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全てはこの手の中に

「…何か思ってたのと違うし」

「これ、どこから着ればいいんですかね?」

「フィアちゃん?、後ろのボタン留めてー」


ワイワイと騒がしくそんな声が

布一枚で隔てられた空間から聞こえてきて


「えっと、大丈夫なんですかね?」


「ご心配には及びませんで」

「会心の出来と自負していますから」


あのまま、仕上げてくれと注文したその日

「手直しを多少入れてもいいか?」

なんて店主にそんなことを聞かれて


裁縫もデザインも出来無い俺は

安易に良いですよなんて言ったのだが…


着替えに戸惑ってる辺り、相当な直しを入れられたのでは

無いのかと、そんな疑念が尽きず

そわそわとした気持ちのまま、その瞬間を待って

「…着替え終わったわよ?」


仕切りの向こうからシロナの声が聞こえて

カーテンが開けられた時、そこにあったのは

同じモチーフと分かる統一感を持ちながら

一着ずつ、みんな違った物で


シロナは、着丈の長い襟付きのダブルで外套を羽織り

襟元に付くチェーンやボタンなんかは全て金色で

繊細な刺繍模様が入れられており

高級士官の、正装の様に見えるにもかかわらず

膝丈まで有るその着丈のおかげでワンピースのようにも見えて


リーフィアも本来であらば、下に襟付きのシャツを着てネクタイをするであろうそこは肌を露出させ、たわわな胸元を強調するようにしており、服の上からベルトで絞られフィットしているそれは、彼女のスタイルの良さをよく映えさせていて


ニナは、前止めボタンが上まで付いた、まるで音楽隊そのものの様なデザインを大胆にノースリーブのヘソ出しに変更し、本来袖の部分にはそれを模した飾りをつけているだけで、下はミニスカートにガーターベルトと折れた角を隠すようなサイズの高帽を斜めに付けて


軍服を模した堅苦しさなど、微塵も感じさせないような

アイドルの衣装と呼ぶに相応しい物で


「…いや、手直しの次元超えてんだけど?」


もう、モチーフ位しか原型を留めておらず

イチからデザインしたとそんな出来栄えであり

それは確実に、提示された料金以上の仕事量で


「凝ったの作るのなんて久しぶりだったんで」

「ちょっと張り切り過ぎましたね…」

「気に召さなかったですか?」


「いや、120%の仕上がりに、心配なのは料金だよ…」


最初に、金持ち風ショッピングをしてしまって

勘違いさせたのはコチラかも知れないが


ぶっちゃけ、提示された金額だってギリ

ここ数週間の食事だったりは

ちょっと見せられない惨状を呈していて


店主は青い顔をした俺を笑いながら

「最初のお代だけで結構で」

「奴隷三人抱えて、あっちこっちで旦那が働いてるの見れば」

「金に余裕がないのなんてわかります」


そう言われたものの、凝った装飾を見れば

原価代に程度しかならないであろう事は分かり

「…良いんですか?」



「配っているチラシを家の近くで貰ったんですよ」


どうやら、彼はレストランの近くに住んでいるらしく

「…誰に見られてるわけでもないのに」

「相手にされないでも、一所懸命やってて」


そこで店主は、一呼吸置くようにして

「分かっちゃいるんですよ」

「飯食って、寝て」

「楽しい事があれば笑って」

「悲しいことがあったら泣いて」

「何も変わんない、それを奴隷って呼んでるって」


店主はしみじみとそんな言葉を漏らして

「それでも、この場所で生きてく為に」

「商売をするには区別しなきゃならない」


自分の作ったものを卑下に扱い

所詮そんな物だと言う事を許せずに

そう思われてしまったら、生活できないからと

店主たる彼の言葉もまた、正しくて


ーー生きていく為には、そう割りきらなければと


「俺には、旦那もそこの彼女達も」

「何をしたいのかさっぱりわかんないですけど」

そう苦笑いを浮かべながら、それでも


「どうであれ、そんな服が必要なんでしょう?」

「旦那方には大切なものなんでしょう?」

俺達はそれに迷いなく頷いて


「なら、せめてそれを見せても恥じないように」

「誰が見たって立派だと思えるように」

「俺の出来る最高の仕事をしたつもりです」


そこにあったのは損得では割り切れない意地

自分の仕事に抱く誇りで

そんなふうに思わせたのは彼女達だから

「今後も衣装を作るならお願いできます?」


「勿論、ただでさえ少ないお客様を逃がしはしないです」

店主はそう、笑みを見せて


「この素晴らしい衣装の残りの代金は」

「…出世払いでもいいですか?」

リーフィアはおずおずと、それでも目を逸らすことなく

「必ずそうなって、お支払いしますから」


ニナも笑いながら

「流石に今の私達には厳しいけど」

「でも、貰いっぱなしじゃ駄目だもんね」


シロナは深々と頭を下げて

「…私達もこの衣装に誇れるように」

「ここで仕立ててもらったと胸を張って言えるように」

「精一杯頑張りますから」


買ったのは、多分衣装だけではなくて

価値もつかない、目には見えない

そんな誰かの想いこそが、俺達を動かすから


「…本当に有難う御座いました」

「これでやっと、ステージに立てる」


「俺が勝手にやった事で、そんな大層なもんじゃ」

そんなふうに頬を掻きながら店主は気恥ずかしそうにして


「ついでに、後もうひとつだけ」

「差し出がましいですが、彼女たちの晴れ姿を」

「貴方の作った衣装が輝く瞬間を見届けてはくれないですか?」


どうか彼にも見て欲しいとそう思った

誰かの思いが形になる瞬間があって

それが輝きに変わるのだと知ってほしいと


「…お店のオープンはいつで?」


ーーこの数日の間に

店舗の改装も調理器具の準備も全ては終わっていて

間に合わないかと内心ヒヤヒヤしていたが

これで役者も舞台も、そんな全ては整って


「…明日の夕方です」


店主は少し考えて

「店を開けてても客なんて来やしないし」

「なら、気分転換にでも見させてもらいますよ」


それを聞いた俺は芝居がかった口調を作り


「なら料理も、そしてステージも最高と言えるものを用意して」


俺は知ってる、獣人(コルベット)が作り出す料理の味も

ゴミと呼ばれた彼女達の持つ輝きも

その、どれも誇るべき素晴らしい物と知っているから


だから、告げるべきは感謝ではなく

自信に満ちた態度で、それを言うのだ


「ご来店をお待ちしてます」


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