表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

女王陛下

ーーテーブルの上に並べられた料理に口をつけながら

シロナは溜息を漏らして

「…それで結局、夢魔にたぶらかされて」

「アヤトはソファーで惰眠を貪っていたと?」

「呆れてものも言えないわね」


シロナの嫌味っぽい台詞に

それでも彼女達に起こされるまで

意識を手放していた俺はぐうの音も出ず


そんな俺をフォローするようにリーフィアは

「アヤトさんは男性で」

「それに、魔法抵抗も出来ないでしょうし…」

「しょうがないですよ」


そしてニナも微妙な笑顔を向けながら

「じゃなきゃ年端もいかないような」

「そんな子に興奮したり…しないよね?」


二人も口ではそう言ってくれているものの

テーブルに座るその距離は何時もより

心無しか遠い気がして


同じ家で暮らす三人にとって他人事ではなく

そんな反応になってしまうのも無理はないと諦め

テーブルの上の料理に手を付ける



テーブルに追加の料理が置かれて

それを持ってきたコルベットは上機嫌そうに

「まぁしょうがねぇよな?」

「アヤトだって男ってこった」


どうやら、件の会食の折に

貴族たちの金払いが相当に良かったのと


ーー「大変美味しい食事でした」

「今後も贔屓にさせて頂きますね?」


なんて、扇情的なドレスを着た夢魔達に

帰り際に言われたらしく


「…すごいニヤついてますけど」

「巻き込まないで貰って良いですか?」


それにコルベットはゴホンと咳払いして

「…馬鹿、お前アレだ」

「プシーのキャストだぞ?」

「どんだけ金払いが良いか考えろ」


まるで経営のことを考えていたと

取り繕おうとするが

それでは俺が男と言ったのは関係なく


「…それにもし女王(クイーン)なんて来たら」

「この店は一躍大行列だ」


娼婦が名乗るそれにしては

余りにも尊大に聞こえる通り名に


「どんな方なんですか?」

「その女王って」


非の打ち所のないような絶世の美女なのか?

はたまた、鞭を持ってレザーっぽいのを着た

加虐趣味のあるそれなのか?


多分、後者では無いとは思うが…

その名前を聞いて思い付くのはそんなところだ


「どんなって言われると」

「わかんねぇのが正直だな…」

そんなところに縁はないなんて

コルベットもそれを知らないようで


シロナはおもむろに口を開き

「…ただ気まぐれに、趣が乗らなければ」

「客すら取らず、相手とされず」


「どんなものすら彼女を縛り付けはしない」


「その姿を見れば、誰もが跪き」

「口にした言葉は逆らえず」


「一抹の夢の中に生きる彼女はまさしく」

「…女王と相応しい」


唄うような調子でシロナはそう言って

「やっぱりナンセンスね…」


「私を買った道楽者の誰かが」

「彼女に向けて作ったなんて」

「悪趣味な恋歌よ?」


買った者のなかに

女王と呼ばれる彼女に会った人がいたのだろう

シロナは、その顛末を嘲るように冷笑して


「…結局、湯水のように金を使って」

「借金のカタに私は買われてしまったから」

「その恋が実ったのかは知らないけどね?」


知らないとは言いながら今も彼女が客を取っているなら

実らなかったと、その答えは明白であり…


底意地の悪いシロナに俺は苦笑いして

「まぁ…何となく分かったよ」

「要は魔性の女とかそういう話ね…」


その男は全てを捧げてもなお

見向きすらされず


そんな彼女にとっては

どうでもいい存在だったのだろうと


「アヤトも引っ掛かるんじゃないわよ?」

「仕事すら貰えない夢魔にたぶらかされるなんて」

「脇が甘いんだもの」


今日の醜態は暫くネタにされるのだろうと

シロナの言葉に頷きを返して

「分かってるよ」


それにシロナは悪戯っぽく笑って

「そもそも、お金すらない貴方なんて」

「向こうだって願い下げでしょうけど?」


「そんな風になったら」

「私の口づけで起こすわよ?」


「…シロちゃん、大胆すぎ」

「ほんと、若さって怖いわー」


他から聞けば愛の囁きなんて

そんな風に聞こえる言葉は


ーー愛せば死ぬと言って

悲しそうに笑ったシロナは


まるで何でもないように言って

冗談じみた言葉は、俺には悲しく聞こえて


アシェリの持つそんな眼があれば

その心の内すら見えるのだろうか?

なんて考えてしまい


「…呆けた顔をしているけど」

「状況を理解しているのかしら?」

シロナに嗜められるが、何の事だか思い至らず

「…分からないならいいわ」

「まだそうと決まった訳でもないし」


コルベットは珍しく酒でも飲んでいるのか

何時もより少しばかり高めのテンションで


「取り敢えず、今日は一名を除いて」

「よく頑張ってくれた!」


「俺の奢りだから好きなもん食って帰れよ?」


そんな言葉にニナとリーフィアは

嬉しそうに歓声を上げ


「アヤト、お前は自腹だかんな?」

「…ですよね」

それでも、今日一日を考えれば

給料を貰えるだけ温情だと思い直して



ーー上手くいき始めたアイドル活動に

軌道に乗り始めた店に

多分その時、俺は浮かれていて

それが日常なのだと思い違えていて



シロナが言いかけた言葉の意味を

今になってやっと知ることになった























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