第84話 泰鷹の日記
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神木家、織斗の部屋に集まって一同はモニターの一つを凝視していた。
画面の中には【BREAK the WORLD】とタイトルがつけられたwebサイト。
黒い背景に白で文字が書かれている、見るからに暗いページ。
「ブレイクって、休憩って意味じゃなかったか?」
「そうなの? お兄ちゃんすごい」
織斗と結奈の会話に、凛が眉を顰めた。
画面に表示された[break]の和訳を織斗たちに見せる。
「普通は壊すって意味にとるでしょ? ブレーク、壊す壊れる割れる」
「壊す?」
「休憩はbreakが中断とか割くとかの意味を持ってるから。breaktime、授業を中断させる、休憩時間」
「へぇ……」
「わかってないよね?」
ため息を吐き、キーボードに向き直る凛。
表示されたページを見て、咲がぽつりと呟いた。
「hawk……泰鷹のタカ」
「管理人のニックネーム。中の情報漁ったんだけど常盤泰鷹で間違いないと思う。さすがにここに、神木の名前は出してないけど」
「神木の名を出してたら、緋末にマークされてたよね」
「うん、だから周到に、陰で、着々と準備を進めて来た」
凛は話しながら、三つ目のモニターにサイトの掲示板を映し出す。
一番最後の書き込みは一ヶ月前だった。
そこに書かれている文字を、凛が読み上げる。
「人生に不満があるやつ、我慢する必要はない。逃げ出そう、この世から。世界を破壊して新世界を創造しよう、神の名のもとに」
「世界を破壊して、新世界を創造する?」
反応したのは織斗だった。
食い入るように画面を見つめる様子が不自然で、咲は織斗の顔を覗き込む。
「織斗くん、どうかした?」
「あ、いや……へぇーっと思って」
「?」
「えーっと、デジャブ? あ、デジャヴか。この言葉前にも……何回も聞いたことある。咲だってそうだろ?」
「私? どうして? 常盤泰鷹と仲良かったのは織斗くんでしょ?」
「……あの日はほんと、ごめんて」
会話が途切れ、シーンとした室内が気まずい雰囲気に包まれる。
微妙な空気を引き裂こうと、隆也が画面を指さした。
「これあれだね、神ってのが神木のことかな?」
「だろうな、神木一族。術を使える自分が、味方にいるって……あれ? じゃあ、これ……」
「一般人も混じってると思うよ」
会話に割って入ったのは凛だった。
キーボードを操作し、画面を切り替えながら話をする。
「私が情報系に興味持ち始めた頃、父さんに頼まれて神木の情報調べてたんだけど。その時のと照らし合わせて、神木と関係ない人が仲間にいると思う」
「……ちょっと待て、すげー話それるんだけど」
凛の話を織斗が遮る。
視線が織斗に向くが、織斗は神妙な面持ちで目線を下げていた。たまらず、凛が首を傾げる。
「なに?」
「あ、いや、凛じゃなくて隆也に話がある」
「僕!? なんだい、織斗くん……織斗くん!」
「なんで名前連呼するんだよ……隆也さ、凛に神木の情報を調べてくれって頼んだの?」
「…………悠斗様はね、神木を解散させる時、全国に離散する一族の情報を誰にも与えなかったんだ。ナンバーズである僕にさえも。だから悠斗様の新居は誰も、僕ですら知らなかった」
「……うん、で、凛に頼んで、この家の場所調べたんだよな? なんで?」
「……いざという時に、困るかと……」
「言ったじゃん、父さんはあんたらの父親を崇拝してるって」
画面に目線を向けたまま、凛が言う。ぱっと凛に向き直る隆也と、呆れ顔をする織斗。
何のことやらわからない咲は、不思議そうに首を傾げていた。
「先代当主様の暮らしてる街がどーしても知りたい、住所だけでもから始まって、現在の状況に至るまで全て調べ上げたね。だから私や父さん、咲さんのこと知ってたの」
「り、凛! そんな馬鹿正直に……」
「隆也。おまえマジで……」
「ち、違うんだよ、織斗くん! 凛は悪くない! 凛がハッキング覚えたのはものの良し悪しがわかる前の可愛くて丸くて愛らしい頃で……」
