↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
97/121

第97話 ようこそ、カラクリ屋敷

*



 緋末の屋敷。

 機械室で織斗たちの様子を観察していた后《こう》が、ヘッドフォンを外してケラケラと笑った。


「相手は人間? バッカだねー」


 目線はモニターに向けたまま、后は机上にある二つのキーボードを操作する。


「カラクリ屋敷か、言い当て妙だね」


 だが間違ってはいない。以前からこの屋敷は、対侵入者用に様々な仕掛けが施されていた。

 それをコンピュータと繋いだ、ボタン一つで罠を発動できるよう改造したのは后だが。


『この屋敷、壊していいんですよね?』


 昨晩の出来事だ。屋敷を捨てて出て行く緋末当主、広に后は尋ねた。広は目も合わせず、『好きにしろ』と后に背を向けた。

 后にとって憧れの人だった。

 マインドコントロールと言われればそうかもしれない。緋末一族なのだから、広様は次期当主様なのだから、家臣の命は緋末本家のためにある。

 物心つく前から、母にそう言われて育った。


「楽しかったなぁ、最初は」


 ナンバーズだと自覚してから、后は広の側に居ることが多くなった。

 だから違和感にはすぐに気がついた。

 そして神木当主が封印を解いてすぐ、対戦を仕掛けに行って納得した。


『なるほど、広様が縁を切りたくないわけだ』と。


 心に穴がある人間ほどそれを埋める何かを、自分に持っていないものを有する人に近づこうとする。

 緋末家の人間にとって神木家は眩しすぎる、憧れの存在だった。

 それで構わないと思った。演技をするならそれでいい、京都本家が何か言うようなら、その関係を気づかれないように家臣である自分が暗躍すればいい。

 緋末広という人間が幸せに過ごせればいい、そう思ってずっと、頑張ってきた。


「あの時は笑ったなぁ。電気に対して水ぶつけようとしてくるんだもん……よっし、かーんりょーう!」


 エンターキーを叩き、后は椅子の背もたれに寄りかかった。

 モニターには、織斗たちを追う監視カメラの映像と、いざというのために与えられたいた機械の部屋。

 そのいざが来るとは思わなくて今の今まで放置していたけれど、全ての準備が今、整った。


「ざーんねん、神木の当主さん。あなたたちが相手するのは人間じゃなくて機械だよ」


 まだ戦ってもないのに、后は勝ち誇ったように笑い、呟いた。


「ようこそ、僕のフィールドへ」



*



 石畳を抜けて第三の門を抜けた織斗と咲は、灯籠の光に誘われ地下へと足を進めた。

 警戒しながらもゆっくりと歩き、五歩目を踏み出した時、


 ピンッ


 糸が弾かれた音を聞き、咲は織斗を引っ張って床に伏せた。

 正面から飛んできた三本の矢は、織斗たちの頭上を超えて背後へ飛んでいく。


「……え、なに今の」


 振り返った織斗が、床に落ちた矢を見つめる。

 咲は正面を睨み、他の仕掛けがないか警戒した。


「罠だね」

「え? やばくね? 今の、咲が気づかなかったら」

「脳みそ貫かれてたかもね」

「……エグい」

「織斗くん、一回地上に戻ろう」

「……無理だな」

「どうして?」


 振り返った咲が見たものは、織斗のすぐ後ろに位置する鉄の壁。

 地上へと続く階段は、鉄の壁によって塞がれていた。


「いつの間に……」

「進めってことだな」

「……えっ? 進むの?」

「引き返せないなら進むしかないだろ?」

「待って待って、今の見たでしょ? この矢、先っぽ尖ってるよ? 刺さってたら顔死んでたよ?」

「顔が死ぬとかの表現やめろよ、不細工ってことじゃん」

「……違、そういうこと言ってない!」

「咲は可愛いから、顔が生きてるよ」

「織斗くんもかっこいい、顔が生き生きしてる!」

「ありがとう。行くか」

「……織斗くん、最初より大人になったね」

「うるさいやつが多いからな、神木は」


 正面を睨みながら、足を踏み出す織斗。

 壁の横から炎や水の柱が飛び出てくるが、器用にその隙間をくぐり抜けて走る。


「……今度は矢じゃないんだ」


 呆然と織斗を見ていた咲だが、はっとして背後を振り返った。

 鉄の壁の、咲の身長どころか織斗のそれより随分高い位置に削れたような跡。


「まって、織斗くん! 私もいく!」


