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星屑

「…これは、もしもの話」

ずっと黙ったまま月を見ていたシロナはそう切り出し

俺に目を向けて

「アヤトに夢を見せた彼女が」

「貴方を好きだとそう言ったなら」

「その想いに応えられる?」


意図の見えないその質問に一瞬躊躇するが

「そう言われたのなら」

「俺は応えるよ」


あり得ないとは知りながら

仮定の話ならばと質問に答える


「アイドルと恋愛は別物じゃ無かった?」

「そんな物は求めてないなんていう癖に嘘つきね?」

…試されていたのか、引っ掛け問題だったのか

シロナは俺の回答を聞いて悪戯っぽい笑みを向けて

「でも、しょうがないだろ」

「アイドルだから好きになったんじゃなくて」

「好きな人がアイドルだったっていう話だよ」

始まりを知らないシロナに何を弁明しても変わらないが

でも俺の答えはそれしか無く


それを聞いたシロナは息を吐いて

「…ならもうひとつだけ」

「その人を愛してしまえば自分が死ぬとしたら?」


それを聞いた瞬間に息が詰まり

バラバラのピースは否応無く組み上がって


愛していたのなら、好き同士なら

恋人と呼んで、愛おしそうにあんな顔をするのに

その人を思って、涙を流すのにーー


「…殺したって、そういう事なのか?」

シロナは行き着いた答えを肯定するように


「くちづけをすれば」

「交わってしまえば」

「それは蝕む毒に変わって…」

「抗いようもなく死んでいく」


シロナは自嘲するように笑って

「ほんと因果な生き物よね」

「私をゴミなんて嘲る奴は殺したくたって殺せないくせに」

「愛してくれるそんな人は死んでしまうなんて…」


その独白を遮るようにして俺はシロナに聞く

「…なんでそれを俺に?」



「アヤトは優しいから」

「だから、間違えて欲しくない」


「知らないままに選び取って」

「死んで欲しくはないから」

「ただの忠告よ」


シロナはどこか寂しそうに呟いて微笑み

「…もしもの話はこれでおしまい」

それ以上は何も答える気が無さそうに

シロナは一方的な終わりを告げて


ひとつの疑念に行き当たった俺は

恐る恐るそれをシロナに聞いてみる

「その話を聞いた後に言うのも何だけどさ…」


まるで、俺が何を聞きたいのかを

分かりきったような顔をして

「…なぁに?」


シロナの言葉が本当だとすれば

そうと知って聞いてしまえば

「…もしかして、俺の事殺そうとしてた?」


愛して欲しいなんて台詞は意味を変えて

ただ、言葉の持つ意味はひどく曖昧で

そこにある願いは何だったかは見えず


無垢な想いか、はたまた甘美な毒か


「…さぁ、どうでしょうね?」

面白がるように俺を見る瞳から真意は窺い知れず

そして俺を掻き乱すようにして

「さっきまでの話だってもしもの話で」

「嘘かも知れないし」


そしてシロナは顔を寄せて

「……試してみる?」

熱っぽい吐息とともに囁かれるのは

動いてしまえば触れてしまう近さで


僅かに潤む金色の瞳には俺が映っていて

「アヤトが望むなら(やぶさ)かでもないわ」


息一つ許されないような静寂

まるで止まったような世界の中で見つめられて

身動き一つできないまま

「…冗談よ」

「私はまだあなたの奴隷で」

「夢を見せるアイドルだって分かってるから」

「だから、そんな顔しないで頂戴」


ゆっくりと近づけた顔を離しながら

どんな表情にも見えるそれを眺めながら

やっと忘れかけていた息をして


「あーこんな所にいた」

「起きたら二人共居ないからビックリしたよ」

「うぅ…頭痛いです」

全員分の衣装の紙袋をさげたニナと

この世の終わりを見るような顔をしたリーフィアが

店の扉から出てきて

シロナの一瞬、覗垣間見えた表情は消える


ーーあの瞬間、俺はどんな顔をしたのだろう?

触れてしまいたいと願ったのか

それとも、拒みたいと思ったのか

自分にすらわからず呆然としていれば


「というか、こんな所で二人は何してたのかなー?」


「別に何もしてないわよ?」

「ただ月が綺麗なんて、そんな…」

「そんな、どうでもいい話をしていただけ」


そんなシロナの答えを聞いた二人は空を見て

「…ホントだ」

「普段、夜空なんて見ないから気が付かなかったです」

輝く星と、照らす月と

それを見たニナは何かを思い付いたように

紙袋の中からペンと紙を取り出して

サラサラと何か書き始める

「なんかトレードマークが欲しいなんて思ってたんだけど」

「思い付いちゃった」


書き切ったそれを俺達の前に掲げて

そこにあったのは歪なペンタグラム

「…これは?」


「フィアちゃんの耳と、シロっちの耳」

「あとあたしの角で」

「全部繋げたら星になるかなーなんて」

「…どうかな?」


ーー全ては隷属の象徴で、繋ぎ合わされた形は歪で

それでも星に見えるのなら、それを描けるのならば

これほど相応しい物は無いと言えて

ただ、一点気になる所が有るとすれば…


「……すごい良いんだけど、俺の要素無くない?」


その言葉に、三人は顔を見合わせて

「…お兄ちゃんってなんか…こう」

「分かりやすくないっていうか」


「…何と言われると困っちゃいますよね」


「というか、そこに書くとしたら」

「腰にぶら下げたのくらいしか無いんじゃないかしら?」


…一気に卑猥な壁の落書きレベルになるであろう

それを想像しげんなりとなって


シロナは愉快そうに言葉を続ける

「どちらにせよ、有るか無いかわからな……」


「完璧な出来だからそれで行こう!!」

ヤケクソじみて大声で宣言し

それを見て三人は可笑しそうに笑って


ーー彼女たちの言うとおり


この世界でも俺は特別足りえず

ただの平凡な人間でしか無くて


分かりやすいスキルも、才能も

何一つ与えられず


でも、それでも誰かと足りない物を埋めあって

前に進むのだと


「ニナ」

「リーフィア」

「シロナ」

「…明日からもよろしくね?」


向けられた僅かに輝く物を見ながら

終わらない夢を描こうとそう思うのだ













次から新章となります




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