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隔てるもの

シロナは晩ごはんとして用意された肉にフォークを突き立てる

それを配膳したご主人たる彼は早々に部屋に消えた


「意味分かんない!!」

「なんなの、アイドルって」


「私だってちゃんと歌ったし」

「リーフィアだって、ニナだってちゃんとやってた」


リーフィアの踊りだって彼が夢見がちに語る

ジュエリスタなんかよりずっと、リズムも合ってて


必死に歩み寄ろうとした

足りないなりに懸命に、持ちうるすべてを吐き出して

そんな彼の言うアイドルになろうと


一生懸命そう見えるように取り繕って

飽きられないように、見放されないように

そうやって努力をしたはずで


「でも、違ったってことでしょうか」

答えすら提示されなかった疑問に

リーフィアは苦い顔をする


「だから、所詮お遊びなんでしょ」

「私達に適当言って、その気にさせて」

「餌だけ与えてればいうこと聞くから」


「餌って…」

「でも、それにしては上等だよね」

ニナは目の前の皿に盛られた料理を見て呟く


まだ奴隷として働いていた時にすら

与えられた事のの無いような上等なもので

用意された料理はいつも、そうであり


「ゴミとして扱うなら、こんないい物食べさせなくて良いだろうし、お菓子だって要らない筈だもん」


試しにねだってみた、菓子すらも買い与えられ

洋服も寝床も与えられて


だからこそニナは怖くなる

そんな生活が無くなってしまうかもしれない事に怯えて

「…一生懸命頑張らないと」

「あたし、ゴミには戻りたくない」


彼女の表情は強張って

それでも懸命に笑顔を作り

「笑わないと、上手くできないと」

「全部、全部無くなっちゃう」


優しいから、ここに居ていい訳じゃない

客人として、大切なものとして居場所をくれた訳じゃないと

アイドルになる為に、ここに置かれていると

皆がそれを分かっているから


「明日も頑張って練習しようね?」

「シロっち、フィアちゃん」



シロナもリーフィアも押し黙って

堪えきれなくなったようにボソリとリーフィアは呟く


「でも、こんないいお肉も用意したご飯も」

「アヤトさんにとっては餌なんでしょうかね」


その声は段々と震えて

「同じ食卓で食事を取ろうとはしなくて」

「見向きもせずに、部屋に篭って」

「…奴隷と、ゴミと同じ物は食べられないって」


戻ってきた私達を見て笑顔を向けるだけで

練習してきたそれすら見ようとせず


それは悔しさなのか、それとも悲しみなのか

そこにいる誰にも、リーフィア本人にすら分からない


「部屋の中ですごい美味しいもの食べて」

「どんなフカフカのベットで寝てるか知らないけど」

「お菓子欲しいって言ったってあげないもん」

「お兄ちゃんの意地悪!」


聞こえても、聞こえなくてもどっちでもいいと

ニナも舌を出しながら

彼の消えていった扉に向かって声を上げる


言葉を続けるのはシロナだった

「どんなに取り繕ったって」

「上等なものを与えられたって」

「私達はただのゴミ屑で」

「…光り輝く宝石になんてなれやしない」


彼はそう告げたのだ

ゴミのまま死ねばいいと、宝石にはなれないのだと


それでも彼の目は

なにか、光る物を見るようにただ見つめるだけで


それが誤解させる

そうなれるのかもしれないと勘違いさせる


私達のご主人様は勘違いしている

まるで、檻さえなければ、鎖さえなければ

隷紋さえ入れなければ

それを自由だと吐き違えていて


綺麗な服を温かい寝床を美味しい食事を与えれば

まるで人間扱いしてると

そんなふうに言わんばかりで


悪意でなく、偽善でなく

もし、それを本当に信じているのなら

ゴミの私達が、そんな物になれるのだと

疑いようもなく思っているのなら


どんな悪意より惨たらしく

偽善なんかよりずっと凄惨に、私達を殺すのだという事を


隔たれた扉の向こう側で眠り

幸せな夢を見る彼は知らないようで


ゴミには戻りたくない

そんな暖かな生活を知ってしまって


温情では無く、慈悲でもない

自分の価値を信じられてしまって


それにすら答えられずに、ただもう一度

路傍に転がるゴミになってしまえば


もう何一つ残らず、生きていい理由を見いだせなくて


たがら、ゴミと呼んで欲しかった

そうすれば、いつか捨てられるのも

何一つ期待されないのも、諦められて


そうでないなら、愛して欲しかった

無価値と知りながら、それでも良いと

甘ったるい嘘で誑かして欲しかった


愛しもせず、捨てもせず

宝石ではないと知りながら、ゴミと知りながら

彼は私に何になることを期待してる?


どうすればもう一度だけ、私の価値を信じられる?

大切な何かになれる?


シロナは躊躇うようにその扉に触れて

その扉はなんの抵抗もなく開くと知っていて



それでも、板一枚しか無いはずの

距離は何処までも遠くにあって

容易に開くはずの扉は閉ざされたまま


未だそれを見ること無く、触れることなく

そこに有る彼の大切な何かを知ることは無くて


知ってしまったら、それに至れないと

彼の大切な何かを見てしまったら

そこにある宝物になれないと理解してしまえば


ここにいる事すらも許されない私には

あまりにも重くて、遠くて


私は目を瞑るしか無い

そんな物になれるかもなんて夢を見るしかないから



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