 織斗を追い、廊下を抜ける咲。

 進路を阻もうとする炎や水の攻撃は単調なもので、容易に抜けることが出来た。

 廊下を抜けて和室の部屋に出ると今度は床が抜けた、三メートル下には針の山。織斗はトランプの蔓で、咲は糸で、落下を防いで安全な場所に着地する。

 部屋の出口にクイズが書かれていて、その答えを襖に取り付けられているタブレットに入力すると『ピンポーン』の音とともに扉が開いた。

 扉の先は舗装されておらず、掘り進めて行っただけのようなトンネル。

 ぴしゃんと扉が閉まると共に、パラパラと土が崩れ落ちた。


「強度とか耐震とかは、大丈夫なのか?」

「普通に歩くには問題ないと思うけど、いま地震が来たらちょっと怖いね」


 いつまで続くのだろうと、足を進める織斗と咲。

 その時、背後の扉が開いた。振り返ると、直径二メートルはある鉄の塊が、ゴロゴロと織斗たちに向かって転がってきていた。


「なぁ、これ……逃げないとやばいよな?」

「わかってるなら走ろう!」


 走り出す織斗と咲。

 鉄の塊がぶつかったところから、土がこぼれ落ちてトンネルが崩れていく。


「やばっ! やばいこれ、今回のは本気でやばい!」


 織斗の言葉に、咲は走りながらそちらに顔を向ける。


「今回のって、織斗くん、もしかして気づいてた?」

「なにが……あぁ、殺す気がないってこと? 途中で気がついた。最初の炎や水は、俺の術なら簡単に消せることできるし、針山はあんだけ深かりゃ落ちるまで余裕がある。もし俺が下手しても、咲の糸で助けてもらえるだろうし」

「最初の槍もそうだよ。高い場所を飛んでた、避けなくてもたぶん当たってなかった」

「あぁ、だろうな」

「気づいてたの?」

「たから、途中で気がついたって! つーかマジ、やばいんだけど! 逃げ切れるか、これ」

「とにかく走ろう。でも、ここを抜けてもまた仕掛けがあるよね? 体力持つかな?」

「大丈夫だ、これが終われば中ボスの部屋だ」

「中ボス? え、なに?」

「だから、中間のボス! ゲームの!」


 走っているからだろうか、織斗の声は大きい。言葉が出ない咲に説明するように、織斗が話を続ける。


「昔やったことがあるんだ、こんな感じのゲーム。途中まですげー面白かったんだけど、バクがあったとか何とかで問題になって炎上して、その会社潰れて……ゴールだ」


 十メートルほど先に白い扉があった。扉の中央には、緋末の術印が青い絵具で描かれている。


「素直に開けてくれるかな?」

「ゲームだとパスワードがいるんだけど……パスワード、パスワード……解印!」


 織斗の声と共に、白い扉が開かれる。

 雪崩れ込むように部屋に入る織斗と咲。

 鉄の扉が追いつく前に、扉は閉められた。


「いてて……テキトーに解印って叫んだけど、それがパスワードだったのか?」

「あはははっ、そんなわけないでしょ?」


 顔を上げた織斗と咲の視線の先には、ノートパソコンを持った少年の姿があった。

 真っ白で家具などの類が一切置かれていない、部屋というよりは箱のような場所。

 天井に煙感知器が取り付けられているだけで、壁に装飾はない。

 部屋の奥が一段上がったステージになっており、少年はそこに直座りしていた。

 黒髪に細い体躯、漆黒の瞳。広の弟と言われても信じられそうなほど、緋末の特徴がよく現れている少年だった。

 織斗たちを見ながらくすくすと、愉快そうに笑う。


「パスワードなんか設定してなかったんだよねぇー。神木の当主さん、面白いねぇ」


 しかし喋り方は広とは違う。ゆったりと、人を揶揄うような物言い。


「おまえの声、どこかで……」

「あ、覚えてる? 正解、前にお話したことあるよー、軽く戦ったこともあるけどね」

「戦った? のは知らないけど……凛とやり合ってた、緋末の電波系……」

「五十嵐《いがらし》后《こう》、凛ちゃんと同じ中学二年生です。ようこそ、神木の当主とその妹さん。僕の機械と電気の部屋へ」


 ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべながら、后はパチっとエンターキーを叩いた。

 次の瞬間、ピリッと電気が壁を伝って織斗たちの背後の扉まで流れる。


「準備完了、良好。さて、やりますか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。