第一話 死んじゃダメだろ、こんな事で
「なぁ! これ、キリがなくないか?」
張り上げた織斗の声に、和装少女はポンっと手のひらを顔の前で合わせた。
「ごめーん、忘れてた! 相手の体力がある程度減ったら、封印するの!」
「封印?」
「あんたが持ってるトランプの中に閉じ込める」
「閉じ込めるって……」
攻撃を続けながら、織斗はチラリと女性を見た。人間とは思えない容貌、だけどほんの数十分前までは普通の人間だった。
祖母を亡くしたと語った、喪服の女性。
「その子、もう人間には戻れないからね」
織斗の考えを読んで否定するかのように、少女が言った。
「力の弱い術師はこうやって身体を変形することでしか力を使えない。でもそれをやってしまえば、もう元の姿に戻ることはできない」
「術師? 力が弱い?」
「ああ、もう面倒くさい! とにかくジョーカー出して!」
「ジョーカー? えっと、絵柄を思い浮かべて」
「気をつけてよ? もう二度と私を封印しないで!」
「わかってる! つーかおまえ、やっぱ封印されて……ちょっと待て、封印するってことは、あいつをトランプの中に閉じ込めるのか?」
「その通り!」
「人間だろ、あいつ」
「あんた、さっき私を……まぁいいわ。それより、もう封印するしかないの。このままだとこの子死ぬわよ?」
少女が指さした先、女性の体は皮膚がポロポロと剥がれ落ち、髪も抜けていた。
ヒューと苦しそうに息を吐いてなお、織斗に襲いかかろうと腕を振り上げる。
「……死ぬのか?」
「力が弱まってる。術力はほとんど残ってないし、体力が尽きたらおしまいね。封印すれば、そこで浄化されるけど」
振り下ろされた腕を、織斗はいとも簡単に受け止めた。
時間が経つほどに女性の動きは鈍くなっていた。
「封印することが、こいつを助けることに繋がるってことだよな?」
「トランプの中は現世と切り離されるから、一定期間過ごせば浄化はされるわ。まぁ、助けるというか、言い方の問題もあるけど」
「……死んじゃダメだろ、こんな意味わかんねーことで」
女性が反対の腕を振り上げるが織斗まで届かず、その体は地面に崩れ落ちた。
『ヴゥッ……』
苦しそうに呻く、女性だったもの。
「遺言預かってるって、こいつ言ったんだ」
「え、なに? 遺言?」
「よくわかんねーけど、神木のなんちゃらに、復讐してくれって……婆さんに頼まれたって。たった一人の家族だった人に、死の直前に」
女性の攻撃を防ぎながら、織斗は唇を噛む。両親がいない、親戚もあまりいない織斗は、祖父に育てられた。
彼女の境遇と自分のそれを重ね、トランプケースに手をかける。
「復讐とか、過去の後悔ばかりに目向けてんじゃねーよ。自分の恨みを他人に託す婆さんにも腹立つけど……お前も鵜呑みにすんな、自分の人生なら、自分の意思で歩けよ」
織斗がケースを開くと、カードが一枚、指に触れた。それを取り出し、女性に向かって掲げる。
「封印」
言葉にすると同時、ジョーカーから淡い真っ白な光が飛び出した。
光は女性の身体を包み込み、やがて徐々に小さくなってシュッと一筋の道となりジョーカーの中へと吸い込まれていった
キラキラと、光の粒子だけが宙に舞う。
戦っていた女性の姿はもうない。
その時、公園の入り口に人影が現れた。
封印術の残像もあって織斗からは微かにしか見えなかったが、その人物は織斗が卒業した中学校の女子の制服を着ていた。腰まで伸びる艶やかなストレートの黒髪、漆黒の瞳の色。
女子中学生は目を伏せ、やがて公園を後にして織斗たちの前から姿を消した。
「向こうの一族の子ね」
織斗の肩に舞い戻ってきた、和装少女が呟く。
「向こうの一族?」
「あんたたち神木と同じように術力を血に宿し、子孫に代々伝えてきたもう一つの一族」
「……わけわかんねー! やっぱりわかんねー!」
どさっと、織斗は仰向けに地面に倒れ込む。
随分と時間が経っていた、夕焼けが空を赤く染めていた。
「ちょっと、寝ないでよ?」
「こんなとこで寝るわけないだろ」
そうは言いつつ瞼が重い。
「ねえ、ちょっと!」
少女の声が遠くなる。
まぁ、いいか、寝てしまおう。
頑張ったんだから、少しくらい……
そう思って、織斗は意識を手放した。




