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まるで夢のような

「食べ物は冷蔵庫に入ってるから、好きに食べていい」

「布団は少し狭いけど、それを使って」

「必要なものが有れば教えてくれ」

ご主人様たる彼は、それだけを言い残して

隣の部屋に消えてしまい


残された部屋でニナが口を開く

「…良くわかんないけど、どうしたらいいんだろ?」

それは誰に向けられた物でもない疑問だったが

シロナはそれに応える


「取り敢えず…湯浴みしてきたら?」

「お世辞にも綺麗な格好では無いわけだし」


それを聞いたニナは頷きを返して

バスルームのほうへ向かい

それを見送ったリーフィアが口を開く

「…シロちゃん、今日黒いよね」

そんな皮肉を聞いたシロナはどうでも良さそうに

「別に、普段通りよ?」

「ご主人様の目を覚まさせてあげようってだけ」

「私達が無価値なゴミ屑だって、分かってるでしょ?」


ーー彼の言ったアイドル、そんな物からは一番遠いと

私達がよく分かっていて

だからリーフィアは二人になった時に声を掛けたのだろうと


「…アイドルって、何すればいいんだろうね?」

不安そうな顔でシロナを見るリーフィア


それにどうでも良さげな声音で

「飽きられないように媚を売って」

「ご主人様の望むことをして」


「…なんにも変わんないよ、多分」


それを聞いたリーフィアは縋るように


「でも、アヤトさんはゴミじゃないって」

「奴隷なんかじゃないって言ってた」

「お前達はアイドルだって…」


「…アイドルっていうのがゴミの名前ってだけ」

「粗大ゴミとか、燃えないゴミとか」

「そんな類ってだけの話よ」


置いていったタブレット端末にシロナは触れて

続きを再生して、無表情に眺める


会場全てを埋め尽くす熱狂と興奮

それに手を振って笑顔で答え、歌い、踊る彼女達を見て

「…ほんっと気分悪い」


そんな物になれと言った彼に怒りを覚えるシロナは

彼女達の歌うそれを口ずさんで

「笑って、君を見て、また夢を描くから」

「…生きてる理由を僕に見せて?」


陳腐な言葉に、安っぽいメロディ

何一つとしていいところの無いそんな歌を

恥ずかしげも無く歌って、笑顔を向けて

そうまでして、生きていたいのかと問いたくなってしまう


リーフィアはそれにぽかんとした顔をして

「…シロちゃんって歌うの上手なんだね?」


適当に、口ずさんだだけだが

シロナのその声はよく通って、そして耳に残るようで


リーフィアはポツリとそれを漏らす

「…だから、アイドルにならないか?なんて言われたのかな」

リーフィアは踊りが出来ると言っていたし

ニナは無邪気に笑っていて

そして、シロナの声は良く通るのだから

確かに、役割としては分かるようで


「でも全部できなきゃゴミ以下なんでしょ?」

彼女達はみんな、歌って踊って、笑顔でいて

そんな全てをできる気はせずにシロナは吐き捨てる


「だいたい、あれだけの金額あればもう少しまともな奴が買えたでしょうに」


当たり前のように、彼が床にぶちまけた金貨を思いだして

シロナは苦い顔をしてしまって


「金貨30枚…」

それで私達3人を買ったとすれば

1人あたりの価値は金貨10枚だと、そういうことになり

そんな金額を、私達みたいなゴミを買うのに惜しげもなく使える彼はとんだ大富豪なのだろうか?


そして、そんなゴミを高値で買って

奴隷じゃなく、ゴミでも無く

私達をアイドルだなんて言うくせに


自分は一人隣の部屋で寝るだなんて、安っぽい偽善以外の何物でもないとシロナはそう思ってしまって


「フィアちゃん次入る?」

「すごいよ、お湯が出るの!」

バスルームから無邪気なニナの声が聞こえて

リーフィアはそれに笑う

「じゃあ私も入ってきますね」


リーフィアもバスルームに消え

一人になったシロナは、することも無く

そこに映る笑顔を眺め続けて

「…こんなふうになれる訳ないじゃない」


ーーおっきな会場を貸しきって、皆がそれに夢中になって

そう語った彼の顔はまるで夢を見ているようで

スポットライトに照らされる彼女達は輝いているから


ゴミ屑なんか誰も見なくて、彼女達は宝石だから輝いていて

でも、光ってなくても原石なんて言葉があるけれど

それは、磨けば光るから価値がある

光らない石ころを、そんなゴミを磨き続ける馬鹿はいなくて

それを私は知っているからーー


買ったばかりの服に着替えたニナは

少しばかり狹い布団に飛び込んで

「シロっち見て、凄いふかふかしてるよ?」

「ここで寝ていいなんて夢みたいだね」

それを楽しそうに笑うニナ


シロナも着替えて、その横に入る

「…ほんと」


ふかふかの布団は硬い地面とは大違いで

ここで寝るのはとても気持ちが良さそうに思えて


「いいご主人様で良かったね、シロっち」

「奴隷をこんなふうに扱ってくれて」


シロナはそれに笑顔を作って


そしてニナに聞こえないように呟く

確かに夢だと、そう思うけれど


「…ほんとに、最低の悪夢ね」











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