暗闇の世界で
日が陰り始めた小高い丘の上でシロナはうずくまっていて
俺を見た時の表情は悲しみに見えて
ーー「君達は俺の夢だよ」
今まで見たどの表情よりも人みたいで
そしてゆっくりとその表情は諦めに変わる
「そこには無くて、必要すら無くて価値のない」
「それが私達ってこと…」
「アイドルって事なのね」
シロナの言うことは間違っていない
夢は金にならない、腹も膨れやしない
無くたって当たり前に生きていけるどうでもいいもので
だけど俺はそれを無価値と笑うことを許しはしない
夢たる彼女達がそう言うことを望みはしない
「…そうだね、些細で、儚くて」
「無くたっていい」
「そんなゴミ屑だよ」
彼女達より可愛い人なんて
履いて捨てるほどいて
歌が上手い奴なんてごまんといて
優れている人間なんて星の数ほどあって
「だけど俺はそれを笑うことを許さない」
「無価値だなんて蔑むことを認めやしない」
「たった金貨30枚で買った私達に」
「随分と期待して、馬鹿みたい」
シロナの言葉に俺は笑ってしまう
そう、それが彼女達の価値で、与えられた値段で
たしかに俺は買ったのだ
そんな些細な金額で下らないものを手に入れた
「…でも、本当は知ってるんだろ?」
「君達は正しく自分の価値を理解してる」
だって、ゴミと呼ばれて返事をしなかった
名前を問われてそれに答えた
おいしい食事を食べた時には笑って
お菓子を欲しいとねだって
服を脱ぐのを躊躇して
無価値な事に耐えられなくて
自分の価値を探し続けて
ーーそして、見つけられずに泣くのだから
その眼の奥には、諦めきれない意地があって
無価値と笑われながら、それを堪えて
彼女たちの目には、心には
まだ僅かばかりの光があるのだから
「俺と君達は何が違う?」
俺は、そんな彼女達と何一つ変わらない奴隷で
価値を見いだせないゴミ屑でしかなくて
生きてく為に必要な物以外
プライドも、見栄も、感情も
すべてを切り捨てなければ、死んでしまうような
価値のない歯車で、幾らでも変えが効く代替品で
そんな風に生きてなお
哀れに思われなければならない弱い生き物で
「違うところしかないでしょ」
「だって、私は無力な奴隷で無価値なゴミで……」
シロナの言葉に堪えきれなくて俺はそれを遮る
「…逃げてんじゃねぇよ」
「俺だって何も変わらない」
「生きる為に床に這いつくばって」
「笑顔でそれを舐め取って」
「夢を見ようと思ったら」
「生きる為に必要な物を削り取るしかなくて」
睡眠も、食欲も、性欲も
生きる為に必要なそのどれもを満たせない
そんな物しか手に入らなくて
ーーだけど
「俺は生きてるんだよ!!」
「精一杯に」
「たとえ無価値だとしても、どんな値段も付かなくても!!」
何も無い空っぽの部屋
それは、まるで俺みたいで
でも、この世界に来た時にはたくさんの物があって
それは俺が今まで生きてきて手に入れた
自分自身とも呼べる、これまでの全てと言える物で
俺はその全てを売った
食事も、ベットも、趣向品も、服も何もかも
何も満たしはしない、取るに足らないそんなもの全て
今までの下らない人生の全てを
俺という人間が築いた価値すべてを売り払った
だから彼女達の言う、たった金貨30枚は
それにすら満たなかった僅かばかりの物は
ーー俺の全てで、俺の価値だったから
震えそうになる声を、溢れそうになる涙を
必至でこらえながらもう一度それを告げる
「その価値は…君が決めるもんじゃない」
「ましてや、他人が…決めるもんじゃない」
路傍のゴミ屑の夢の価値は
そこに描いた理想と、それを見る俺の価値はーー
真っ直ぐに、疑うようなその目を
その先にある僅かな光を見て俺は叫ぶ
「……俺が決めるんだよ!!」
たしかに俺はあの日
彼女達の持つ想いを、そこに有る僅かな光を買った
眩く光る物じゃない、それには価値一つ付かない
宝石でも無く、太陽でも無く
かき消されてしまう様な僅かばかり光る
それこそが、アイドルで
無価値と知りながらなお
自分より秀でた者がいてなお
ただ、プライド一つを武器にして
諦めきれない意地だけで光の中に飛び込んで
身を削って、心を削って価値を作り出し
その舞台に上がり、彼女達は声を上げ夢を唄う
凡人たる、無価値たる自分達が輝けるなんて
