第一話 祖父の長い話
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織斗が目を覚ましたのは、自室のベッドの上だった。
怠さの残る重い頭を押さえ、辺りを見渡すと勉強机に置いてある鉛筆立ての上に着物の少女が座っていた。
手のひらサイズの、小さな和装少女。
「おはよう、織斗」
「え、あ……おは、よう?」
「自己紹介してなかったわよね」
少女は鉛筆立てから飛び降り、ふわっと宙を舞って織斗の枕元に着地する。
「姫未っていいます。お姫様のヒメに、未来のミ」
「……神木織斗です」
名乗ってから、先程すでに名前を呼ばれていた事に気がついた。
どうして名前を知っているのかという疑問はあるが、寝起きでうまく考えることができない。
突き出された拳を同じように返そうと思ったが、姫未とでは手の大きさが違うので織斗は人差し指で応えた。
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リビングに行けと言われたのでそれに従うと、織斗の祖父である神木元助が椅子に座っていた。
「座りなさい」
いつもと違う厳格な雰囲気。
織斗は黙って祖父の向かい側の席に座る。
「なにから説明すべきか」
元助はこめかみを押さえ、深いため息をつく。
「姫未様とはどこまで話をした?」
「……姫未、さま?」
織斗の返答に、元助は全てを理解した。花瓶の上に腰掛けている姫未に目を向けると、彼女はバツの悪そうな顔で苦笑いしている。
「何も話しておらんのですか?」
「自己紹介は済ませたよ?」
その言葉に、元助は再びため息をついた。
やがて顔を上げ、不安そうな表情を浮かべる織斗に向き直る。
「いいか織斗、お前は今日から神木の当主だ」
「…………ん?」
唐突すぎて意味がわからない。
ぽかんと口を開ける織斗と、ケラケラ笑う姫未。元助はため息をつき、再び口を開いた。
「神木家は先祖代々続く術師の家系で、多い時は三百人近くの親族を管理していた。だが、本家から離れた遠縁の者にナンバーズが生まれることがないとわかってからは、規模を縮小して……」
「ちょ、ちょっと待って!」
元助の話を遮った織斗は、頭を抱えて話の内容を整理しようとした。
「えっと、まず、神木家が術師の家系? 爺ちゃんもトランプの技使えるって事?」
「昔は使えたが、今は無理だ。術力は二十五を迎える頃には消滅するし、主呪……トランプの正式名称だが、それの主と同じ世代の者しか術力は使えない。織斗、そのトランプどこで手に入れた?」
「どこって、京都で、修学旅行の時……」
「京都? くそっ、向こうの差金か。いや、術力は封印してたから神木の存在はバレてないはず」
「元助ー、織斗困ってるよ?」
一人でぶつぶつ呟いていた元助だが、姫未に言われ喋るのをやめた。
首を傾げる織斗に向き直り、話を続ける。
「術力を持つのは神木だけでない。同じように力を持ち、子孫にそれを繋いできた一族が、日本にもう一組いる。それが今日、お前を襲ったやつらだ。おおよそ千二百前と言われている、わしら神木と向こうの一族でいざこざがあり抗争を始めた。一代では決着がつかず因縁は子の代に引き継がれたが、またしても争いは終わらず次の世代そしてその次へ。そしていつしか、二族間の戦いは宿縁抗争と呼ばれるようになった……おい、聞いてるか?」
頬杖をつき目を瞑っていた織斗が、はっと顔を上げる。
「えっ、ごめんごめん、聞いてる!」
慌てて取り繕う態度に、元助が呆れて肩を落とす。
「全く、お前は。本来神木は由緒ある家柄で、ご先祖さま代々優秀な方ばかりだったんだぞ。お前の父親の悠斗も優秀で……」
「わかってる、わかってる! ちゃんと聞いてたって! え、でも俺、何も知らなかったんだけど」
「普通の生活を送ってほしい、それがお前の両親の願いだった」
「父さんと母さん?」
「子どもには宿縁抗争を引き継ぎたくない、何も知らないまま育てたいと悠斗はトランプを隠した、わしにすら告げずに。術力を手に入れるにはトランプ封印を解放する必要がある。次期当主の織斗が術力を手に入れなければ神木は誰も術が使えない。神木なんて苗字よくあるし、向こうの一族が術力を手に入れて術師の神木家を認知できる能力を持ったとしても、人口の多い東京まで引っ越してきたのだから大丈夫だろうと……そこまで考えて、悠斗はやっていたのに」
「えー、なんか、ごめんな。変なやつから変なトランプ受け取っちゃって」
「変なトランプなんて言うな! というか軽い! 大事な話をしてるんだぞ、なんだその軽さは!」
ケラケラと笑う織斗の態度に、元助がドンっと机を叩いた。
姫未は二人の様子を見て「あはははっ」と声を上げて笑っていた。




