第64話 初めての家臣が電波系少女
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放課後、織斗は一人で帰路を歩いた。咲は買い物がしたいからと一人で繁華街へ向かった。
迷子になるからついて行くと言った織斗の言葉を、咲は『いらない、邪魔になる』とぴしゃりと断った。
「可愛いんだけど日に日に毒舌になっていく……まさか、あやめに影響されてるんじゃ……」
咲があやめと仲良くしていることは織斗も知っていた。
週に何度か、放課後デートをしていると。
「成長早いなぁ。まぁ、咲に友達ができるのはいいことだな、あやめはいいやつだし……あやめは、いいやつ……だけど」
織斗に対する数々の暴言、毒舌を思い返して織斗はため息をついた。
「考えるのやめよう、帰ろう。今日は姫未もいるだろうし」
「呼んだ?」
急な声に振り向くと、肩に姫未が乗っていた。
「ひ、めみ! ビックリした、急に現れんなよ!」
「呼んだのは織斗でしょ? 一人で帰るの寂しそうだから、付き合ってあげる」
ニコニコと微笑む姫未。まんざらでもない織斗は、周りに人がいないことを確認して話を始める。
「寂しくねーよ、今までずっと一人だったし」
「よかったわね、賑やかになって」
賑やか、と織斗は思った。
確かに宿縁抗争が始まって結奈との交流が増えた。
咲も一緒に暮らすことになった。
神出鬼没で不在の方が多いが、家には姫未もいる。
「いいな、賑やかなの。こういう生活、俺の性に合ってる」
「あらそう? じゃあちょうどよかった」
姫未は両手を胸の前で鳴らし、ニコッと微笑む。
「また一人、同居人が増えるわよ」
「同居人?」
「神木の家臣を名乗る子が家に来てる。織斗より年下のナンバーズの女の子」
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女の子と聞いていたからてっきり小学生くらいだと思っていたが。
玄関のドアを開けた織斗を出迎えたのは、長い髪がふわふわした、眼鏡の女子中学生だった。
見覚えがある……というより今朝、織斗がぶつかった自作パソコンの少女。
「なに考えてんの、バカ当主!」
少女は開口一番罵りの言葉を告げ、織斗の胸ぐらを掴んで第二ボタンのあった場所を睨む。
「やっぱりない、とられてる!」
「盗聴器なら広が持ってった。俺の知らない間に盗聴なんかすんなよ」
「知らない間にするから盗聴って言うの! バカなの、あんた。それより広って、まさか緋末当主? 違うよね?」
「緋末当主の広だよ」
「はああぁぁ、やっぱりバカなのあんた!」
「うるせーな、バカバカ言うな」
「じゃあ、緋末の当主に盗聴器とられたってこと?」
「とられたんじゃない、あげたんだ」
「私が作った物を勝手に……盗聴器発見器作ったってやつ、中二って言ってなかった?」
「……クリアに聞こえてんな。そうだよ、中二のナンバーズ」
「私と同い年じゃん! 緋末にもそんなやついるんだ……」
「それより、お前何でここいんの? ……もしかして」
姫未の言葉を思い出し、織斗は少女を見た。
女の子、と呼べるほど幼いわけではないが確かに織斗より年下の。
「ナカムラリン」
「は?」
急に畏まった少女が床に膝をつき、頭を下げた。
「先に言っとくけど、あんたに敬意を示してるわけじゃないから。父さんが当主に会ったらこうしろって言うからやってるだけで……」
「どうでもいいよ。で、なに?」
「お初にお目にかかります、当主様。神木一族先代ナンバーズ中村隆の娘、中村凛です」
ぶっきらぼうに言い、凛が腰をあげる。
「てことで、しばらくこの家でお世話になるから」
「は? なんで勝手に……」
「元助様の許可は得てる。昨日も電話したでしょ? 聞いてないの?」
「……うちの爺は少し、ボケがはじまってるのかもな」
「あんたそれ、言葉そのまま元助様に伝えるからね?」
「やめてくれ、爺ちゃんうるさいんだ。今日だって……朝、今日は人が来るから早く帰れって言ってた気がする。うるさかったから、真面目に聞いてなかったけど」
「あんたが悪いんじゃん。私だって好きでここに来たわけじゃない、神木のイベントには参加しとかないと父さんがうるさいから」
「神木は解散しただろ」
「だから、私はナンバーズなの! ナンバーズは封印が解かれたら当主の元に集って力を貸さなきゃいけない、そういうルールでしょ!」
「いや、だから神木家はもうないって……待って、なんでおまえここの住所知ってんの? 一族がどこにいるかわからないって……」
「はぁ? 術力あるんだから、あんたの居場所くらいわかるし。それにうちの父さん、あんた父親のこと崇拝してたから」
「崇拝って……」
「とにかく! しばらくお世話になるから。あ、私の荷物漁らないでね? 勝手に触ったら寝てる間に感電死させる」
殺意のこもった目で織斗を睨み、凛はリビングに戻っていった。