そんな夢を見させる、偶像を与える
そして、身を通して世界を輝かせる光で
光一つない真っ暗な世界では、宝石は輝けない
誰の目にも止まらず、打ち捨てられて
路傍に転がされるただの石ころでしかない
この世界は真っ暗だ
何一つ信じられず、生まれた時から
そんな価値の全ては決まっている
奴隷だから、獣人だから、無価値だからなんて
そんな言葉で巧妙に騙して
抗いようが無いなんてみんな諦めて緩やかに死んでいって
でも、それはどの世界だって変わらない
結局の所、俺がいた場所だって
自由と謳いながら、平等だと宣いながら
そうじゃない事を知っている
生きる事は難しくは無いかもしれない
彼女達よりも与えられる物は多いかもしれない
だけど、自分である意味なんて見いだせず
それ以上を求めるのは容易ではなくて
それでいて、どんなに抗っても
結果が全てなのだと
足らないのは、個人の怠惰なのだと嗤う
そんな底意地の悪い世界の奴隷でしかないと
「…君達はゴミ屑だ」
三人は苦い顔を浮かべて
それでも、俺は言葉を続ける
「だけどゴミ屑が輝く事を知ってる」
嘘でもなく、比喩でもなくそれを見た
何一つ価値のないゴミを
ふざけたような落書きだらけの1枚のCDを
俺は5000円で買った
そんな金額で買う事を躊躇しなくて
確かにそれに価値はあって
「君達は宝石じゃなくて」
「ジュエリスタじゃなくて」
「そして、誰かの奴隷でもないんだよ!!」
ーーどうか、逃げないで欲しい
「他の誰かになれやしない」
「都合の良い物には変われない」
ーー目を背けないで欲しい
「…ニナも」
「リーフィアも」
「シロナだって!!」
ーーそして、俺だって
「それ以外の何にもなれやしない」
「それだけが君達の価値だろうが!!」
理性も効かず、涙も堪えきれず
何も無い俺はただ叫ぶようにして、夢を語るしか出来ない
「たった金貨30枚に満たない君達が」
「そんな価値しか与えられなかった俺が!!」
「生きてる意味が、俺にしかできない事が」
「そんな価値があるって夢を見たいんだよ!!」
そうじゃなきゃ生きてる意味が無い
空っぽの部屋に唯一残った
夢と理想と馬鹿みたいな意地さえ安っぽく売ってしまえば
そんな世界と諦めてしまえば
ただ、死なない為に食事して、眠りに就いて、快楽を満たして
なんの価値すらなく、死んだ様に生きる事は簡単だけど
俺は確かにあの日、受け取ってしまった
生きるという意味を、そうなれるという夢を
俺を突き動かそうとする衝動を
忘れられない、笑顔と言葉を
たかだか、5000円なんていう安さで
売りつけられてしまったから
綺麗な言葉じゃなくていい
耳触りのいい嘘なんて聞き飽きていて
「ゴミ屑だって輝くんだよ」
「手の届かない所にあって、なんの値段すらも付かなくて」
「当たり前過ぎて、みんなわざわざ見ようとしない」
ーー俺は真っ直ぐ空を指差す
そこに有るのは薄く見えるだけの僅かな光で
彼女達は夢を唄い、身を削り、足を止めず
手の届かない高みへ登っていって、確かにそう呼ばれたのだ
「ドップスター」と呼ばれて
皆がそれに羨望を向ける光になった
何になった訳じゃない、自分自身の価値でそこに辿り着いた
「信じれば、夢は叶うから」
彼女から貰った言葉を口にする
シロナは嗚咽を漏らして、それでも
真っ直ぐに俺を見ながら
「…そんなの嘘」
「持ってる奴が言う、ただの綺麗事」
その意味は綺麗事なんかじゃない
「…違うね」
まるで、信じれば何でも叶うなんて
そんな風に聞こえるかもしれないけどそうじゃない
「諦めたら、どんな夢も叶わない」
優しさも希望も混じらない残酷な現実
それが、この言葉の意味
「……じゃあ貴方は」
「ゴミ屑だって知ってる貴方は何になれる?」
「そんな私は何になれるの?」
ーー今度こそ間違いなく、過不足なく告げよう
アイドルたる本質を伝えよう
「誰に認められなくても、ただ光るだけの星屑」
「数多有る、そんな物にしかなれない」
だけどそれは、世界を彩り
真っ暗な世界を灯すから
「君達は…アイドルになれる」
だから俺は与えよう
無価値たる証明、等身大の称号
彼女たちを示すその名前を伝えよう
「スターダスト、それが君達の名前」
ーーそして、これから俺が見る夢の名前だ




