君を見て
「…もう良いわ」
どれだけの時間、そうしていたのかは分からず
シロナは弱々しい笑顔を俺に向けて
「…アヤトは何も聞かないのね」
前の主人と呼ぶ彼の事
恋人と呼んだ関係性
ーーそして、それを殺したと言うシロナに
聞きたい事は沢山あるけれど
「言いたい事は全部言えたかな?」
「…ええ、大丈夫よ」
「何を語ったところで、どうせ独り言で」
「ここに彼も両親も居ないと分かってるもの」
シロナはもう普段通りの落ち着きを取り戻していて
いつもみたいに、その言葉はどこか冷めたように
まるで自分すら俯瞰するかのようで
だけどそれは、弱さを隠すための
必死に抗う、強がりなのだと俺は知ってしまって
「そんなふうに想って、想われて」
「自分の為に涙を流してくれる人が居て」
「…心底、羨ましいよ」
それが、シロナを見て思った感想で
ちょっとだけ覗かせた俺の本心で
「別に綺麗なものじゃ無いわよ」
「ただお互いに目を背けて、分かりやすい嘘に縋って」
そこに咲く花を見ながら、シロナは呟く
「…最後に有るのは救いようも無い結末だけと知りながら」
「そこに足を踏み入れた、愚か者ってだけ」
そしてシロナは真っ直ぐに俺を見て
「アヤトは私を見てると、その言葉は嘘じゃないけど」
「私達に夢を見て欲しいと願う想いは本物だけど」
「でも、貴方の心に住むのは私じゃないでしょう?」
脳裏にチラつくのはいつか
ただ一人俺だけに向けられた笑顔で
名も知らぬ俺を君と呼ぶ彼女で
「……うん、そうだね」
「俺はそんな特別になりたかった」
「取るに足らない世界の部品じゃなくて」
「ただ、数多いるファンの一人じゃなくて…」
「無条件に、理由なんか無く」
「側にいていい、生きる為の理由になりたかった」
ーーだって、ズルいじゃないか
居なくなったって、こんな遠くに行ったって
忘れる事を許さないのに
もう彼女はそんな笑みを俺に見せることは無く
凡人たる、特別で無い彼女が抱いた夢の終わりを
辿り着いた先にあった空虚な結末を俺は知っているのに
一方的に押し付けられた、夢なんてモノを
捨てる場所は未だ見つからなくて
「私にはわからないのだけど」
「ジュエリスタとアヤトは同じ人間なんだから」
「そこに、なんの隔たりがあるというの?」
…シロナの言う事が答えで
獣人だから、種族が違うからとそれだから見える
あまりにも簡単な答案は
俺はその時に気が付けなかった
強いからと、アイドルだからと、俺とは違うと
目を背け続けて、そんな幻想に溺れて生きて
ただ眺めるままに日々を過ごして
シロナは画面の向こうに見続けた
宝石達を思い出すようにしながら告げる
「確かに、アヤトより顔は整っているでしょうけど」
「それ以外に何も違わないでしょ?」
「貴方が誰のファンだか知らないけれど」
きらびやかなな衣装に身を包み聴衆が見守るステージ
俺が彼女たちに語った、ジュエリスタの軌跡
そのシンデレラストーリーは間違いではなく
だがそれは、グループだなんてジュエリスタなんて
名前だけを見れば正しくそう言えるだけの話で
「…別にどの娘も好きじゃないよ」
「其処には俺が特別になりたかった」
「そんな彼女は居ない|」
ーー夢見たその場所に彼女の姿は無く
誰の記憶にも残らず、なんの記録にも残らず
宝石達なんて名前を失って
墜ちていった瞬間を見た者だけが知る
それは流星の様で
「彼女はそれになれなかった」
「皆の望むアイドル足り得なかった」
結局全部が幻想だったと、道半ばで潰えた夢は
消え入る瞬間眩く輝いた光は
それでも、残像の様にチラついて
無かったことには出来なくて
「…凡百たる人間はそこに至らないというなら」
「誰と知られる事無く、忘れられて」
「消えてしまうって言うのなら」
それが、夢の終わりで終点で
救いようのない世界の結論ならば
まだ俺は覚えてる
俺の為に歌われた歌を、向けられた笑顔を
告げられた言葉を、その全部を鮮明に
ただ一人観客が居れば、アイドルになれると
彼女がそう言ったのなら
「誰が忘れて、誰が蔑んでも」
「俺だけは知っている」
人は変われると、世界は変わるのだと
砕け散った欠片が
価値が無いと切り捨てられたゴミが輝くと
そんな自分が、夢見た彼女こそが
正しいとそんな証明を成すから
「成せなかった事を」
「私達に押し付けようなんて、随分な横暴ね?」
「別に理想なんて抱いちゃいない」
「期待も、希望も、楽観もそこには無いよ」
「だって、出来ると知ってるから」
彼女が俺を変えたように
その夢の輝きは誰かを魅了して
調子外れな声で俺は歌う
「…笑って、君を見て」
「また夢を描くから」
シロナは静かに、その先を継いで
「生きてく理由を…僕に見せて」
名も知られぬアイドルに恋した俺と
名も知らぬご主人様に恋したシロナと
見るのは、違う偶像で
「俺とシロナは同じ君を見てはいなくて」
「それでもただ、同じ夢を描くなら」
ここに無い
忘れられない光を見るのなら
ここにいる意味と、生きていく理由だと
断ずることが出来るなら
「忘れなくていい」
「諦めきれなくていい」
「シロナはシロナのまま全部抱えて」
「そんな夢を見せてくれれば良いから」
「…それでも、もし」
「シロナが抱く夢と想いを伝えていいと思えたら」
「俺に分け与えていいと、その時は」
後悔するような、悲しむようなそんな表情で
慈しむように愛を語るシロナが抱いた夢は
ーー今の俺には許されなくて
「その時は、聞かせて欲しい」
「シロナの全てを」
痛みも悲しみも全部
嬉しさも楽しみも余すことの無いように
シロナは息を吐き、とびきりの笑顔を俺に向けて
「なら、その時はアヤトも白状なさい」
「同じ仲間と、対等と呼ぶに足りる」
「そんな特別になった時には」
同じを見てはいなくて
どう足掻けど、描く理想には
もうそこに無い物にはなれないと知るけれど
「俺は君達をアイドルにして」
足りないものを埋め合い、誤魔化して
暗闇を照らす光とすればーー
「…そんな君達が世界を変えるなら」
いつか、人として生きて欲しいと
祈りが現実になるのならーー
「夢は終わらない」
「まだ結果は出ちゃいないんだよ」
紡がれた全てを、願われた全てを受けて
今、ここで俺達は息をして
遠くにある、手の届かない光を見ながら
それを夢と呼んで生きよう




