宣戦布告
「…説明して貰えますかね?」
シロナと俺はフローリングに
誰に強要された訳でもなく背すじを伸ばして正座で座り
ニコニコと、笑顔を見せながら
殺気を振りまいているのはリーフィアだった
「二人で、裸で同じ浴槽に浸かって」
「一体、ナニを何してたんですか?」
「正直に答えてください!」
多少恥ずかしさを堪えるようにしながら
それでもリーフィアは睨みつけるようにして
明らかに、下世話な想像しかされてないだろうと
溜息をついて
シロナはこちらに目配せしてコソコソと
「…釈明の余地は有る?」
というよりも、完全な現行犯に違い無く
冤罪でもなければ無罪でも無い自覚があり
「いや、敗訴確定だ」
もう、不潔だなんだと一生罵られても仕方が無いと
三人を性のはけ口としてしか、見ていないと
軽蔑されるだろうと諦めようとした時に
「リーフィア、ちょっと耳を貸しなさい」
シロナは口元をリーフィアの長い耳に近づけて
何事かを囁いて
それを聞いたリーフィアの顔は青くなったり、赤くなったりと
まるで信号機のように目まぐるしく変わり
「…そんな高等なプレイを」
「それは確かに…シロちゃんじゃ無いと…まぁ」
「尻尾をそんなふうに使うなんて…考えられないです」
「…もう、わかりましたからッ」
ボンッとリーフィアが爆発したように
へなへなとその場に座り込んで
すべてを悟った仏のような表情で俺を見る
「…よく分かりましたから」
「アヤトさんはちょっとアブノーマルが過ぎてるんで」
「もう確かにシロちゃん以外、対応出来なさそうですし」
「今回は不問にしますけど…」
何?、なんか絶対変な勘違いしてる
「シロナ…ある事無いこと吹き込むのは止めてくれ」
そうシロナを咎めるのはものの
彼女は悪戯っぽく笑い
「だって、私の裸に欲情するんでしょ」
「それをちょっと誇大して伝えただけよ?」
…ちょっと?
さっきからブツブツとリーフィアが呟く中に
「尻尾コキ」なる新ジャンルなワードが聞こえてますけど?
もはや、弁明も撤回も出来ないであろう惨状に
頭を抱えていれば、ニナが起きて来て
「おはよー」
「お兄ちゃん服借りてたよ」
ニナは着る服が無かったのか
ダボッとした俺のワイシャツ一枚で
そんなワイシャツのボタンもだらし無く空いていて
チラチラと…布一枚の先が見えてしまって
「ニナも色々、意識してくれ…」
次アレ着る時に、良からぬ妄想をしてしまいそうで
「そうですよ、あんまりルーズだとアヤトさんの人外フェティシズムに触れちゃって」
「シロちゃんみたいにモフモフにされちゃいます!!」
それをニナは笑って
「あー、シロっちにフィアちゃんがなんか吹きこまれたんだ」
「フィアちゃん全部真に受けるから、面白いよね」
「ニナは俺が何もしてないって言ったら信じるの?」
彼女はうーんと顎に手を当てて
「お兄ちゃん、ヘタレだし?」
「大体、私達に色目使ってないじゃん」
シロナがボソッと
「さすが、最年長は見るところが違うわね?」
…聞き間違いじゃなければとんでもない爆弾発言で
恐る恐るニナに聞いてみる
「…ニナが一番年上?」
それに不思議そうな顔で
「そうだよ、気が付かなかったの?」
「私の次はシロっちで、最後がフィアちゃん」
「見ればわかると思うんだけど」
角を除けば、どう見ても小学生位にしか見えなくて
それでも、分かるというのであれば
「この世界では、成長すると胸が萎ん…」
言い終える前に、抉るようなニナの拳が鳩尾に入り
その場で悶絶してうずくまり
「…なんか言ったかなお兄ちゃん?」
「良かったわね、片方角が無くて」
「両方角があったら、貫通してたわよ?」
「貫通って…」
いつから異世界バトル物になったんだと
シロナのその言葉に寒気を覚えながら
笑顔のままのニナは、正しく鬼にしか見えず
苦笑いするしかない
「……すいませんでした」
「分かれば良いんだよ、分かれば」
ニナは、それにフフンと鼻を鳴らして
「んで、結局衣装はどうなったの?」
まるで、それは見ていたかの様に
そんな話をしていたと知るかのようにニナは言って
「どうも何も、あのままで演る」
「矢面に立つ君達には苦しい思いをさせるけど」
「一緒に戦ってくれるかな?」
ーーそう、これは闘いだから
絶対的な善も悪も
存在しない世界に対する宣戦布告で
歌を踊りを笑顔を武器に闘う彼女達の戦闘服だから
「俺はこの世界を知らない」
「でも、これだけは知ってる」
それはどんな世界でも変わらないと、よく分かってるから
「勝てば正義なんだ」
「大多数が口にすれば常識なんだ」
いつだって不確かで、間違えてばかりのそんな嘘でも
「夢だって、叶えれば現実だから」
「俺達は負けない」
「何時だって諦めずに、声を上げる」
「逆境も苦渋もそんな全てを、味方に変える」
「そして、世界すら変えてやるんだよ」
君達が居れば、心の底からそう思えるから
「だから…」
「偏見に、差別に、奇異の目に、暴言に、暴力に」
今まで与えられてきた、その全てに
「所詮そんなもんだっていう諦めに」
「勝てれば正義だから!」
「…勝てば官軍とはよく言った話で」
「負ければ賊軍よ?」
それに俺は笑い
「負けても無いのに賊軍なら、今更って話だろ?」
とっくに全部を失った、俺だから
同じ痛みを知る君達だから
「はぁ…夢の生活だと思ったんだけどなぁ」
そんな愚痴を冗談っぽく溢すのはニナで
「世の中そんなに甘くないって話ですよ?」
そう慰めるのはリーフィアで
「馬鹿が主人だと苦労するわね」
暴言を吐き散らすのはシロナだけど
その目はまっすぐ俺を見たまま
逸らすことなく
「やってやるわよ、アヤト」
「感謝しなさい」
シロナの恩着せがましい言葉にニヤッと笑い
「おう、ありがとな」
リーフィアが困ったような笑みを浮かべながら
「それは良いですけど、家を出る時間では?」
慌てて時計を見れば、そんな時間はとっくに過ぎていて
「やべぇ、遅刻だ!!」
「じゃあそんな感じで!!」
そんなふうに締まらない、台詞を吐きながら
玄関を出ようとして
「お兄ちゃん、いってらっしゃい?」
そんなニナの言葉に
ふとした疑問が頭を過り、時間が無いと知りながら
「…ニナって、今幾つなの?」
そういえば、そんな事すら知らないと気が付いて
「さぁ、幾つだろうね?」
ニナは軽く俺の疑問をはぐらかし、少しだけ真面目な声音で
「強制でも命令でも無くて知りたいと思ったなら」
「みんな色々有るから、いつかちゃんと」
「そんな全部と向き合えたら、話をしようよ」
未だ知らない彼女達がいて
俺の知らない傷があって
それでもいつかと言った彼女は笑う
「私達とお兄ちゃんが、対等になった時にさ?」
「…そうだな」
得たい物はまだ先にあって、それを夢と呼べるなら
進むべき理由があるのだから
「じゃ戸締まりはよろしく!」
そう言い残して、俺は全力で走り出して
職場への道のりを急いだ