「わかってるよ、お前が悪いよ。どさくさに紛れて凛のせいにしようとするな、お前が悪い」
「し、ししし仕方ないんだよ! だって僕、当主様のこと大好きなのに、尊敬してるのに崇拝してるのに、居場所もわからないなんて! 日本地図のどこにいるかもわからないなんて! 毎朝、どんな気持ちで天気予報を見ればいいんだい!?」
「……傘持って行くか行かないか、そういう気持ちで見ればいいんじゃね? やっぱ気持ち悪いな、お前」
「今の! 今の当主様っぽい! あ、当主様って先代の悠斗様のことで……」
「わかってるよ」
隆也の熱い視線から逃れるように、織斗は顔を背けた。
そして、その先にいた結奈の顔色が悪いことに気づいて声をかける。
「結奈? どうした、なにか見つけたか?」
結奈は途中から話に混じらず、凛に借りたタブレットで泰鷹が作り上げたサイトを閲覧していた。
じっと一つのページを凝視したまま固まっていた結奈だが、織斗に声をかけられ、タブレットを背中の後ろに隠す。
「え? あ、なんでもない」
「なんでもないってことはないだろ、変な顔してた」
「あ、ほんと? えっと…………」
「体調悪いか?」
「え? なんで?」
「心の声、聞こえてこないから」
「心の声? あ、いや、えっと……ヤスくんの、昔の日記があって」
「日記?」
「あ、それ見つけたの私! 常盤泰鷹が小学生の頃から書いてたブログ」
凛の声とともに、モニター画面がブログに切り替わる。
[ヤスの日記]という、なんの変哲もない一般人のブログ。
フォロワーは三人もいないが、十年前から現在までずっと、毎月欠かさず何かが綴られていた。
「日記か……なにか手がかりになりそうなことは?」
「特に変わったものはないけど。まぁ、性格が歪んでいったことはわかったけど」
「性格が歪んだいった?」
「最初は好きな本とか花とか嗜好を書いてたんだけど、転校してちょっとしたくらいからかな? 暗い文章になっていった。日常をはっきり書いてるわけじゃないから明言は出来ないけど、いじめられてたんだと思う」
「ヤスが? そうは見えなかったけど……」
「人間というのは変わっていく生き物だからね。傷がある人は余計に、過去の自分を隠そうとする」
隆也の言葉に、その場にいた全員が言葉を失った。
静寂を打ち破るように、織斗が腰を上げる。
「とにかく、日記でも何でもいいから調べるか。戦争開始まであと二日あるんだし」
「ふつか?」
咲、結奈、凛の三人が同時に聞き返す。
織斗は不思議そうに、首を傾げる。
「二日だろ? 戦争開始は明後日だって隆也が言ってたけど」
「明後日って……」
「ちょ、父さん!」
「あ、ごめん。言い方が悪かったかも。電話があったのが一昨日で、あれから二日経ってるね」
「あれから二日? は?」
「織斗くん、二日間寝込んでたの」
「いや……え? ちょっと待て、一昨日から二日経ってて、つまり……」
織斗の頭の中で、一昨日から数えて明後日がいつか繋がった。
慌てて時計を確認する。
短い針が五の位置を指していた。
「戦争開始は今日の午後八時半、あと三時間半しかないよ」
咲に言われ、織斗は両手で頭を抱えた。
「はぁぁぁ! 起こせよ、お前ら!」
「あんた怪我してたじゃん」
「私は広くんを起こした時のトラウマがあるから、お兄ちゃんのこと起こすの嫌だった」
「ていうか、怪我して入院してる織斗くんを……無理に起こせないよね?」
「いや、待て。じゃあ、もし、俺が目を覚さなかったら……」
「女の子三人で戦うことになってたね。あ、そっちの方が絵面的によかったね」
ニコニコと微笑む隆也の場違いな言葉。
呆れて叫ぶことも出来なかった織斗が、頭を抱えて項垂れた。
「当主である俺を筆頭に神木ってどっか抜けてる……全体的にバカだよな」
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No.8.「日没 –おやすみ、日常– 」終了




