第63話 緋末家家臣
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「てなことがあって、俺は遅刻したんだ!」
一時間目が終わってすぐ、織斗は広の席に向かった。
言い訳したところで、二十分も遅刻したことは変わらない。
実際のところ、理由は別のこと。駅前に猫溜まりがあって、寄り道したらうっかり電車を乗り過ごしたのだが。
「ふーん……面白いな」
頬杖をつきながら、呆れたように広が言う。
「よくできた作り話だ。今日が創作喜劇脚本のテストだったら九十八点をとれていただろう。残念だな、この高校にそんな授業なくて」
「本当なんだって! 自作のパソコン三台とタブレット持った中学生とぶつかって……」
「そこ」
「え?」
「その自作のパソコン三台ってのがおかしいんだよ。今時そんなやついないだろ。なんて筋トレゲームだよ」
「だからいたんだって、そんなやつが!」
「しかも自分で作れるなら、小さく一つにしてまとめて持ち歩けばいいだろ? なんで三台?」
「……実用と観賞用と保存用?」
「……残りの二台はいらないな」
反論の仕様がなくて黙る織斗。広は呆れて言葉が出なかった。
どうしようと悩み、織斗がポンっと手を叩く。
「あれじゃん。そういうの好きなやつは機械に囲まれてたら安心するっていうじゃん。広の周りにはそういう電波系のやついないの?」
「電波系って……まあ、そっち方面に詳しいやつなら身内にいる」
「身内って緋末の?」
「うちのナンバーズ。まだ中二だけど、機械系には詳しい。織斗も会ったことあるだろ? 電気の術使うやつ」
ちらっと広が見上げるが、織斗は不思議そうに顔を傾げただけだった」
「電気の術? え、どんな?」
「電圧を自由自在に操作できる力。織斗が術力手に入れてからすぐ、どんな人物か知りたいって戦闘仕掛けに行ったけど」
「電圧? え、全然知らない」
「覚えてないだけだろ。そういえばあの時おまえ、電気に対してスペード使ったらしいな?」
「電気に水? あ、水タイプは電気に弱いからダメなんだっけ?」
「弱いとかいう以前に死ぬぞ……」
呆れたようにため息をつく広。その時、織斗は広の手に指輪があることに気がついた。
「広、結婚したの?」
「は?」
「指輪……」
織斗の視線の先、広の左手人差し指には指輪がはまっていた。
広は「あぁ……」と、面倒臭そうにその指輪を外す。
「結婚指輪は薬指にするものだろ。これは今朝、うちの電波系に護身用にって渡された」
「いや……広に指輪ってやばくないか? 女子が騒ぐぞ。護身用ってそういうこと? 女避け?」
「そんなわけないだろ、機械系の護身」
広は指輪を外し、織斗に見せる。
一センチ幅の指輪の内側にびっちりと、小さな機械の部品が詰め込まれていた。
「すげ、なにこれ」
指輪を眺める織斗がそれに触れる。
その途端ビィィィーーーと、ブザー音のような警戒音が教室中に響いた。
「わっ、なに?」
織斗が指輪から手を離すと音はすぐに鳴り止んだ。
音の出所は特定されていなかったみたいで、生徒たちは教室のスピーカーに目をやったあと首を傾げ、すぐに教室は賑やかになった。
「なに今の音、俺がやった? え、広の指輪?」
「お前……」
広は織斗を凝視し、やがて腕を伸ばして織斗の制服のボタンを一つ引きちぎった。
上から二番目、今朝、少女に胸ぐらを掴まれたあたりのボタン。
「何すんだよ、広」
「……織斗、その中学生どんなやつだった?」
「えーっと、ふわふわ頭の……」
「ふわふわ頭はお前だろ、ふわふわというか空っぽというか」
「今そんな話してないよな! だからえっと、パソコン三台持った……」
「あぁ、なるほど。やられたな」
広はボタンを織斗に見せる。
ボタンの穴の中には小さくて丸い、黒い機械が埋め込まれていた。
「この指輪、盗聴器発見器らしいんだ」
「盗聴器発見器?」
「用途が限定的過ぎるし範囲も狭いし、役に立たないと思ってたけど……なんか今日、馬鹿みたいな出来事が多いな」
広はため息をつき、織斗のボタンに埋め込まれた盗聴器を見る。
「そいつの名前聞いたか?」
「いや、急いでたし……」
「これ、もらっていい?」
広は織斗のボタンを指で掴みながら言う。
いいよと答えると、広は鞄から小さな缶箱を取り出し、その中に盗聴器のついたボタンを入れた。
「いいんだけど……何すんの、それ」
「調べさせる。安心しろ、明日には犯人わかる」
「え、マジで……緋末の力?」
「電波系の力」
「……?」
「これくらいのこと、緋末使わなくても個人の力で調査できる」
「……俺、緋末っていうより広本人が怖い」
身震いしながらいう織斗に、広はにっこりと微笑んだ。