「ほら、賑やかになったでしょ?」
姿を隠していた姫未が、ちょこんと織斗の肩に乗る。
「楽しくなりそうね」
「いや……こえーよ。寝てる間に感電死とか冗談でもやめてくれ」
唖然とする織斗の言葉に、姫未が声を出して笑った。
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その日の夜、織斗は久々に封印術を使った。宿縁抗争にきた術師は当主である広の他に一人、京都本家から来たという織斗たちより少し年上の男。
緋末の京都本家は家憲に厳しいという話は聞いた事がある織斗だが、目の前に現れた男は想像以上だった。過激派と呼ばれる神木を本気で恨み宿敵とみなし我を忘れたように襲いかかってくる緋末の家臣は稀にいたが、その人は自我が強すぎた。
『緋末家のために! 我ら緋末家が! 京都本家の繁栄のために!』
術力が暴走して化け物となっても未だ、その言葉だけははっきりと繰り返していた。
当初から広が咲に狙いを定めて対戦していたため、織斗はそれほど苦労せず相手を封印できた。が、封印術を終えて振り返ると広はもう戦っておらず、封印術の光を見守っていた。
「ごめん、ありがとうって、織斗に伝えといて」
咲に向かって一方的に告げ、帰ろうとする広だったが、
「広!」
織斗の声に捕まり、足を止めて振り返った。
「あっ、ごめん。緋末の当主?」
「家臣いないから別に、広でいいけど。いないってか、いなくなったというか」
「あ、封印してごめん」
「別に、それが普通だろ? うるさかったし」
完全に身体の向きを戻した広が、はぁーっと大きくため息をつく。
「で、なに?」
目に見えて機嫌が悪い、というより元気がない。織斗と咲は目を合わせ、再び広に向き直った。
「あのさ、明日はなしにしよう!」
「なし? ……は?」
「あ、だから夜の、宿縁抗争。来週から中間テストじゃん? だから……」
「あぁ……あー、確かに、理由になるな」
宙を睨んで考えていた広がうなずき、ようやく織斗たちに目線を向けた。
「いいぞ、それで。テスト終わるまでなしな」
「よしっ、じゃあ咲、帰ってゲームしよ……」
「織斗」
「織斗くん……」
広からは厳し目の、咲からは呆れたような、二人からの視線を受け、織斗は苦笑いで返す。
「大丈夫、勉強もするからちゃんと」
「勉強も?」
「だって俺、夜は戦うので忙しいし」
「だから来週までなしって話になってんだろ、馬鹿」
心底呆れた、というふうに広がため息を吐く。その様子が先ほどより和らいでいて、織斗と咲は再びちらっと目線を合わした。
「よし、じゃあ次は来週だな。あ、勉強はちゃんとするから!」
愉快そうに笑う織斗が広の肩を叩き、「じゃあ、また来週!」と踵を返して歩き出す。
広にぺこっと頭を下げて、織斗の後を追う咲。
不自然な様子を疑問に思った広が叩かれた箇所を手のひらでなぞり、次の瞬間、織斗を睨んだ。
「織斗、止まれ」
普段より低い、威圧するような広の声。
織斗だけでなく咲まで、ぴたりと動きを止めた。
「えーっと、なに? 俺、もう帰りたいんだけど」
「うん、少しだけ……話しようか?」
にこーっとはりつけたような作り笑顔。
身の危険を感じて逃げようとした織斗だが、両腕を掴まれて背中の後ろで拘束させられた。
「いたっ、痛いって、広!」
「なぁ、織斗、これ何?」
腕を拘束しているのと反対の手で、広は自分の肩についていた小型の機械を織斗の顔の前に持ってきた。
織斗はぱっと、わざとらしく目を逸らす。
「お、俺じゃない」
「へぇ、嘘つくんだ? この状態で?」
「……ごめんなさい。超小型盗聴器? です」
「超小型盗聴器?」
「昨日うちに来た神木のナンバーズのやつが、緋末の当主を見返したいから、仕掛けてこいって」
「へぇ、ナンバーズってことは神木の家臣だな?」
「家臣って言い方はアレだから……家族? 仲間?」
「呼び方なんてどうでもいい、ふざけんな」
ぐぃーっと織斗の腕を引っ張る広。涙目の織斗が「ごめん」と言うが、広は容赦しない。
「あ、広! 織斗くんね、頭が悪いの! 帰って勉強しなきゃだから!」
どうしようと迷った咲が、広の腕を掴む。
織斗は助かったという表情で咲を見て、次に広に目を向けた。織斗を拘束している本人、広は再び、作り笑顔を浮かべる。
「帰って勉強しないと思うんだ、こいつ」
「するする、するって! 今回はマジでがんばるから! 見逃して!」
「言ったな? 次点数低かったらマジで、もう一生助けないからな」
パッと、広が織斗の腕を離す。
解放された織斗は広に向き直り、コクコクと頷いた。
「あとこれ、もらっていいか?」
「小型盗聴器? いいけど、どうすんの?」
「調べさせる、うちの電波系に」
変わらない表情、緋末当主の本音を隠した偽りや笑顔。
織斗は頷くことしかできず、咲も同様に、その夜は解散した。




