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スタートライン

どんな言葉で伝えたら伝わるのか分からなかった

だから、俺は彼女達に夢を見てほしいと思った


おいしい食事を食べれば、満ち足りた生活があれば

何も見返りがなくとも

奴隷なんかじゃなくて、物なんかじゃなくて


そんなふうに生きる価値があるんだと思ってもらえると

必死に継ぎ接ぎだらけのハリボテを作った


まるで金持ちの道楽の様に振る舞って

無い事を取り繕って、板一枚の薄っぺらな幻想を見せて

そのどれもが無意味な空回りだったと知って


ーー「お兄ちゃん、ご飯食べなさい!」

「いや、腹減ってないし」

ちゃぶ台の上に並べられたのはコルベットさんが

置いていったらしい食事で、余り物だと言っていたらしく


四人で分けるにはあまりにも少ないが

リーフィアはそれを器用に四等分にしてみせる


「これで、誰も不公平じゃないです」

「私達も貴方も同じだけですよ?」


ニナに押し込まれるようにして

無理矢理食卓につかされた俺は苦笑いするしか無くて


彼女達と暮らし始めて1ヶ月と幾日か

初めて囲む食卓に俺はどうしていいか分からなくて

「あー、頂きます」

皆で手を合わせ、口を付ける


「美味しいね?」

そこに入っているのは肉の端切れや野菜クズで

捨ててしまうような物ばかりだったけれど

丁寧に調理されたそれは美味しいくて


「…アヤトさんの言ってたのってこういう事ですか?」

リーフィアは少しだけ納得したような顔をする


捨ててしまうものでも、手間暇を掛ければ

ちゃんと正しく調理すれば食べられるのだと

誰かの生きる糧となって

美味しいだなんて、そんな気持ちを抱かせるのだと


簡単な話だってやっと気が付いて


捨てられてしまうだけの賞味期限切れの弁当を

いつも嬉しそうに持ち帰る、彼女の笑顔を思い出す


俺はそれを見て幻滅しただろうか?

彼女を憐れんだだろうか?


そんなことは無かった

生きる意味かもしれないなんて

くだらない勘違いをして、毎日が少しだけ輝いて見えて

本当に馬鹿らしいと思うけど

でも、確かにちゃんと紡がれていて


シロナもおずおずとそれに口を付けて

「…味付けで誤魔化してるだけね」


所詮はゴミだとそう言いたげな顔をして

「でも、それでも食べられる物になるなら」

リーフィアとニナの笑顔を見て

「そんな風に思わせられるなら」

「ご主人様の言うアイドルはそんなに悪くないのかしら」

向けられたのはあどけない笑顔

偽ることも無く、貼り付けた物じゃない輝きを見て


ーーあぁ、彼女達を選んで良かったと、思いそうになって

それでもまだ俺達はスタートラインに立っただけだから




ご飯を食べ終えたリーフィアとニナは難しい顔をする 

「…うーん、全然伝わらないね?」

「そうですね、これはちょっと……」

ふたりの手には、紙切れが握られていて


「いや、だから衣装の案なんだけど……」


幾つもの案を出してはみたのだが

彼女達はどれもピンとこない様子であり


シロナが呆れたようにため息を付く

「下手すぎて何だか、全然分かんない」

「何でこれには足が三本あるのかしら?」


指し示した紙には、下半身から三本の突起物が出ている

魔物としか呼べないものが描かれており


「……えっと、それシロナだけど」


シロナはその言葉に愕然とした顔を浮かべて

「…本気で言ってる?」


「いや、尻尾あるのシロナだけだし」

彼女はその言葉に噛みつくようにして

「…尻尾?大根の間違いじゃない」

「それにこれが尻尾だとして、足と太さが一緒なのは何故?」


それにリーフィアも言葉を続ける

「えっと、足があらぬ方向にいってるんですけど」

「この角度はちょっと出来無いかなーって」


最後はニナで

「指が6本あるんだけど、お兄ちゃん数字数えられる?」


シロナの足が大根のように太くないのは知ってるし


リーフィアの言うとおり

人体の構造的に、ありえない角度に

曲がってるのは認めるし、そんな事させるつもりもない


最後のニナの疑問は……もはや謝るしかないとして


「そんなに絵下手かな…」

何一つ才能もスキルも無いのは分かってはいたが

流石にちょっと傷ついてしまう


「酷いわね」

「…同感です」

「ゴミ同然かも?」


笑顔で死刑宣告されてしまい

「お前ら、流石に酷くない?」

「特にニナ!!」


ニナはニヤリと笑って

紙を裏返しサラサラと描き始めて

「こんなもんかな?」


そこには多少デフォルメがかってはいるが

一目でシロナとリーファと分かる人物が描かれていて

俺の描いたのとは雲泥の差だった


「ニナ、絵うまっ!!」

「何だよ、最初っから言ってくれれば恥かかなくて済んだのに」


幼児を通り越して、印象派を自称するしか無い出来の

俺の作品をみて苦笑いを浮かべるしかなく


「…こんなの出来ても、なんの役にも立たなかったから」

「それにお兄ちゃんだって、何も言ってないし」

「お互い様じゃない?」

そう悪戯っぽく笑い、俺を見るニナ


特別である事を望まない

ただ、自分達に出来る事を精一杯して欲しいと

どうやら、それは伝わったみたいで


「…んじゃ、衣装のデザイン任せてもいいか?」

「ここで出来るのはニナしか居ない」


リーフィアとシロナも頷いてニナを見て

その視線を受けたニナは笑顔で応える


「まぁ、お兄ちゃんよりはだいぶマシな出来だから」

「ニナ大先生に任せちゃいなよ!」


デザイナーに頼めば、もっといい出来になるかも知れない

どんな全ても自分より秀でた人間が居る


それでも、足りない部分は誤魔化して

どうにか形作って、自分の価値なんて幻想を

ーーここにいる意味を見出すために


そんな夢を本物にする為に俺達はここに居るのだから


「じゃあ、いい時間だし寝ようか?」

今日はもう一個の仕事は休みだからと

自分の部屋に引き上げようとして


「何処に行くつもりかしら?」

そう声を上げたのはシロナだった

「…自分の部屋だよ」

「今日はもう一個の仕事休みだから、ちゃんと寝るよ」


誤解を与えないように、ちゃんとそれを言うが

リーフィアもニナも悪戯っぽく笑い

「お布団は、ここにしか無いですけど?」

「だよねーフィアちゃん」


…話の流れについて行けない

「えっと…それは知ってるんだけどさ」


シロナは呆れたように

「ゴミと奴隷と寝れないなんて、そう言うつもりかしら?」


そんな事を言うつもりは無いが

……ちょっと待ってほしい

「えっと、生物学上問題しかないから」

「だって俺男だし…ねぇ?」


そんな俺をニヤニヤと眺める三人は口々に

「えっと、理性も無いケダモノなんですか?」

「大丈夫でしょ、今の今まで手を出されて無いし」


ニナもリーフィアも言いたい放題で

シロナは溜息をついて

「私達だって、好き好んでそんなこと言ってないわよ」

「それが嫌なら、さっさと布団を買いなさい」


そして少し笑って

「まったく、貧乏人のご主人様を持つと苦労するわ」


ニナに布団に引きずり込まれて

四人で寝るにはあまりに狭いせいそこで寝るために

ピッタリと密着してしまって


早く寝たいと願いながらも、悶々とした夜は続き

どうやら、まだ目を瞑って生きる訳にはいかないらしく


幸せな夢を見ながら、それを思った


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