第69話 来客
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神木家玄関で織斗を出迎えたのは、咲だった。
ドアを開けた瞬間、待ち構えていたかのように、パタパタと織斗の元へ駆け寄る。
「おかえり、織斗くん、おかえり」
「……ただいま、咲」
めちゃくちゃ可愛いけど犬みたいだな、あ、これ言わない方がいいかも。と一瞬で自分脳内会議した織斗が、靴を脱いで廊下へ上がる。
「汚れたものある? 今脱いでいいよ!」
「いや……ズボン引っ張るなって! 咲おまえ、変なとこ成長したな。昔は裸って言葉聞いただけで狼狽えてたのに」
「そ、そういう卑猥な言葉使わないで!」
「言葉はダメなのに実際見るのはいいのかよ。わかんねー。それより、風呂入った?」
「私はまだ。織斗くんの後に入る」
「いやいや、入っておけって言ったろ? なにかあっても絶対、咲だけは外に出さないから」
織斗の言葉に、咲は反論できず苦笑いを返した。
先日のことだ。夜に行われる宿縁抗争、緋末の家臣が来る時には咲は獣の仮面をつけているが、その日は忘れていた。
ひと気のない住宅街、広の後ろにいた家臣の男がぽつりと一言、「かわいい」と呟いた。
目線は明らかに咲。あやめが慌てて咲とその男の間に入るが、彼はあやめを押しのけて咲に近づこうとした。
その日はすぐに解散となったがそれ以降、彼は毎晩のように広のあとをついて宿縁抗争にきた。
「あいつ、封印していいぞ。手助けしようか?」と、昼間の学校で広がぼそりと言う程、咲への執着が酷かった。
それ故にそれ以降、しばらく咲は参戦させないことにした。
「気にしなくていいのに」
「……咲、広とはどうやって友達になった?」
「え? 家まで送ってくれるって言うから、ついていって……」
「壁に押し付けられたな」
「あ、あれは! ダメだよって忠告してくれたんだよ!」
「警戒心ないんだよなー、田舎育ちだからだか知らないけど」
「警戒心と田舎育ちって関係あるの?」
呆れる織斗についてパタパタと廊下を走る咲。
リビングの扉を開ける前で、はっとした咲が織斗の手を掴んだ。
「だからお前さぁ、俺だからいいけど、気軽にこういうこと……」
「お客さんが来てるの」
「客?」
「織斗くんが出て行ったあとすぐに来て、だいたいの話は済ませてる」
「だいたいの話? なんの?」
「緋末とは夜に戦うとか、織斗くんが何も知らずに育ったとか」
「だからなんの話だよ、いいから風呂入れよ。俺、後でいいから」
カチャッと、織斗がリビングのドアを開ける。
目についたのは、ソファに座っている見慣れない人物。
「お、あんたが当主様?」
そこには二十歳くらいの若い銀髪の男がいた。
日本人とは思えない銀の髪、耳には大小様々なピアス、首には派手なネックレスがぶら下がっていた。
「うっわ、苦手なタイプ……」
心の声が漏れた織斗の背中を、咲が小突く。
「あー、えと……お客さんって」
「思ったより小せえな」
男はケラケラ笑い、立ち上がって織斗のそばに歩み寄る。
織斗よりも十センチ以上は背が高い、体格の良い男。
「でかけりゃいいってもんでもねーよ。老舗旅館の天井に頭ぶつけてろ」
「は?」
「昔の日本家屋は天井低いもんね! 織斗くんが知識のあるギャグいってる、すごい!」
「……なんだお前ら」
面倒くさそうにため息をつく男だが、元助の視線を感じてしゃがみ込んだ。
片膝をつき、深々と織斗に頭を下げる。
「初めまして、神木一族の常盤泰鷹と申します。術力解放を知り、この地に駆けつけました。あー、えっと、ナンバーズだっけ? それだから、俺」
「ナンバーズ? 俺がいなくても術使えるっていう……」
「ああ、そうっスね」
泰鷹が右手の小指にはめていた指輪を反対の指で撫でた。
他の指には銀色のオシャレな指輪がはまっているが、その指にしているものだけ異質だった。右手の小指、子ども向け玩具のようなプラスチックの黄色い指輪に、赤で小さく神木の呪印が刻まれている。
「解印」という泰鷹の言葉とともに泰鷹の手のひらから炎がでるが、その威力はひかえめですぐに消えて無くなった。
「まぁ、つーわけで、よろしくお願いします」
手をヒラヒラさせながらソファに戻る泰鷹。
織斗と咲は顔を見合わせ、ため息をついた。
「面倒くさそうなのがきたな」
「私は嫌いだけど、織斗くんはどうだろうね」
「嫌い?」
咲が他人に対してそこまで明言することは珍しい、というか織斗が知る中では初めてだった。
「咲、なんかあった?」
「なにかあったわけじゃないけど……織斗くん、お風呂入れば?」
「あぁ、いや、咲が入っていいよ」
「……ズボンに泥ついてるから、その格好で部屋に入って欲しくなかったんだよね」
「……早く言えよっ!」
慌ててベルトに手をかける織斗だが、はっとした咲に頬を叩かれた。
「ここで脱がないで! お風呂行って!」
追い出されるように、織斗は風呂場に向かう。
「いやいやいや、さっき俺のズボン脱がそうとしたよな?」
「初々しいわよねー、咲ちゃん」
上着のシャツを脱いだ時だった。鈴音のような可愛らしい声に振り返ると、鏡の前にあるコップの上に姫未が座っていた。
「ズボンはそのまま洗濯機に入れない方がいいわよ。この前、咲ちゃん怒ってた」
「……いや……おい、おい……」
「あ、そっか。恥ずかしい? ごめーん」
愉快そうに笑いながら、姫未がすーっと鏡の中に消えて行く。
唖然とそれを見ていた織斗だが、しばらくしたところでシャツで上半身を隠した。
「なに……なんなの? 俺の周りにいる女、みんなおかしくね?」
キョロキョロと辺りを見渡し、人の気配がないことを確認してから服を脱ぐ。
と、そのとき、ある事に気がついて再び鏡を見た。
「……姫未の姿、鏡に映らないんだな」
姫未が現れてしばらく経つが、初めて気が付いた事だった。




