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第67話 織斗と広



 同じ時、繁華街の通りで織斗は反対側からくる人とぶつかった。織斗がではなく、抱えていたトートバッグが、相手の腕にぶつかって荷物が地面に散乱した。


「あ、すみま……て、無視か!」


 顔すら見ていない。ぶつかった相手は織斗を気にする事なく、すたすたと歩き去ってしまった。

 織斗は地面に向き直り、散らばった荷物を集める。


「なんだよー、手伝うまではいかなくても気にはするだ……」

「独り言多くないか?」


 突然降ってきた声に顔を上げると、数学の問題集を織斗に差し出している広がいた。


「え、あれ? 広? なにしてんの?」

「こっちのセリフだけど。なに、勉強すんの?」


 目線を問題に落としながら、広がいう。まだビニールで包まれている、買ったばかりの問題集。


「……俺、お前に、テスト勉強しろって言ったんだけど」


 織斗は問題集を奪い取り、再び落ちた荷物を拾い集める。


「だから問題集買ってきたんだろ」

「いや、だから、学校のテストの勉強しろって言ってんだけど」


 しゃがみ込んで荷物を拾うのを手伝う広が、数学と生物の教科書を手に持った。

 じーっとそれを見つめ、織斗に向き直る。


「勉強するつもりだったんだ?」

神木家うち、今すげーうるせーんだよ。凛っていう電波のナンバーズが来てさぁ」

「あぁ、俺に発信機仕掛けてきたやつか」

「……筒抜けになってんな」

緋末家うちにも電波系いるからな。で、外で勉強すると?」

「中学校の時、一緒に勉強したとこあったじゃん。図書館あるところの自主室みたいなとこ」

「一緒にってか、俺が教えてただけだけどな。あそこ、予約しないと入れないぞ」

「えっ、そうなの?」


 荷物を拾い終え、立ち上がる織斗と広。


「じゃあ、中学の時は広が予約してくれてたの?」

「まぁ……」

「マジか! 知らなかった……」

「勉強するなら、予約しとくけど」


 広の言葉に、織斗がぱっと顔を上げる。広はスマホを取り出して少しいじった後、「三時からなら空いてる」と織斗に向き直った。


「え、マジか。広、時間大丈夫……てか、どっか行ってた?」

「あぁ、京都に行ってさっき帰ってきた」

「京都? 日帰りで?」

「本家行く時はいつも日帰りだから。で、どうする? マジで勉強するなら予約する」

「わっ、マジ! 助かる! よろしく!」


 織斗に言われ、広がスマホを操作する。その途中で、織斗は「やったー」と呑気な声を出した。


「勉強っていっても、どこからしていいかわかんなかったんだよなー」

「学校のテスト勉強に大学入試の問題集買ってくるレベルだもんな。ていうか、咲は?」

「咲? あぁ、なんかデートって」

「デート? ……いや、あやめだろ? じゃなくて、咲に勉強教えてもらえよ」

「やだよ。情けないじゃん、双子の妹に勉強教えてもらうとか。咲の前ではかっこいい兄ちゃんでいたい」

「馬鹿ってばれてるけどな。予約した」


 広がスマホ画面を織斗に見せる。


「まだ少し時間あるな。図書館寄って古典とかの……」

「あ、じゃあ俺、アメリカンバーガーにする」

「……何いってる?」

「え、時間あるからどっか寄るって言った」

「勉強しろよ、馬鹿」

「だって久々じゃん、広と二人で遊び行くの。高校入ってから一回もないし、中三の時は受験勉強で……もしかして、封印解いて俺が敵って気づいたせい?」

「…………」


 広は答えず、スマホを収めて鞄を抱え直した。


「三時までだからな? あんま時間ないからな?」


 踵を返して歩き出す広。

 織斗はケラケラ笑いながら、広の後を追った。





* - - - - - - - - - - - - - - -

No.6「最後の日常」終了

ここまで読んでくださりありがとうございます!

次からNo.7「花の名」になります。

花の名前を持つ子ですが、続く感じで『深夜編』に入ります。

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