ただ前を見て
ある程度の所まで片付けを済ませ日が暮れてきたので
三人と家に戻って
台所に立つ俺を見ながら
「そういえば、お兄ちゃんお店に何出すの?」
ニナが言うのは、昼間の話の事だろう
「色々考えてみたけど…」
「多分、コレになるかな?」
三人は鍋の中を覗き込んで、苦い顔をして
「なにこれ…」
「全く美味しそうには見えないんだけど?」
「それに、この匂い」
「独特ですね…」
「…やっぱりこの世界には無いのか」
そして、シロナとリーフィアの反応を見るに
馴染みが無いだけでなく、受け入れ難いという風に見えて
ニナが恐る恐ると言ったように
「…これ、なんて料理?」
「カレー?」
自信はないけど、もどきくらいには仕上がったそれを見て
一応の料理名を告げる
料理下手でも、カレーなら作れるっていうのは
ルーがあっての話だと痛感するものの
一度に大量に作れ、温め直すだけで提供できて
なお原価もそこまで高価ではないと、良い事尽くめだ
「取り敢えず、食べてみようか」
皿に盛りつけて、三人の前に出すものの
色といい、匂いといいそれに口を付けるのは勇気がいるらしく
誰もスプーンを取ろうとはせず
「どう見ても、排泄…」
「ちょっとストップ!」
それは言わないお約束だとシロナの言葉を制止して
いや、まぁ色とか具合とかわからなくも無いけど
「じゃあ吐瀉…」
「それもダメだから!!」
世のカレー屋さんに対する営業妨害だからね?
飯テロならぬ、飯バイオテロと化した有様に頭を抱えて
「取り敢えず、一口でいいから食べてみよう」
「それで不味かったら、食べなくていいから」
それを聞いて、渋々といった具合でスプーンを入れて
少しだけ口に含んだニナはゆっくりと咀嚼して
「…あれ?美味しいかな」
シロナとリーフィアも、決死の表情で口に運び
「普通に美味しいわね」
「少し辛い気もしますけど…」
どうやら、最悪の評価は覆ったらしいと
肩をなでおろしはしたものの
ただ、やっぱりと言うかなんと言うか
「見た目で敬遠されるか…」
予想していなかった訳ではなく
確かに、風土料理なんていうのは元いた世界でも
遠慮願いたいものが結構あるし、分からない話でも無く
予備知識無しの見た目だけなら
お世辞にも食欲をそそるとは言い難いそれは
「…食べちゃいさせすれば美味しいんだけど」
「食べるためのハードルは高いかなー」
そう素直な感想を漏らすのはニナで
全くもってその通りだ
「他にも色々考えたんだけど」
「手間とコストが見合わないんだよなぁ…」
元いた世界と物価も材料もが連動している訳では無いこの世界で
試行錯誤を重ねた結果、行き着いたのがカレーで
ラーメンなんかも作れなく無いだろうが
必要とされる、調理器具も提供の手間も
カレーとは比べ物にならずに
「それでも敬遠されて、注文されないよりはマシか?」
口にされなければ、どんなに合理的であろうが
美味しかろうが、ただ無意味で
それは彼女達のステージも同じ事だと歯噛みしてしまい
ぐるぐると同じ所を思考は巡る
三人共、打開策を考えて
「なんか可愛いお菓子とか、デザートは?」
ニナが口にしたそれは
アイドルとセット売りとしての見栄え的には満点だが
「店のコンセプト的に、売れ無いだろうとは思う」
正直、客層を考えてしまえば、注文は貰えないだろう
「なら、飲料はどうでしょう」
「お酒とか…」
リーフィアのそれも、間違っては無いが
「差別化は難しいな…」
「同じ内容で、安いメニューがあるならそれを選ぶ」
彼女達をメインに据える店ならいざ知らず
店と彼女達には直接の関係性は何一つ無い
それを売る為に、正規のメニューから無くして欲しいと
そう言ってしまえば、ただのおんぶに抱っこで
最後に口を開いたのはシロナ
「なら話は簡単」
「「メニュー自体の価格を下げる」」
