第98話 機械と電気の部屋
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機械と電気の部屋、と后は言った。
緋末の屋敷地下に位置するその部屋で、織斗と咲は見えない敵と戦っていた。
いや、目視できないわけではないのだが、攻撃がどこに来るのかわからない。
「織斗くん、背後斜め八十度!」
「はいごなな……痛、いってぇ! 静電気が!」
「……静電気」
雷が落ちたような光が、織斗の背中にぶつかった。ビリビリィと強い衝撃が身体全体を伝う。
織斗は振り返り、一段高いステージの上にいる后に目を向ける。
「よそ見してると危ないですよー」
チラッと顔を上げた后が、キーボードに置いた手を動かしながら言う。
エンターキーを押すと、室内に再び雷鳴が響いた。
「っ……トランプ、解い……」
ケースからトランプを取り出す織斗だが、その途端、手元に雷が落ちた。
「あははっ! 学習してくださいよー! 武器は持っちゃダメって言ってるでしょ?」
后の言葉通り、この部屋で武器の類のものは使えなかった。
織斗のトランプや咲の糸、武器どころか[道具]を手に持った瞬間、雷……電気の筋がその保有者を襲ってくる。
身につけているものならばと、靴紐を解いてみた咲だが、それもダメだった。
何かを手にした時点で、電気は襲ってくる。
「じゃぁ、そろそろ難易度上げてみましょーかー」
クスクス笑う后が、手元にあるパソコンで既存のプログラムを新しいものに書き換えた。
ビリビリっと、部屋全体が青く光る。
「さっきより電力高いし、速いから」
手元のキーボードを叩く、と同時に、天井から稲妻が降り注いだ。
一メートル間隔を空けて落ちる光を避け、織斗と咲は后に向き直る。
「さっきより幅が狭くなってるね」
「これがランダムに……」
「そう! 今までみたいな感じで! 部屋全体に張り巡らせた電気の筋が当主さんたちを襲うから気をつけて!」
后の高笑いと共に、降り注ぐ稲妻。
「……あのパソコンを何とかすりゃいいんだろうけど」
電気を避けながら呟く織斗の言葉に、咲が頷く。
「ダメだろうね。武器の類は持てないし、后くんにだって近寄れない」
「近寄ろうとしたらその瞬間、あいつの前に電流の壁ができるもんな。つーか、キリねぇな、これ」
織斗の言葉に、ピクッと后の耳が動いた。
一旦、全ての攻撃を止め、織斗たちに顔を向ける。
「そうだねぇ。じゃあ、そろそろ寝ててもらおうか」
微笑んだ后が、キーボードを鳴らす。エンターキーを押すと同時に、床を伝って流れてくる電気。
簡単に避ける織斗と咲だが次の瞬間、電気の筋が床を跳ねて空中に飛び上がった。
「……は?」
「織斗くん!」
電気の筋は織斗を追うように宙を流れたが、咲がその間に割って入った。
手のひらで電気の筋を受け止める。
「痛っ……」
「咲! なにしてんだ、大丈夫か?」
「大丈夫。うん……ちょっと、ピリッときたけど」
電気を流し込んだ手のひらを反対の手で撫でながら、咲は苦笑いを浮かべる。
一方、笑みを浮かべていた后だが、咲が手のひら、素手で電気を受け止めたことで、顔から表情を消した。
「…………どういうことですか?」
后の言葉に、咲が振り返る。
「それはこっちの台詞。いまの、どういうこと? どうやって織斗くんを追いかけたの?」
「あぁ、そんなの簡単だよ。電流に追跡機能を追加して、当主さんの体温を認識して追いかけるように設定した」
「機械で?」
「……そうですね、機械も使ってます」
「機械、も?」
「……咲さんって、ちょっと面倒くさいですよね」
后が手元のキーボードを叩くと、ピリピリピリっと、電気が壁を伝った。
「やべー、咲! 突っ立ってないで……」
「大丈夫。もう、逃げる必要ないよ」
咲は后を見つめたまま、織斗の手を振り払う。
「……ごめんね。私、織斗くんに嘘ついてばかりだね」
すぅーっと息を吸い込んだ咲が、目を瞑った。
わけがわからず咲の手を掴む織斗と、ふっと微かな笑みを見せる后。
「僕、咲さんの属性……水だけじゃないと思ってたんだよねー」
やがて后が、手を止めて話を始めた。
「水を操れるから糸も自由自在に操れるのかと思ってたけど、違いますよね?」
「……糸は、水で操ってるよ?」
「じゃあその糸の中身、成分は? 木の蔓とか入ってません?」
「…………」
咲は答えず、じっと后を見つめた。
二人が何を話しているのかわからない織斗が、首を傾げる。
「木の蔓……は咲は扱えないだろ? 術ってのは普通、一人一属性、水を操るやつは火を操れなくて、火属性のやつは草木を、土を操れないって……」
「そうですよ。当主以外はそれが普通。でもさっき、咲さん、雷受け止めましたよね? それに糸……水で操るだけでは、あんなに的確に操れない」
「……うん、そっか。面倒くさいのは后くんの方だと思うよ」
諦めたようにため息をついた咲が織斗の手を振り払い、すっと左手の人差し指を動かした。
それに気がついた后が、パソコンのキーボードに手をかける。
「ごめんね、織斗くん。私、本当は……自分が存在しちゃいけない理由、わかってたの」
「え?」
「全ての属性を操れる、最強の力を持ってるのは当主だけじゃないと……当主様は唯一の存在じゃないといけないから。だから、織斗くんが封印を解く以前から、神木の術力と関係ないところで全ての属性を操れる私は、異端なの」
咲が左手を上げると同時、后がエンターキーを押した。
ボッと音を立てて咲の指先から火が燃え上がった。咲が指を弾くと、サッカーボール大になった火の玉が后めがけて飛んでいった。
壁を伝っていた電気全てが、咲へ向かって走る。
「咲! よけ……解い」
「いらないよ、織斗くん。逃げる必要ないって言ったでしょ?」
左手の人差し指を后に向けた咲が、右手で稲妻の全てを受け止める。
バチィと大きな音が響き、咲の手のひらに吸い込まれていく電気の筋。
顔を歪めながらも咲はそれを全部受け止め、やがて雷鳴が止んだ。




