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招かれざる来客

悲鳴にも似た声を聞いて

談笑していた彼女はそちらに目をやり

「…知り合いの娘なのかな?」

決して大きな声を出した訳でないのに

その言葉はまるで、頭に直接響くかの如く聞こえて


引き寄せられるように逸らせない視線を無理やり

彼女の見る方に向ければ


呆然とした様子で、立ち尽くしたシロナと

羨望のような眼差しを向けるリーフィアがいて


「…あぁ、彼女達が俺の言っていたアイドルです」

それを聞いた彼女はまるで品定めするみたいに

シロナとリーフィアをゆっくりと眺めて

「…ふぅん、可愛らしい子ね?」


そして、また俺に視線を戻し

悪戯っぽい笑みを向けられて

「なんだ、結構隅に置けないねー」

「可愛い女の子を手籠めにしちゃって」


その言葉を聞いたシロナは

ゆっくりと息を吐きだして目を瞑り

「…アナタは一体誰なのかしら?」


敵意をむき出しに、彼女に冷たく問いただして

「…へぇ、狐耳ちゃんは引っかからないんだ」


「質問に答えなさい」

それに彼女はクスッと笑ってシロナに顔を寄せて

「どんな理想すら見ないのか…それとも」

「狐耳ちゃんが見るのは、もうここに無い人なのかな?」

シロナはその言葉に堪えきれなくなったのか


「鬱陶しいから、さっさとその魅了(チャーム)を解いて」

「本当の姿を晒しなさい」

「…アナタ、夢魔でしょう?」


彼女は少し驚いたように

「…あらご名答」

「やっぱりこれだけ居ると難しいわ…」

面白がるような笑みを携えて俺に顔を寄せ

彼女の瞳の奥にある妖しく光から目を逸らせず

どんな思考も纏まらなくなって


「…くだらない邪魔が入っちゃったから」

「今度はどこか二人で出かけよっか?」


そこで彼女は、一度言葉を切って

「前みたいに、私の部屋でもいいしー」

「まぁフライデーされなければ何処でもいいかなー」

そして耳元で甘く淫らな言葉を告げる

「ちゃんとアヤト君が男の子だって知ってるから」

「次は、遠慮しないでいいからね?」


彼女はテーブルの上に金貨を一枚置いて

その場にいる全員に聞こえるように

「じゃーこれはお代ね」

「アヤト君?次はもっと楽しい事しましょ」

手をヒラヒラと振りながら、彼女は扉を出て


その瞬間に霧がかったような思考がゆっくりと明瞭になり

次に感じたのは抗いようの無い虚脱感で

俺はその場に崩れ落ちそうになるのを堪えて

荒くなった息を整えようとする


ーー今のはなんだ?


さっきまで、露ほども思わなかった筈の

そんな疑問が渦を巻いて

「なんで、ここに朱里さんが居るんだよ…」


俺に夢を見せたアイドルたる彼女

そして、何も分からぬまま消えてしまったその人が

さっきまで俺の目の前にいて


その声も姿も笑顔すら記憶にあるそのままで

シロナがさっき言った意味がやっと頭に入ってきて

「アレが…夢魔?」

「この前見た時と全然違うじゃねぇか…」


こびり付くような思考を振り払おうと

苦し紛れに思い出すのはシロナの言葉で



ーー始めてサキュバスと呼ばれる彼女達を見たのは

今日から一週間ほど前の事で


「なんだってこんな面倒なことを……」

その紙に書かれていたのは、貴族達の食事会の日程で

貸し切りにして欲しいと通達があったのは昨日の話だと

コルベットにそう告げられて

「まぁ、一日くらい平気じゃないですか?」

「貴族なら金もいっぱい落としてくれるでしょうし」


それを聞いたコルベットは頭を抱えながら

「そんな心配はしちゃいねぇんだが…」

「問題は食事会の相手だな」

「…アヤトはプシークイーンって知ってるか?」


「いや、分かんないですけど…」


「まぁそうだよな…」

「要はとんでもなく高級な娼館なんだが…」

「そこにいる奴らは全員夢魔でな…」


ーーどうして、貴族の食事会にこの店が選ばれたのか

そこでようやっと理解が及んで


「味も良くて、奴隷が入れる店って」

「ここくらいしか無いって話ですか…」

大通りに構える高級店ではないが

味はそんじょそこらの店より良いだろうと言えて


「どうやらそうらしいが」

「そこで、お前に頼みたいことが有るんだよ」

コルベットは珍しく頼み事だとそう言って

「あの三人をその日出勤させてくれねぇか?」


「それは良いですけど…何でですか」

コルベットはため息をついて

「こっちに向けられてなくても」

「男はサキュバスの色香にやられちまう事が多くて」

「そうなったら仕事にならねぇ」


…なる程、貴族の嘲笑の的に

もしくは夢魔達と比較させるために

そこに立たせるのでないと安心して


「…コルベットさんとか」

「全然大丈夫だと思っちゃいますけどね?」

脇目も振らず職人気質な彼が

骨抜きにされるなんて、そんな姿は想像できず


コルベットは恥ずかしそうに頭を掻きながら

「まぁ…若い頃一度」

「頑張って金を貯めて行ったことがあるんだが…」


「さっき言ってたプシークイーンにですか?」

コルベットはそれに首を振って

「一晩で金貨が2枚も3枚も無くなるような店だぞ?」

「行けるわけねぇだろうが」

コルベットが言うそれは元いた世界なら

20万、30万と一晩に使う金額とは思えず


それを思い出すように苦い顔をして

「あれは…もう」

「理性とかそんな話じゃねぇんだよな…」

「ただ、それしか考えられなくなって」

「狂ったようになっちまって」

まるで、恐怖を覚えたかのような言葉に

少しばかり興味を覚えて

「そこまで魅力的なら一度お目に掛かりたいですね」

人を狂わせるほどの、そんな魅力なら

目にした時にどんな感情を抱くのかと

そんな面白がるような俺に釘を刺すように

「その日だけはキッチンの手伝い」

「裏方の仕事をしてもらう」


てっきり、三人が居れば休みかと

そんな安直な考えは打ち砕かれ

「久々に休みかと思ったら」

「でも貧乏暇無しだから、仕方ないか…」

渋々とそれを了承し

「んじゃ、彼女たちに伝えておきます」


ステージ以外の日に

三人がこの店に揃うなんてことはなく


「…おう、頼んだぜ?」

いつに無く真剣な面持ちでそう頼んだ

コルベットを見ながら俺は帰路につくのだった



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