シロナと俺の声は重なり
「…そう言うんだろ?」
誰もが考えついて、そして一番簡単な解決策
売れないのなら、そうすれば良いと分かりやすい愚案
「別に俺のメニュー自体にはなんの価値もない」
「安売りして、売れるならそれでも良いと思ってるけど」
「その値段こそが、君達の価値と定義するなら話は別」
「安く見られるなんて、許さない」
「投げ売りするなんて、認めない」
シロナの目を見てそう告げて
「…はぁ」
「アヤトは最後の最後で非情になれないわね」
「自分のプライドなら平然と捨てる癖に」
「私達の事となると、どうしてこうも強情かしら」
それでも、俺の言葉を否定しようとはせず
どこか楽しげな表情を浮かべて
「奇異な物同士抱き合わせたって」
「ロクに売れもしないでしょうけど」
シロナは隣のニナを見て
「…ニナ、この料理の絵を描いてくれる?」
「それもなるだけ美味しそうに」
「リーフィアは、味の感想なんかを考えて」
「それも絵の隣に書くわ」
そして俺に笑いかけて
「売れなかったら、アヤト?」
「責任とりなさいよね」
「責任って…」
いつかも言われたそれを思い出してしまい
あの時は、その言葉に応えられず
ーーでも今なら、ちゃんと言える
「…任せとけ」
「どんな苦渋を舐めても、君達をアイドルにする」
「それが俺の夢だから」
それを聞いた三人は笑顔を返して
カレーを食べ終えた時におもむろにニナが口を開き
「そういえば、頼まれてた衣装」
「ちゃんと考えといたよ」
そう言って部屋から出たニナは
いくつものラフスケッチを抱えてちゃぶ台に広げ
「張り切りすぎて、一杯になっちゃったけど」
「なんか良さそうなのあるかな?」
そこには、ジュエリスタの衣装を模して
手直しを加えたものや、現地の衣服に近いものまで
かなりの試行錯誤を重ねたであろう
アイディアの数々が並んでいて
「…どれも悪くないけど」
良くも悪くも、衣装は象徴であり
時々で則した物に変えることは有れど
一枚目のそれは妥協は許されず
特に、何着も用意出来ない今みたいな状況では
失敗は死を意味していて
彼女達に抱いた、コンセプト
未だ明確でないそれに思考を巡らせながら
一枚のそれが俺の目を引く
「ニナ、これは?」
そこに描かれていたのは、軍服のようで
それでいてなお、きらびやかさがあって
「鼓笛隊の服かしら?」
「鼓笛隊…」
「マーチングバンドってことか?」
それはよく小学校や、自衛隊のパレードなんかで見る
楽器を抱えて行進するとそれくらいのイメージしか無くて
リーフィアがそれを補足する
「ちょっと違います」
「そもそも、鼓笛隊は戦場にいるもので」
「指揮を音で伝える役割の事を鼓笛隊と呼んでます」
「ラッパや太鼓で指示を出して退却だったり突撃だったりを伝えるんです」
…知っている物とは違い、随分と物騒な役割に思えて
「つまり、鼓笛隊は音楽で戦うと?」
リーフィアはそれに頷いて
「そうですね、それで味方を鼓舞したり」
「士気を向上させたりする役割も有りますけど…」
戦場の中に置かれて手に持つは剣でも無く盾でもなく、武器とは呼べない物で
的になるような、服を纏い
味方を鼓舞して、戦うそれはまさしくーー
「…まるで、アイドルだな」
その一枚のラフスケッチを手に取り
みんなに告げる
「これでいきたいんだけど、どうだろう?」
「お兄ちゃんがそれで良いなら別に異議無し」
「…ですね」
「裸じゃなきゃ何でも良いわよ」
その決定に誰も異論は無いらしく
「じゃあ、決まりだ」
衣装は決まった
立つべきステージも、目指すべき意義も
やっとここに揃ったから
「君達はひたすら店の掃除と練習をしてくれ」
「俺は必要な資金を調達する」
必要なのは人手とやる気以外なくて
その何方も持ち合わせているのだから
あとは馬車馬の如く働くだけだ




