表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/60

シロナ

鎖に繋がれ、一枚の布切れすら与えられずに

市場に並べられているのは沢山の奴隷達


聴衆達はみな、面白がるような目で見るか

或いは憐れむように目を背け

そうで無ければ品定めをするように眺めていて


その片隅で膝を抱えて狐耳の少女の目に光は無く

一人また一人と買われていく、商品達を無表情に眺めている


ーー今日もまた買われはしないんだろうな


それが素敵な事なのか、残酷なのかは分からず

少女はいつも片隅にいた


少女には価値が無かった

非力だから労働力にはならず

薄い胸板は、扇情的ではなく

そして、愛想の一つすらないその少女は


どんな用途に使う事が出来ない不良品で

興味を持つ者はなく、みな少女がまるでそこに居ないように

目を向ける価値すら無いと前を通り過ぎて行って


たとえ目が合ったとしても、逸らされて

それを見る目はまるで、本当にゴミ屑を見るようで


ーーどうして、私は生まれてきたんだろう


膝を抱えながら、少女は自分にそれを問うが

その答えはずっと見つからない


どうして、私には力が無いのだろう

魅力的な身体が無いのだろう


一緒に陳列されている、商品を眺めて

それを考え続ける少女


そうすると一人の青年が少女の前に立ち止まり

しげしげと眺めて、店主に声を掛ける


「ねぇ、この子いくらなのかな?」

ニコニコと笑みを見せて

無神経に聞こえる明るさで、当たり前に値段を聞く青年に

馬鹿馬鹿しいと内心毒づいてしまって


いくらの価値すら無いのに

店主は揉み手をしながら、青年に聞く

「お客様、これに目を付けるとはお目が高い」


「世にも珍しい狐耳の獣人で」

「非力で大人しい性格ゆえ」

「室内で飼うのにピッタリかと思われます」


それを聞きながら少女はものは言いようだとそれを嗤う

まるで貴重のような言い方をして

何も出来ないのをうまく誤魔化しているが


価値がないから店頭に並ばない

少女の家族は皆そうやって()()()()()()()()


反抗する力が無いから、逃げ惑うしか出来ないから

一方的な虐殺するのに丁度良くて、無為に淘汰されて


父は少女が助けを乞う声が足らないと笑いながら切り刻まれた

母は少女が泣き止まずに煩いからと焼かれた


そして、少女はもう飽きたからと捨て置かれ

手に掛ける価値すら無いと嘲られて


そんな幼い日の記憶だけが全ての

何一つ無い少女はじっと青年を見る


見慣れない服を着る彼は

柔和な笑みを浮かべながら、もう一度それを店主に問い

「で、結局いくらなのさ」


「ええ、大サービスのご奉仕価格で」

「金貨10枚になります」


「…あはは、高いねー」

「到底買えそうにないや」


そう言いながらも、青年は諦めきれない様子で

狐耳の少女をずっと見ていて


「明日も君はここにいるのかな?」


少女は問いかけられたと、それを認識出来ず

暫し間が開いて、忘れかけていた言葉を引っ張りだす

「…買われるまではここに居る」


「…じゃあ、また明日会おうか?」


そう言って、笑顔でヒラヒラと手を振り

少女は不思議そうな顔を浮かべる


ーーここに来て何が楽しいのかな?


少女は膝を抱えながら、初めてささやかな願いを

今日、自分が買われないことを祈った



その言葉通り、青年は次の日も、その次の日も

ずっと足繁く通い続け、店主に声を掛ける

「ねぇ月賦(ローン)とか駄目なの?」

「なんだいそりゃ」

それを聞かれた店主は訝しげにしていて

何を買う訳でもなく、ただ眺めているだけの青年は

いつの間にか客として扱われなくなったらしい


「例えば、金貨15枚で彼女を買うけど」

「支払いは月々金貨1枚ずつとか、そういうの」


どうせ駄目だろうと、青年は適当にそれを言うが

店主はキョトンとした顔をしていて

「…それじゃお前が損じゃねえかよ」


「それは分かってるけどさ」

「金貨10枚は一気に払えないんだよ」


「でも1枚ずつなら、なんとかなる…と思う」

青年は自信なさげながら、それでも食い下がるようにして


正直、店主は何時までも売れない狐耳の少女にも

足繁く通う青年にも、程々飽き飽きしていて


これが他の商品ならいざ知らず、不良品に

青年は一気に全部ではないとはいえ言われた金額より

高い金を払うという


「…最初に金貨3枚」

「その後は金貨1枚ずつで良いなら構わねぇよ」


最初のそれさえ貰えれば、元は取れていて

餌代も掛からず、毎月金を落とすというのなら

そんなに都合のいい話は無いと、店主はそれを了承する


青年は懐から財布を取り出して

「じゃあ、取り敢えず3枚」

「あと、契約書を書くからペンと紙くれる?」


笑顔でそれを告げると

聞いた店主は困惑した顔をしていて


「なんだよそりゃ」

「聞いたことねぇよそんなもん」


青年はため息を漏らして

「ローンってんのに、口約束じゃ不味いでしょ」

「俺は貴方からいくらで商品を買いました」

「その代わり毎月この金額払いますって書面だよ」


「そっちの方が確実でしょ?」


店主はよく分かっていないようだが

青年に言われたとおりに書面を用意して

店主と青年はそれにサインをして


「じゃあ契約成立ってことで」

にこやかに店主にそれを告げて

店主は彼女を繋ぐ鎖を外す


「隷紋は入れるんですかい?」


それを聞いた青年は笑顔を返して

「別料金なら、要らないし」

「何だったらサービスでも要らないよ!」


青年はその勢いのまま、少女の手を取り

「今日からよろしく!」

「えっと…名前は?」

そこでやっと青年は、少女の名前を知らない事に気が付いて


「…そんなの無いよ」

ゴミとか、そこのとかで事足りるから

少女にそんな物は無くて

昔に呼ばれていたはずのそれはもう思い出せない


青年は唸りながら、少女を見て

「髪が白っぽいから…シロ?」

「それだと動物っぽいなー」


もう一度しっかりと少女の目を見て

青年はそれを思いついて


「君は今日からシロナだ」

「名前すら無い真っ白だから、白名(シロナ)


「…そうだね」

少女は、その言葉に少しだけ悲しさを覚えて

だが、青年はそんな顔すらも笑うように


「いーじゃん、そこには何でも描けるんだ」

「どんな色でも形でも、好きなように」

「だから、これから色んな色で埋めていこうよ?」


誇らかに笑う青年の笑顔に

少女は眩しさを覚えてしまって


これが狐耳の少女たる獣人

シロナと呼ばれる少女の始まりだった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