?」


RPGで見るテンプレのような内容を口にして

それが、俺の持つ魔法のイメージで


「…最後のはよくわかんないですけど」

「アヤトさんの言うそれは」

「後天魔法です」


「得手不得手はありますけど」

「練習すれば使えるようになって」

「分かりやすく言い換えれば技能です」


「それで、魅了(チャーム)は先天魔法」

「種族に授けられた魔力の加護で」

「特性というんですかね?…」


技能と言われれば

何となくイメージは沸くのだが

種族に授けられた特性という部分が引っ掛かり


「才能ではなく…特性っていうと?」


「例えばニナ達、小鬼族は力が強い」

「私達、エルフは魔法が得意と」

「何となく知ってますよね?」


彼女達をニールから買う時

説明された中にそんな言葉があって


この世界の一般常識なのだと

当たり前のように聞き流していたが


「でも、小鬼族って筋力があるように見えます?」


…確かに言われてみれば

ニナは誰よりも小柄で、小学生のような見た目に

腕は細く、筋力があるようには思えず


非力というのもニナの角が片方折れているからで

それにしたって、俺なんかよりも力は強いが…


日雇いの現場で見た小鬼族の彼女達は

身の丈程の土嚢を2つ3つ軽々運んでいて


小鬼族の見た目にそぐわない力こそが

リーフィアの言う、先天魔法であり…

種族に与えられた特性なのだろうと何となく理解できて


「なら、夢魔と呼ばれる彼女達は種族として」

「人を魅了する特性を持っていて」

「それが魅了(チャーム)


「…例えばエルフは魔法が得意っていうけど」

「それは夢魔の特性で、先天魔法だから」

魅了(チャーム)は使えないって事で合ってる?」


鳥が空を飛ぶように

魚が水の中で生きるように


それ自体が生まれ持った資質や能力を含めて

この世界では広義に魔法と呼ぶらしく


「…良くできました」

リーフィアはパチパチと拍手をして


「私みたいな例外も居ますが…」

「私達エルフは後天魔法への適正が高く」


「その他にも加護として」

「魔法に対する耐性があるので」

魅了(チャーム)なんかは効かない筈なんですけど…」

リーフィアは困ったように首を傾げて


「…なら他に姿を変える魔法なんかはあるの?」


「んー無くはないけど」

「みんなが違う姿を見たんだよね?」


シロナはそれに頷きを返し

「…ええ、そうね」


「じゃあ擬態(ミミック)も違うだろうし…」


思い当たる、そのどれとも違うのであろう

結局そんな答えは出ず


シロナは息を吐き出して、店内を見ながら

「あれの正体は何でもいいとして」

「…困ったことになったわね


さっきまで静かだった店内は

いつの間にか喧騒に包まれていて

「つーか、さっきの娘」

「すげぇ可愛かったな?」


「本当、この世のものとは思えないっつーか」

「…彼氏とか居んのかな?」


―――話題は先程までの彼女で持ちきりで

其処に居るだけで視線を独占し、誰もがその声を聞き

憧れのような思いを抱くのなら


「アヤト?」

「私達、スターダストは」

「アイドルなんて不完全な偶像はどうするのかしら?」


シロナのその言葉に俺は唇を噛み


理想とすら呼べる、その姿を前にして

誰もが目を向ける光を目にして


「…女王じゃないにしろ」

「そんな夢魔達がこの店に来るのなら…」


「誰が私達なんて見るのかしらね?」


次の瞬間には当たり前にはないと

容易に潰えてしまう光と知っていた筈なのに


この世界でそんな夢を見せるのは

自分達だけと思い上がっていて


「夢魔ね…」

その名前は余りに皮肉じみて聞こえ


ーー其処にない幻想を、理想とする偶像を見せて

夢を食い物にして生きるというなら

「…営業妨害も良いところだな?」


そこに輝き始めた、星屑の見せる小さな光も

届かないと知りながら足掻く思いも

僅かばかりの些細な夢すら

ただ、餌に過ぎないと喰らうのだろうか?













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